月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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その事もあってか、しばらくは水遊びも禁止になって、暑い体を、女中が扇ぐ羽で、凌ぐしかなかった。

「なあ。ネシャは、元気なんだろうか。」

「はい。水遊びの一件以来も、お変わりはないと、伺っております。」

俺はよくネシャートと遊んでいた、木製の車輪を、手に取った。

転がして走っていた俺の後を、ネシャートが付いて来ていたっけ。

「ネシャ。もう一緒に、遊べないのかな。」

俺に兄弟は、一人しかいなかったから、ネシャートが女の子でも、一緒にいたかったのかもしれない。

いつもは王子なのだからと、どこに行くにも女中達と一緒だったけれど、ネシャートと遊んでいる時は、母上も側にいたから、家族と一緒の時間を過ごしているようで、とても安らげたんだ。


「あの、ジャラール王子。」

女中が、俺に話しかけた時だった。

庭の茂みの中から、何かが飛び出してきた。

「うわああ!」

「ジャラール王子!」

数人の女中が、俺に覆い被さった。

「何者じゃ!」

女中が叫んだ後、“えっ……”と言ったのを、俺は見逃さなかった。

そっと、女中の腕と腕の間から、その出て来たモノを見た。

「ネ、ネシャ!!」

驚いた事に、飛び出してきたのは、ネシャートだったんだ。

俺は女中の間をくぐり抜けて、ネシャートの元へ。


「ネシャ。母上は?」

「いない。」

「一人で来たのか?」

「うん。」

「どうして、そんな事!危ないじゃないか!」

「だって……おにいと、遊びたい。」


キョトンとしているネシャートは、ただ俺と一緒に遊びたいが為に、部屋を飛び出して来たと言うのだ。

「ああ!おにいの車!」

いつも一緒に遊んでいた、あの車輪を見つけたネシャートは、ここぞとばかりに手に持って、転がし始めた。

「おにい!どう!」

「あ、うん……」

「おにいも、やろうよ!」

無邪気に走り回るネシャートを見て、俺は後ろから抱き締めた。

「おにい?」

「うん。」

「遊ぼうよ、おにい。」

俺はネシャートを、自分の方に振り向かせた。

「ネシャ。おにいと一緒に遊ぶのは、楽しい?」

「うん!」

「これからもずっと、おにいと一緒にいたい?」

「うん!」


自分と一緒にいたいと思ってくれる人が、側にいる。

それがとても、嬉しかったんだね。


「おにい、泣いてるの?」

「……泣いてないよ。」

「でも、目から涙が出てるよ。」

そう言ってネシャートは、両手で俺の目を押さえてくれた。

「ネシャ、これは何?」

「泣いてないのに、涙が出るのは、痛いモノが入っているからだって、母上が言っていた。」

ネシャートは、真剣な顔で俺の涙が止まるように、手を押さえてくれた。

それが小さいくせに温かくて、また涙が出てきた。

「おにい、痛いの?」

「ううん。」

「じゃあ、何で泣いてるの?」

「ネシャが、優しいからだよ。」
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