月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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すると林の奥から、動物の唸り声が、聞こえてきた。

「静かに。」

寝ていたはずのハーキムが、目を瞑りながら、剣に手を掛けていた。

「野犬です。火が消える事を、待っていたのでしょう。」

俺は、ゾッとした。

「ハーキム、すまん。私が……」

「謝っている場合ではありません。ジャラール様、剣をお持ち下さい。」

「あ、ああ!」

俺は急いで、荷物の側に置いてある、剣に手を伸ばした。

その時黒い塊が、私の前を横切る。

「うわっ!」

「ジャラール様!」

気がついたら、剣は遠くに飛ばされ、俺の目の前には、目が金色に光る大きな野犬が、唸りをあげていた。

「あ、……」

「ジャラール様、早くこちらに!」

後ろから、ハーキムの声がする。

怖くなって、振り向きながら走ると、野犬が俺の足の服に、噛みついてきた。

「離せ!離せぇ!」

足で野犬を蹴ろうにも、服に歯が食い込んでいるのだから、無理に決まっていた。

そして一瞬、離れたと思うと、今度は俺の上半身に、飛び掛かってきた。

殺される!

そう思った時だ。

「ギャッ!」

野犬の断末魔が、側で聞こえた。

俺の足元に、野犬の血が流れ出す。


「大丈夫ですか?ジャラール様。」

「……ハーキム。」

一匹の無惨な姿を見た後、夜明けも相まってか、残りの野犬は、唸りをあげながら逃げて行く。

その様子を見送った後、ハーキムは俺の腕を掴み、起こしてくれた。


「刀を手から離すとは、何事ですか。」

「……すまん。」

「敵に背中を向けて逃げるとは?野犬に離せと仰っても、無駄な事は分からなかったのですか?」

「……すまん。」

「何よりも、火を絶やすとは、基本中の基本が、なっておりません。」

「……すまない。ハーキム。」

終始、謝ってばかりの俺だったが、ハーキムがいなければ、血が溢れ出していたのは、あの野犬ではなく、俺の方だった。

「これで、お分かり頂けましたね。」

「えっ?」

俺は顔を上げた。

「戦うと言う事が、如何に血生臭く、危険で恐ろしいモノだと言う事を……」

俺は、うんと頷いた。

「それが分かれば、今回の野宿は、成功でした。」

そう言うとハーキムは、荷物をまとめて、駱駝に乗せた。

「さあ、帰りましょう。」

「ああ。」

ハーキムの言う通り、荷物もまとめて、俺も駱駝に乗った。


元はと言えば、宮殿の脇の森の中なのだから、数百メートルしか離れておらず、俺は傷心のまま、宮殿に着いた。

塀の脇から入ると、そこは庭になっていて、色々な花が咲き乱れていた。

「あっ!お兄様!」

その花畑の中から、ネシャートが手を振っている。

いつもだったら、手も降り返せるが、今だけはネシャートと、顔を合わせたくない。

「お兄様?」

不思議に思ったネシャートは、どんどん、こちらに近づいてくる。
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