16 / 56
Ⅱ
②
しおりを挟む
大体、会った事もない女の事、あーだこーだと語る方がおかしい。
それにしても、ネシャートがアラブの中でも、1・2を争う美しさとは。
一番近くにいて、知らなかった。
そんな事を思っていると、タイミング良く、ネシャートに会った。
「ごきげんよう、ジャラール王子。」
侍女だと言うラナーと共に、挨拶した。
「元気そうだね、ネシャート。」
「はい。有り難うございます。」
ネシャートは、あの一件以来、次期国王としての心構えを、みっちり仕込まれているらしい。
そして、俺の事もお兄様ではなく、“王子”と呼べと、父上と母上に言われたらしい。
その日の夜は、本当に大変だった。
もう夜中だと言うのに、俺の寝室に駆け込んで来て、泣きながら『どうしてどうして?』と、叫ぶばかり。
どうやら父上も母上も、ネシャートの兄ではない事を、教えていないらしい。
父上も母上も教えていない事を、俺が教えていいものか迷ったが、知らない限りは、こうして何度も夜中に訪ねてくるだろう。
一国の姫君が、夜中男の部屋に入っていくところを見られたら、それこそ結婚相手が見つからないどころか、次期国王の座も、危うくなってくる。
心を決めて、俺はネシャートに事実を伝えた。
「ネシャート。私が今から言う事、気を確かに持って、聞いてほしい。」
「お兄様?」
「私は、ネシャートの実の兄ではないのだ。」
「えっ?」
「父上と母上、両方血が繋がっていない。私は本当の母上、前王妃が他国の王に連れ去られた時、孕ませられた卑しい人間なのだ。」
ネシャートは、目を大きく開けて、驚いていた。
「だからもう私の事は、お兄様と呼ぶな。父上と母上が仰るように、王子と呼べ。」
そう言うと俺は、驚き過ぎて声も出せなくなっているネシャートの背中を押し、自分の部屋から出してしまった。
しばらくは入り口の側で、ネシャートの泣き声が聞こえていたが、兄ではない以上、近づく事も許されない。
俺にできる事があるとすれば、その入り口の側に座り、ネシャートが泣き終わるまで、その場にいる事しかできなかった。
「ジャラール王子?」
「あ、ああ。」
物思いに耽るのは、一人の時間が長いせいか。
「そう言えばそなたは、アラブの中でも1・2を争う美姫だそうだな。知っていたか?」
「知りませぬ。そんな事を言う輩が、おいでなのですか?」
ふと、ハーキムのワクワクした顔が、思い浮かんだ。
「そう言うな。それを楽しみにして、生きている者もおるのだ。」
ハーキムが可哀想だから、とりあえずフォローしておいた。
「それを言うなら、ジャラール王子の方です。」
「私が?」
「はい。アラブの中で1・2を争う美少年だと……」
思わず戸を開けて、振り向いたネシャートと、顔を合わせてしまった。
それにしても、ネシャートがアラブの中でも、1・2を争う美しさとは。
一番近くにいて、知らなかった。
そんな事を思っていると、タイミング良く、ネシャートに会った。
「ごきげんよう、ジャラール王子。」
侍女だと言うラナーと共に、挨拶した。
「元気そうだね、ネシャート。」
「はい。有り難うございます。」
ネシャートは、あの一件以来、次期国王としての心構えを、みっちり仕込まれているらしい。
そして、俺の事もお兄様ではなく、“王子”と呼べと、父上と母上に言われたらしい。
その日の夜は、本当に大変だった。
もう夜中だと言うのに、俺の寝室に駆け込んで来て、泣きながら『どうしてどうして?』と、叫ぶばかり。
どうやら父上も母上も、ネシャートの兄ではない事を、教えていないらしい。
父上も母上も教えていない事を、俺が教えていいものか迷ったが、知らない限りは、こうして何度も夜中に訪ねてくるだろう。
一国の姫君が、夜中男の部屋に入っていくところを見られたら、それこそ結婚相手が見つからないどころか、次期国王の座も、危うくなってくる。
心を決めて、俺はネシャートに事実を伝えた。
「ネシャート。私が今から言う事、気を確かに持って、聞いてほしい。」
「お兄様?」
「私は、ネシャートの実の兄ではないのだ。」
「えっ?」
「父上と母上、両方血が繋がっていない。私は本当の母上、前王妃が他国の王に連れ去られた時、孕ませられた卑しい人間なのだ。」
ネシャートは、目を大きく開けて、驚いていた。
「だからもう私の事は、お兄様と呼ぶな。父上と母上が仰るように、王子と呼べ。」
そう言うと俺は、驚き過ぎて声も出せなくなっているネシャートの背中を押し、自分の部屋から出してしまった。
しばらくは入り口の側で、ネシャートの泣き声が聞こえていたが、兄ではない以上、近づく事も許されない。
俺にできる事があるとすれば、その入り口の側に座り、ネシャートが泣き終わるまで、その場にいる事しかできなかった。
「ジャラール王子?」
「あ、ああ。」
物思いに耽るのは、一人の時間が長いせいか。
「そう言えばそなたは、アラブの中でも1・2を争う美姫だそうだな。知っていたか?」
「知りませぬ。そんな事を言う輩が、おいでなのですか?」
ふと、ハーキムのワクワクした顔が、思い浮かんだ。
「そう言うな。それを楽しみにして、生きている者もおるのだ。」
ハーキムが可哀想だから、とりあえずフォローしておいた。
「それを言うなら、ジャラール王子の方です。」
「私が?」
「はい。アラブの中で1・2を争う美少年だと……」
思わず戸を開けて、振り向いたネシャートと、顔を合わせてしまった。
3
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
魔族の花嫁に選ばれた皇太子妃
葉柚
恋愛
「ロイド殿下。お慕い申しております。」
「ああ。私もだよ。セレスティーナ。」
皇太子妃であるセレスティーナは皇太子であるロイドと幸せに暮らしていた。
けれど、アリス侯爵令嬢の代わりに魔族の花嫁となることになってしまった。
皇太子妃の後釜を狙うアリスと、セレスティーナのことを取り戻そうと藻掻くロイド。
さらには、魔族の王であるカルシファーが加わって事態は思いもよらぬ展開に……
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる