月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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美少女と美少年。

お互いを見ても、見飽きているせいか、こんなモノかと思ってしまう。

「……なんか、ピンとこないな。」

「左様でございますね。」

二人の会話を聞いて、ネシャート付きの侍女、ラナーが大笑いをしていた。

「お二人とも、贅沢でございますね。」

「贅沢?」

「他の方は、お二人を目的に、この国を訪ねたがっていると言うのに。」

「ええ?」

俺とネシャートで、不信な顔をしたものだから、ラナーの笑いは、終わる事を知らなかった。


「この国を訪れる商人は皆、ジャラール王子とネシャート様のお美しさのお話で、持ちきりです。そして自分の国も帰った後、今度は宮殿でそのお話を、されるのです。」

なんと言う迷惑な話だとは思ったが、ラナーやハーキムの表情を見ていると、それを楽しみにしている者がいると、改めて思うわけで。

自分では美少年だと言われても、何の事か分からなくなるが、ネシャートを見ると、そう噂をする者の気持ちも、分からなくはない。

だが問題は、ネシャートだった。

「へえー。それは、来年の成人の儀が、楽しみですこと。」

「う、ん?」

「さぞかし、アラブ中のお美しい姫君達が、ジャラール王子をお心を掴む為に、最高に美しく着飾って、来るのでしょうね。」

たっぷりの嫌みと一緒に、ネシャートはそう言った。

「嫉妬か?」

「そんなモノは、ありません。」

「顔が怖くなっているぞ。」

「呆れているのです。」

あー言ってはこー言う。

俺はネシャートと、にらめっこをした。


「お二人とも、仲のよろしいですね。」

その様子を面白がっているのは、ネシャート付きの侍女、ラナーだった。

「そうか?」

「はい。ケンカする程、仲がいいと言うでは、ありませんか。」

俺とネシャートは、またにらみっ子しながら、お互いの顔を背けた。


「さすがネシャート様が、会えないと寂しいと仰る方ですね。」

「えっ……」

ラナーの発言に、俺が戸惑う。

「もう!ラナーったら。」

「隠さなくても、大丈夫ですよ。ネシャート様が、ジャラール王子を慕っていらっしゃる事は、私は存じ上げております。」

その言葉に、ネシャートの顔が、赤くなるのを見た。

それを見て、俺の顔も、赤くなる。


「そうだ。ジャラール王子、もし宜しければ、今夜遊びに来ませんか?」

「ラナーの元へ?」

「シーッ!」

ラナーは、口元に人差し指を当てた。

「ネシャート様を、私の部屋で待たせておきます。そうすれば、誰にも怪しまれずに、お二人で会う事ができますでしょう?」

俺はネシャートと、顔を合わせた。

「ですが……ラナーに、有らぬ噂が立っても、申し訳なく思います。」

「そうだ。来たばかりだと言うのに、私が通っているとなったら……」

するとラナーは、胸をドンッと叩いた。

「お気になさいますな。その時は、その時です。逆にそう言う事になれば、お二人のカモフラージュになるでしょう。」
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