月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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ハーキムにお礼を言い、俺はまた星の間に向かった。

不思議と、アリアに会いたいとは、思わなかった。

一人になりたかった。

どこに向けたら良いか、分からないこの気持ちを、一人で受け止めたかった。


そして、王の間の長い廊下を出て、階段を昇ろうとした時だ。

目の前に、階段を降りてくるネシャートを、見つけた。

その凛とした佇まいは、昔と変わらない。

「ネシャート。」

呼び掛けると、顔を上げたネシャートは、瞬く間に笑顔をになった。

「ジャラール王子!」

服の裾を持って、階段を颯爽と降りて来た彼女。

俺に会えて、嬉しいと言う顔をされると、こっちまで嬉しくなる。

「今日は、どちらへ?」

「ああ、ちょっとそこまで。」

ネシャートには、星の間に行く事を、あまり知られたくない。


「そう言えば、ネシャート。君は、結婚の話は進んでいるのか?」

急に尋ねられて、さっきまでの笑顔が消えた。

「いいえ。私にはそのようなお話、全くありません。」

「そうか。」

たぶん、俺が他国に行ったら、どこかの姫を妻に迎えるのだろう。

そうなれば、気になるのはネシャートの行く末だ。

できれば、自分の意に叶った男と、そうでなくても、ネシャートを幸せにしてくれるような男と、一緒になって貰いたい。

それが、ネシャートを愛した俺の、唯一の願いだった。


「……ジャラール王子は、どこの国へ行くのか、お決まりになったのですか?」

俺はもう少しで、ため息が出そうになった。

知らぬは俺だけで、俺以外の皆は、その話を知っているのだから。

「いや……俺の方も、決まってはおらぬ。」

「そうでしたか……」

ネシャートの気持ちが、痛い程分かった。

何故って?

思う事は、一緒だと知っているから。


「できれば、我が国と友好を結んでいる国が、いいですね。」

「そうか?」

「敵対する国であれば、ジャラール王子の、気が休まりません。」


他国に行くかもしれない俺の事を、ネシャートは自分の事のように、考えてくれている。

俺達は、どんなに離れていても、お互いの事を想っている。

気持ちはずっと、繋がっているんだ。


「ネシャート。俺の事は、気にするな。」

「ジャラール王子。」

「それよりも……」

名残り惜しそうに、ネシャートの頬に、そっと右手で触れた。

これで、ネシャートに触れるのも、最後だ。

「君が、誰よりも幸せになる事を、祈っているよ。」

ネシャートの瞳の中に、俺が写っている。

それだけで、幸せだ。


「それでは、また……」

ネシャートから手を離し、今度はいつ会えるかも分からず、ネシャートの横を通り過ぎた。

「ジャラール王子!」

呼び止められて、振り返りそうになった時、後ろからネシャートの温もりを感じた。

「ネシャート……」

「また、お会いできますよね。」

俺はネシャートを見た。
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