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Ⅲ
④
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「ジャラール様っ!」
俺が宮殿に戻るのを、ハーキムが後から追いかけてくる。
そして、階段を昇りきったところで、侍従がやってきた。
「ジャラール王子。どうしても、ジャラール王子にお会いしたいと申す者がおります。如何なさいますか?」
「誰だ?私にそのような者は、まだおらぬと思うが。」
「はい。実は……宮殿で働く厨房の者でして……」
「厨房の者?」
もしかして、まかり間違って、俺に『夕食の献立は、何がいいでしょうか?』なんて、聞いてくるのか?
俺は不思議に思いながら、侍従と一緒に、厨房に行った。
「ああ、ジャラール様!」
俺を呼んだのは、小太りな親父と、細長い婦人だった。
「そなたか?私に用があると言うのは?」
「申し訳ございません。お忙しいのに。実は、家内が男の子を産みまして。」
よく見ると、婦人は小さい赤子を抱いていた。
「恐れ多いと存じますが、この子がジャラール王子のように、強くて優しい男に育つように、抱いてやってほしいのです。」
「なんだ、そんな事か。お安いご用だ。」
俺は誰にも聞かず、婦人が抱いている赤子を、受け取った。
俺を見て、目を輝かせている赤子。
ネシャートが赤子の時に、抱いた事はあるが、俺も小さかったから、直ぐに取り上げられてしまった。
「名は、なんと申すのだ?」
「それは……」
二人とも、答えづらそうだった。
「どうした?答えてみよ。」
「はい。実は、王子と同じ名前でございます。」
「そうか。この赤子も、ジャラールか。」
自分と同じ名前の者に会った事はないが、不思議な感覚だった。
しばらく抱いた後、婦人に赤子を返し、私達は部屋へと戻ってきた。
「よくお抱きになりましたね。」
「抱くくらい何ともないだろ。それに……」
「それに?」
「王子とは、希望の星なんだろ?断ったら、がっかりされるではないか。」
「それもそうですね。」
そう言って、ハーキムと一緒に、笑い合った。
その頃だった。
俺の成人の儀を祝う為に、舞踊団がこの国を訪れていると言う話を、ハーキムから聞いた。
「さすがはジャラール王子!」
「どうしてだ?」
「今回訪れた舞踊団は、西洋一と評されているみたいですよ。そのような舞踊団が、ジャラール様の成人の儀をお祝いさせてくれだなんて。」
ハーキムがこんなにはいしゃいで見せるのは、あの美姫の話以来だ。
「どんな踊り子なんでしょうね。」
「どんな?」
「胸の大きい者でしょうか。それとも、お尻?いや、腰の括れた踊り子……」
俺は思いきって、日頃思っている事を、ハーキムにぶつけた。
「なあ、ハーキム。ハーキムの好みの女と言うのは、そういう者なのか?」
「はい!」
元気よく、ハーキムは答える。
「分からぬ。ラナーは、そのような女では、ないではないか。」
しばらく、ハーキムと見つめ合う。
「それとこれとは、違います。」
俺が宮殿に戻るのを、ハーキムが後から追いかけてくる。
そして、階段を昇りきったところで、侍従がやってきた。
「ジャラール王子。どうしても、ジャラール王子にお会いしたいと申す者がおります。如何なさいますか?」
「誰だ?私にそのような者は、まだおらぬと思うが。」
「はい。実は……宮殿で働く厨房の者でして……」
「厨房の者?」
もしかして、まかり間違って、俺に『夕食の献立は、何がいいでしょうか?』なんて、聞いてくるのか?
俺は不思議に思いながら、侍従と一緒に、厨房に行った。
「ああ、ジャラール様!」
俺を呼んだのは、小太りな親父と、細長い婦人だった。
「そなたか?私に用があると言うのは?」
「申し訳ございません。お忙しいのに。実は、家内が男の子を産みまして。」
よく見ると、婦人は小さい赤子を抱いていた。
「恐れ多いと存じますが、この子がジャラール王子のように、強くて優しい男に育つように、抱いてやってほしいのです。」
「なんだ、そんな事か。お安いご用だ。」
俺は誰にも聞かず、婦人が抱いている赤子を、受け取った。
俺を見て、目を輝かせている赤子。
ネシャートが赤子の時に、抱いた事はあるが、俺も小さかったから、直ぐに取り上げられてしまった。
「名は、なんと申すのだ?」
「それは……」
二人とも、答えづらそうだった。
「どうした?答えてみよ。」
「はい。実は、王子と同じ名前でございます。」
「そうか。この赤子も、ジャラールか。」
自分と同じ名前の者に会った事はないが、不思議な感覚だった。
しばらく抱いた後、婦人に赤子を返し、私達は部屋へと戻ってきた。
「よくお抱きになりましたね。」
「抱くくらい何ともないだろ。それに……」
「それに?」
「王子とは、希望の星なんだろ?断ったら、がっかりされるではないか。」
「それもそうですね。」
そう言って、ハーキムと一緒に、笑い合った。
その頃だった。
俺の成人の儀を祝う為に、舞踊団がこの国を訪れていると言う話を、ハーキムから聞いた。
「さすがはジャラール王子!」
「どうしてだ?」
「今回訪れた舞踊団は、西洋一と評されているみたいですよ。そのような舞踊団が、ジャラール様の成人の儀をお祝いさせてくれだなんて。」
ハーキムがこんなにはいしゃいで見せるのは、あの美姫の話以来だ。
「どんな踊り子なんでしょうね。」
「どんな?」
「胸の大きい者でしょうか。それとも、お尻?いや、腰の括れた踊り子……」
俺は思いきって、日頃思っている事を、ハーキムにぶつけた。
「なあ、ハーキム。ハーキムの好みの女と言うのは、そういう者なのか?」
「はい!」
元気よく、ハーキムは答える。
「分からぬ。ラナーは、そのような女では、ないではないか。」
しばらく、ハーキムと見つめ合う。
「それとこれとは、違います。」
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