月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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「違う!?」

「見るだけって事ですよ。どうせ見るだけなら、見目麗しき者……」

ハーキムが、そう言いかけた時だ。


侍従が、俺の部屋を訪れた。

「ジャラール王子。国王様がお呼びでございます。」

「分かった。」

ハーキムは話を遮られ、面白くない顔をしている。

「残念だったな、ハーキム。」

「国王がお呼びとあれば、致し方ございません。」

そして笑いながら、国王のいる王の間に向かった。


「父上、参りました。」

「おお、ジャラール。」

国王に手招きされ、俺は隣の椅子に座った。

「ジャラール。この者達は、西洋一と名高い舞踊団だ。」

「噂は聞いております。」


そうか。

この者達が。

よくよく見ると、体の大きい者、小さい者。痩せている者、太っている者、子供から大人まで、いろんな者達が属していた。

特に女達は皆、良い体つきをしていた。

ちらっと、俺の隣に立つハーキムを見ると、鼻の下を伸ばしている。

飽きぬ男だ。

「ご機嫌、麗しゅうございます、ジャラール王子様。お会いできて、嬉しく思います。」

「私もだ。そなた達の躍りを見る事ができ、嬉しく思うぞ。」

「はい。」

すると舞踊団の皆は、下げていた頭を、今度は床に着く程に下げた。

顔は一切、見えない。

「ジャラール。そなたの成人の儀で、躍りを披露したいと申しているのだが、如何致す?」

「父上が、目にしたいと仰るなら、ぜひ招きましょう。」

「はははっ!そなたの儀式じゃ。そなたが決めよ。」

父上は、目を細めて笑っておられた。


思えば父上だって、俺が生まれた時、男であった為にどれほど喜ばれ、自分の血筋ではないと知り、どれほど落胆されたか分からない。

その上、次に生まれたのは女の子で、その後王妃は子供を成さなかったのだから、俺がいる事で、少しでも安らぎになって貰えばいい。


「では、所望してもよろしいですか?」

「ああ、いいだろう。」

すると父上は舞踊団に、俺の成人の儀への参加と、それまでの3ヶ月間、この国の敷地内での舞踊を、許すと宣言した。


そうか。

1度だけの為に、こんな大勢で来る訳がないか。

それを売りに、金を稼ぎに来たのだな。


「そこの者、名は何と申すのだ?」

先程挨拶をした細身の男に、名前を尋ねた。

「はい。テラーテと申します。」

「テラーテ。この国に滞在している間は、どこで寝泊まりするのだ?」

「はい。空き地でも探して、テントを張ろうと思っております。」

「空き地にテント!?」

俺はその時、数年前にハーキムと行った、森の中の野宿を思い出した。


あの後は運がいいのか、野犬と会う事は少なくなったけれど、あの時の事は、半分トラウマのように残っている。

「父上、如何でしょうか。宮殿の西側に空いている敷地を、この者達に貸しては?」

「おお、そうだな。あそこであれば、一団でテントを張れるし、野犬に襲われる心配もない。」
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