誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –【完結】

日下奈緒

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第7部 本気の夜、ふたりの距離

だが一条さんは、倒れたまま、冷笑を浮かべた。

「彼女は――感じてましたよ。」

「……!」

「可愛かった。俺に、甘えてた。」

「そんなわけあるかっ!」

隼人さんの怒声に、私の心が引き裂かれそうになる。

「紗英は……俺を、愛してるのに……!」

そのときだった。

私は、棚の隙間からそっと顔を上げてしまった。

目が合った。

桐生部長――隼人さんの瞳が、私を捕らえる。

「紗英……」

その一言に、私の胸は締めつけられた。

「そんなところにいたのか。……もう帰ろう。」

隼人さんが、私のもとへ手を伸ばす。

けれど――

私は、そっと首を横に振った。

「私……」

声が震える。

何を言おうとしているのか、自分でも分からなかった。

「私……一条さんに……」

一条さんが、倒れたまま私を見上げる。

隼人さんも、静かに手を下ろす。

言葉が出ない。

胸の奥が、ぐしゃぐしゃになっていた。

「付き合おうって。」

一条さんが立ち上がり、隼人さんの方を睨みつけるようにして言った。

「そう。俺たち、付き合ってるんです。だから……愛し合ったんです。」

私の心がズキリと痛む。

でも、それは――罪悪感の痛みだった。

桐生部長……隼人さんは、静かに手を下げた。

「そうか……でも、それでも――俺には、紗英しかいない。」

低く、深く、胸の奥に響く声だった。

「……おまえしか、いないんだ。」

その目が私をまっすぐに捉える。
怒りも憎しみもない。ただ、深い愛情が滲んでいた。

涙が、溢れた。

「……帰ろう。紗英。俺たちの家に。」

その一言で、私は気づいた。

この人は、私を信じている。

過ちさえも、受け止めてくれる覚悟がある。

私は、ゆっくりと歩き出した。

一歩、また一歩と、隼人さんの方へ。

「紗英……行くな!!」

一条さんの声が背中から響く。

振り返らなかった。

私は、ただまっすぐに――

桐生部長の胸に飛び込んだ。

「……帰りましょう。」

「……ああ。」

強く抱きしめられたその胸に、私は顔をうずめる。

心の中のざわめきが、ゆっくりと溶けていった。

私は早退扱いにしてもらい、ふらふらと会社を出た。

自分の体調が悪いのか、心が崩れているのかも、もう分からなかった。

ビルの前に、車が停まっていた。

運転席には、隼人さん――桐生部長の姿。

私を見つけると、すぐに降りてきて、無言でドアを開けてくれる。

何も言わずに乗り込み、ドアが閉まった瞬間、私は震えた声で言った。

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