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第3部 戸惑いと、意識の始まり
③
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「確か……有名なCMに出てた子でしょ? 会社の近くのレストランで見かけたって、誰かが言ってた。」
「へぇ、そうなんですか。」
私の声は、自分でも驚くほど冷静だったけれど、胸の奥では何かがざわめいていた。
桐生部長は、口元に笑みを浮かべたまま、言った。
「そうだったかもな。でも、モデルとは合わなかったよ。」
「え? なんでですか?」
上林さんが驚く。
「綺麗すぎて、現実味がなかった。見てる分にはいいけど、隣にいても落ち着かなかったな。」
そう言った彼の視線が、ほんの少しだけ、私に向けられている気がした。
胸の鼓動がまた早くなる。
「でも、付き合ってたんですよね。」
思わず口に出してしまったその一言に、自分でも驚いた。
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
桐生部長は一瞬、視線を私から外して、グラスの氷をくるくると回した。
「……そうだったかな。」
「また桐生部長。そうやって、はぐらかすのが女泣かせの所以なんですよ。」
上林さんが楽しそうに茶化す。
「続かなかったからさ。」
彼は静かにそう言った。その横顔は、少しだけ寂しげに見えた。
「でも付き合ってたってことは、その時は本命だったってことですよね?」
上林さんは容赦ない。
酔っているのか、本気なのか、ぐいぐい攻める。
「相手に付き合ってって言われてね。」
そう言った時の部長の声は、なんだか遠くを見ているようだった。
「きゃあ!モデルに告白されるなんて!ほんとにドラマみたい!」
上林さんは手を叩いてはしゃいでいる。
だけど私は、笑えなかった。
“告白されて付き合った”
それだけの一言なのに、どうしてこんなに心がざわつくんだろう。
私は――部長にとって、ただ誘われるだけの存在?
それとも、まだ“落とせない女”でいられているのだろうか。
そんなふうに、自分でも答えの出せない気持ちが胸をかき乱していた。
上林さんの冗談に付き合っていると、桐生部長が私にウィンクした。
「えっ……」
「お手洗い、そろそろタイミングだと思うよ。」
「ああ、ありがとうございます。」
そう言って私はトイレに向かった。
トイレでは女子達が桐生部長の話をしている。
「桐生部長、モデルと付き合ってたって。」
「やっぱり……あの顔で、あの仕事ぶりだもん。そりゃモテるよね。」
「そりゃモテるよね。」
パウダールームには、華やかな笑い声と香水の匂いが満ちていた。
鏡の前でお化粧を直す女子たちが、楽しそうに桐生部長の話題で盛り上がっている。
「へぇ、そうなんですか。」
私の声は、自分でも驚くほど冷静だったけれど、胸の奥では何かがざわめいていた。
桐生部長は、口元に笑みを浮かべたまま、言った。
「そうだったかもな。でも、モデルとは合わなかったよ。」
「え? なんでですか?」
上林さんが驚く。
「綺麗すぎて、現実味がなかった。見てる分にはいいけど、隣にいても落ち着かなかったな。」
そう言った彼の視線が、ほんの少しだけ、私に向けられている気がした。
胸の鼓動がまた早くなる。
「でも、付き合ってたんですよね。」
思わず口に出してしまったその一言に、自分でも驚いた。
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
桐生部長は一瞬、視線を私から外して、グラスの氷をくるくると回した。
「……そうだったかな。」
「また桐生部長。そうやって、はぐらかすのが女泣かせの所以なんですよ。」
上林さんが楽しそうに茶化す。
「続かなかったからさ。」
彼は静かにそう言った。その横顔は、少しだけ寂しげに見えた。
「でも付き合ってたってことは、その時は本命だったってことですよね?」
上林さんは容赦ない。
酔っているのか、本気なのか、ぐいぐい攻める。
「相手に付き合ってって言われてね。」
そう言った時の部長の声は、なんだか遠くを見ているようだった。
「きゃあ!モデルに告白されるなんて!ほんとにドラマみたい!」
上林さんは手を叩いてはしゃいでいる。
だけど私は、笑えなかった。
“告白されて付き合った”
それだけの一言なのに、どうしてこんなに心がざわつくんだろう。
私は――部長にとって、ただ誘われるだけの存在?
それとも、まだ“落とせない女”でいられているのだろうか。
そんなふうに、自分でも答えの出せない気持ちが胸をかき乱していた。
上林さんの冗談に付き合っていると、桐生部長が私にウィンクした。
「えっ……」
「お手洗い、そろそろタイミングだと思うよ。」
「ああ、ありがとうございます。」
そう言って私はトイレに向かった。
トイレでは女子達が桐生部長の話をしている。
「桐生部長、モデルと付き合ってたって。」
「やっぱり……あの顔で、あの仕事ぶりだもん。そりゃモテるよね。」
「そりゃモテるよね。」
パウダールームには、華やかな笑い声と香水の匂いが満ちていた。
鏡の前でお化粧を直す女子たちが、楽しそうに桐生部長の話題で盛り上がっている。
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