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Ⅰ
⑨
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その時、クスッと言う笑い声が、聞こえた。
えっ?ハーキムが笑った?
「まずは、一等星からになるでしょう。」
どうやら、聞き違いだったらしい。
「一等星は遠征の際、何も見えなくなる夜の、目印になりますから。」
「ふーん。」
「ふーんとは、人事のように。この国の、唯一の王子であるあなた様が、そんな事でどうするのですか。」
この国、唯一の……ね……
俺はすかさず、顔を手で仰ぎながら、ハーキムに背中を向けた。
「王子とは、遠征に行かなければ、ならぬのか。」
「積極的に、戦いに行く必要は、ございません。ただ……」
「ただ?」
「他国に攻め入られた時には、この国を守る為、戦わなければならぬ事も、あるでしょう。場合によっては、遠征になる事も……」
パチッパチッと、木が燃える音がする。
「私が……軍を率いるのか。」
「やがては、そうなります。」
「できるか?私に。」
「できる、できないではありません。やって頂くしか、ないのです。」
急に肩が、重く感じた。
この時の俺は、10歳。
戦いの“た”の字も知らぬ、子供だった。
「ジャラール様、ご安心下さい。」
「ん?」
「あなた様が戦いに出られる時は、このハーキムが、お側におります。あなたのお命は、必ず守りきって見せます。」
こんな事を言われたら、ほとんどの人は、“頼り甲斐のあるいい侍従だ”なんて、言うのかもしれないが。
もう一度言うように、この時のハーキムは、12歳。
そんな事言われたって、信じられる訳がない。
だから早々に、話を変えた。
「一等星を覚えるのは、大変か?」
「そんなに多くはないので、あなた様なら、覚えきれるでしょう。」
「何に役立つのだ。」
「場所、方向。そして、希望。」
「は?」
一番そんな事を、言いそうにないのに。
「暗闇の中では、誰もが迷い、生気を失います。そんな時の拠り所になるのです。」
また“ふーん”と言ったら、ハーキムに怒られるから、別な答え方を考えた。
「分かった。」
うん、これでいい。
「さて、ジャラール様。そろそろ、休憩を私と代わっていただけますか?」
「えっ?」
驚き過ぎて、体を起こしてしまった。
「お話をしている間に、夜明けまであと数時間。よろしいかな。」
「あ、ああ……」
結局一睡もできなかったけれど、まさか寝るなとは、言えないし。
俺は火の側に座り、ハーキムに寝るように言った。
「では、失礼します。」
ハーキムの寝方は、独特だった。
剣を抱き、後ろの大木に寄りかかり、目を瞑るだけ。
そんな事で、本当に眠れるのか。
火を見ながら、そんな事ばかりを、思っていた。
しばらくして、手足が急に寒くなるのを、感じた。
ハッとすると、火が消えている。
ぼーっと火を見ているうちに、俺はウトウト眠ってしまっていたんだ。
まずい、火を着けなければ。
落ち葉がないか、辺りを見回した。
えっ?ハーキムが笑った?
「まずは、一等星からになるでしょう。」
どうやら、聞き違いだったらしい。
「一等星は遠征の際、何も見えなくなる夜の、目印になりますから。」
「ふーん。」
「ふーんとは、人事のように。この国の、唯一の王子であるあなた様が、そんな事でどうするのですか。」
この国、唯一の……ね……
俺はすかさず、顔を手で仰ぎながら、ハーキムに背中を向けた。
「王子とは、遠征に行かなければ、ならぬのか。」
「積極的に、戦いに行く必要は、ございません。ただ……」
「ただ?」
「他国に攻め入られた時には、この国を守る為、戦わなければならぬ事も、あるでしょう。場合によっては、遠征になる事も……」
パチッパチッと、木が燃える音がする。
「私が……軍を率いるのか。」
「やがては、そうなります。」
「できるか?私に。」
「できる、できないではありません。やって頂くしか、ないのです。」
急に肩が、重く感じた。
この時の俺は、10歳。
戦いの“た”の字も知らぬ、子供だった。
「ジャラール様、ご安心下さい。」
「ん?」
「あなた様が戦いに出られる時は、このハーキムが、お側におります。あなたのお命は、必ず守りきって見せます。」
こんな事を言われたら、ほとんどの人は、“頼り甲斐のあるいい侍従だ”なんて、言うのかもしれないが。
もう一度言うように、この時のハーキムは、12歳。
そんな事言われたって、信じられる訳がない。
だから早々に、話を変えた。
「一等星を覚えるのは、大変か?」
「そんなに多くはないので、あなた様なら、覚えきれるでしょう。」
「何に役立つのだ。」
「場所、方向。そして、希望。」
「は?」
一番そんな事を、言いそうにないのに。
「暗闇の中では、誰もが迷い、生気を失います。そんな時の拠り所になるのです。」
また“ふーん”と言ったら、ハーキムに怒られるから、別な答え方を考えた。
「分かった。」
うん、これでいい。
「さて、ジャラール様。そろそろ、休憩を私と代わっていただけますか?」
「えっ?」
驚き過ぎて、体を起こしてしまった。
「お話をしている間に、夜明けまであと数時間。よろしいかな。」
「あ、ああ……」
結局一睡もできなかったけれど、まさか寝るなとは、言えないし。
俺は火の側に座り、ハーキムに寝るように言った。
「では、失礼します。」
ハーキムの寝方は、独特だった。
剣を抱き、後ろの大木に寄りかかり、目を瞑るだけ。
そんな事で、本当に眠れるのか。
火を見ながら、そんな事ばかりを、思っていた。
しばらくして、手足が急に寒くなるのを、感じた。
ハッとすると、火が消えている。
ぼーっと火を見ているうちに、俺はウトウト眠ってしまっていたんだ。
まずい、火を着けなければ。
落ち葉がないか、辺りを見回した。
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