月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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もちろん、大木に手綱を結び付けるなど、初めての事。

近くにあるハーキムの結び方を身ながら、見よう見真似でやってみたが、結べない。

そのうち、駱駝が暴れだす。

「ほらほら。駱駝が逃げる前に、結び方を教えて下さいと、私に頼んだらどうですか?」

「なにぃ?」

俺の方から、教えて下さいと、頼む?

しかも、目下に???


「どうしますか?駱駝に逃げられたら、歩いて帰るしかありませんよ?」

あくまで、俺を乗せて帰る素振りも見せない、ハーキム。

仕方なく、結び肩をハーキムに、教えて貰う事にした。

「ハーキム。手綱の結び方を、教えて貰えぬか?」

「教えて下さい、ですよね。」

「っ……っ……っ……」

言葉にならない反論が、口から出た。


「あー。早くしないと……」

「分かった!ハーキム!教えてほしい。頼む。この通りだ。」

俺はハーキムの前で、両手を合わせた。

「仕方ありませんね。」

仕方ない?

侍従が主人に教えてほしいと言われ、仕方がない?

何様なんだ!

こいつは!!


「それでは、ジャラール様。手綱を両手にお持ち下さい。」

「お、おう。」

「左手の方を輪にし、その輪の中に、右手の手綱をいれます。」

「こうか。」

俺は、ハーキムに教わった通り、手綱を動かした。

「ああ、そうです。そして輪の中を通した手綱を、今度はこうして……」

ハーキムは、私が追い付くまで、何度も何度も、見せてくれた。

おかげで手綱の結び方は、一日でマスターした。


「これで、駱駝は確保できますね。」

ハーキムの、ほっとした表情が、何とも嬉しかった。

「続いて、火を起こします。」

「まだあるのか!」

「そうですよ。明るいうちに薪を取り、火を付けないと、夜中野獣に襲われて、命を落としかねません。」

「ええっ!?」


そんな危険な森なのか。

初めて知った。


「大丈夫なのか?」

俺は前後左右、何度も何度も見た。

「大丈夫かどうかは、己次第でございます。」

息が詰まり、何も言えなくなった。

今まで、女中やお付きの者に、守られていた事を、思い出した。


「まずは、火を起こす為、薪を集めましょう。」

薪、薪?

俺はそこいら辺に落ちている、小枝を拾い集めた。

「小枝を集めるのは、重要な事です。が、基本ではありません。」

俺よりも2歳年上の、12歳だと言うのに、何だこの物知りの上の、落ち着き振りは!

俺はハーキムを観察しながら、もっと大きな木を、探した。

「ああ、ありました。」

俺よりも先に見つけたのは、ハーキム方だった。

「残りは落ち葉を、集めて下さい。」

俺にそう言って、ハーキムはその大きな木を、駱駝の近くまで運んだ。


おいおい。

俺一人で、落ち葉を集めろと言うのか?

冗談じゃないぞ。

俺は、この国の王子なんだぞ!
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