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第2部 彼の優しさは嘘に見える
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からかうように言ってやったけど、内心はちょっとだけモヤモヤしていた。
“私だけじゃない”のかもしれない、なんて考えてしまう自分がいやだった。
でも次の瞬間、部長がそっと私の方へ体を寄せ、耳元で低く囁いた。
「……紗英だけよ。」
その一言に、息が止まりそうになった。
鼓膜に触れるような距離と声。
ふざけているようで、どこか本気の響きを含んでいた。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
(……ずるい。こんな言い方、反則だ)
言葉が出てこなくて、私はただ黙ってエレベーターの扉が閉まるのを見つめていた。
私だけ——。
その一言が、頭の中で何度も繰り返されていた。
エレベーターの扉が静かに開いて、桐生部長は何事もなかったように降りていく。
その後ろ姿を、つい目で追ってしまう。
(……ほんと、スーツが似合う。)
見とれていたのも一瞬——のはずだったのに。
「……あっ。」
気づいた時にはもう遅い。
エレベーターの扉が、私を残してゆっくり閉まっていった。
なんてドジ。
慌てて「開」ボタンを押そうとした瞬間、扉がまた音もなく開いた。
そこには、腕を組んだ桐生部長の姿。
「何してる。」
低く静かな声が、やけに胸に響く。怒ってる……?
「す、すみませんっ。」
恥ずかしさで顔が熱くなりながら、私は急いでエレベーターを降りた。
「案外、ドジだな。」
半分あきれたように、でもどこか楽しそうに笑う声。
「すみません……」
再び小さく謝ると、彼の影がふっと近づいた。
距離が近い。というより、近すぎる。
そして、耳元で低く囁かれた。
「俺がついてないと、ダメ?」
その言葉に、心臓が跳ね上がる。
冗談のようで、でも目は本気。
返す言葉が見つからなくて、私はただその顔を見つめ返すしかできなかった。
「嘘だよ。」
桐生部長はふっと笑って、スタスタと歩き始めた。
「紗英は、しっかりしてるから。俺がいなくても、大丈夫だもんな。」
その背中に向かって、私は小さく首を振った。
でも声のほうが先に出ていた。
「……そうでもないです。」
あっ、と自分でも思った。言うつもりじゃなかったのに。
口から滑り落ちたその言葉に、心臓がドクンと鳴る。
部長の足が止まり、ゆっくりと振り返る。
「行きましょう、イタリアン。」
そう言った私の声は、ほんの少し震えていたかもしれない。
“私だけじゃない”のかもしれない、なんて考えてしまう自分がいやだった。
でも次の瞬間、部長がそっと私の方へ体を寄せ、耳元で低く囁いた。
「……紗英だけよ。」
その一言に、息が止まりそうになった。
鼓膜に触れるような距離と声。
ふざけているようで、どこか本気の響きを含んでいた。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
(……ずるい。こんな言い方、反則だ)
言葉が出てこなくて、私はただ黙ってエレベーターの扉が閉まるのを見つめていた。
私だけ——。
その一言が、頭の中で何度も繰り返されていた。
エレベーターの扉が静かに開いて、桐生部長は何事もなかったように降りていく。
その後ろ姿を、つい目で追ってしまう。
(……ほんと、スーツが似合う。)
見とれていたのも一瞬——のはずだったのに。
「……あっ。」
気づいた時にはもう遅い。
エレベーターの扉が、私を残してゆっくり閉まっていった。
なんてドジ。
慌てて「開」ボタンを押そうとした瞬間、扉がまた音もなく開いた。
そこには、腕を組んだ桐生部長の姿。
「何してる。」
低く静かな声が、やけに胸に響く。怒ってる……?
「す、すみませんっ。」
恥ずかしさで顔が熱くなりながら、私は急いでエレベーターを降りた。
「案外、ドジだな。」
半分あきれたように、でもどこか楽しそうに笑う声。
「すみません……」
再び小さく謝ると、彼の影がふっと近づいた。
距離が近い。というより、近すぎる。
そして、耳元で低く囁かれた。
「俺がついてないと、ダメ?」
その言葉に、心臓が跳ね上がる。
冗談のようで、でも目は本気。
返す言葉が見つからなくて、私はただその顔を見つめ返すしかできなかった。
「嘘だよ。」
桐生部長はふっと笑って、スタスタと歩き始めた。
「紗英は、しっかりしてるから。俺がいなくても、大丈夫だもんな。」
その背中に向かって、私は小さく首を振った。
でも声のほうが先に出ていた。
「……そうでもないです。」
あっ、と自分でも思った。言うつもりじゃなかったのに。
口から滑り落ちたその言葉に、心臓がドクンと鳴る。
部長の足が止まり、ゆっくりと振り返る。
「行きましょう、イタリアン。」
そう言った私の声は、ほんの少し震えていたかもしれない。
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