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Ⅳ
⑦
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こうなると、原因は分かっている。
ハーキムが大事な話を、俺に伝えていないのだ。
戻ってきたハーキムを、仁王立ちで迎える。
「ハーキム。俺に言う事があるだろう。」
「な、何の事でしょう。」
目を合わせないようにしているのを見ると、益々怪しい。
「言え、ハーキム。今だったら、許してやる。」
「えーっとですね……」
「ハーキム!」
久しぶりに大きな声を出した俺に、ハーキムは怯えている。
「……本当に、怒らないですか?」
「ああ。俺も男だ。」
本当に怒らないかは、話を聞いてみないと分からないが、まずは話をさせる事が、先決だ。
「……話を聞いて、騒がないですか?」
「騒ぐ?俺が騒ぎ立てるような、話なのか?」
「恐らく……」
俺が騒ぐ話?
何なんだ?
「分かった。騒がない。」
「本当ですね。」
「ああ。」
内心ワクワクしながら、ハーキムの話を待った。
「実は……国王より。」
「父上から?」
ハーキムは、言いたくなさそうだが、俺が話す事を待っていると知って、深呼吸を一度した後、話し始めた。
「ジャラール様を、他の国の王子として、差し出すと仰せです。」
「なに!?」
俺が、他の国へ?
「国王は、このままジャラール様が、この国の臣下として埋もれてしまう事を、大変嘆いていらっしゃいます。他で、跡継ぎの無き国、婿を探している国があれば、ジャラール様をその君主として、迎い入れてほしいと。」
いつか見た国王の、優しい眼差しが、思い出される。
「父上は、俺が邪魔なのか?」
「そうでは、ありません!ジャラール様の才能を、買っておいでなのです。」
俺は何も言わずに、階段に座った。
「それは、いつぐらいに決まるのか?」
「私の勝手な予想ですが、成人の儀をお迎えになったあたりかと。」
15歳になった俺は、この国からお払い箱と言う事か。
「なぜ、黙っていた?ハーキム。」
「申し訳ありません。」
ハーキムは、直ぐに頭を下げた。
「この国の王子として、日々鍛練に精を出すジャラール様を見ていますと、言い出す事ができませんでした。」
「そう……か……」
ハーキムは、俺が“何でそんな話に、なっているんだ!!”と、怒るのだと思っていたんだろう。
でも、結果は逆だった。
騒がないと、ハーキムに約束したからではない。
ああ、そうか。
俺は、他国に行かせられるのかと思うと、これまで頑張ってきた事が、全部無駄のように思えて、力が抜けていくようだったんだ。
他国に行くのなら、この国の決まり事など、勉強する必要はないじゃないか。
他国に行くのなら、この国の兵士を動かすだけの、剣術の訓練など、必要ないじゃないか。
俺は、だんだん可笑しくなって、小さく鼻で笑っていた。
「ジャラール様?」
「有り難う、ハーキム。話してくれて。」
ハーキムが大事な話を、俺に伝えていないのだ。
戻ってきたハーキムを、仁王立ちで迎える。
「ハーキム。俺に言う事があるだろう。」
「な、何の事でしょう。」
目を合わせないようにしているのを見ると、益々怪しい。
「言え、ハーキム。今だったら、許してやる。」
「えーっとですね……」
「ハーキム!」
久しぶりに大きな声を出した俺に、ハーキムは怯えている。
「……本当に、怒らないですか?」
「ああ。俺も男だ。」
本当に怒らないかは、話を聞いてみないと分からないが、まずは話をさせる事が、先決だ。
「……話を聞いて、騒がないですか?」
「騒ぐ?俺が騒ぎ立てるような、話なのか?」
「恐らく……」
俺が騒ぐ話?
何なんだ?
「分かった。騒がない。」
「本当ですね。」
「ああ。」
内心ワクワクしながら、ハーキムの話を待った。
「実は……国王より。」
「父上から?」
ハーキムは、言いたくなさそうだが、俺が話す事を待っていると知って、深呼吸を一度した後、話し始めた。
「ジャラール様を、他の国の王子として、差し出すと仰せです。」
「なに!?」
俺が、他の国へ?
「国王は、このままジャラール様が、この国の臣下として埋もれてしまう事を、大変嘆いていらっしゃいます。他で、跡継ぎの無き国、婿を探している国があれば、ジャラール様をその君主として、迎い入れてほしいと。」
いつか見た国王の、優しい眼差しが、思い出される。
「父上は、俺が邪魔なのか?」
「そうでは、ありません!ジャラール様の才能を、買っておいでなのです。」
俺は何も言わずに、階段に座った。
「それは、いつぐらいに決まるのか?」
「私の勝手な予想ですが、成人の儀をお迎えになったあたりかと。」
15歳になった俺は、この国からお払い箱と言う事か。
「なぜ、黙っていた?ハーキム。」
「申し訳ありません。」
ハーキムは、直ぐに頭を下げた。
「この国の王子として、日々鍛練に精を出すジャラール様を見ていますと、言い出す事ができませんでした。」
「そう……か……」
ハーキムは、俺が“何でそんな話に、なっているんだ!!”と、怒るのだと思っていたんだろう。
でも、結果は逆だった。
騒がないと、ハーキムに約束したからではない。
ああ、そうか。
俺は、他国に行かせられるのかと思うと、これまで頑張ってきた事が、全部無駄のように思えて、力が抜けていくようだったんだ。
他国に行くのなら、この国の決まり事など、勉強する必要はないじゃないか。
他国に行くのなら、この国の兵士を動かすだけの、剣術の訓練など、必要ないじゃないか。
俺は、だんだん可笑しくなって、小さく鼻で笑っていた。
「ジャラール様?」
「有り難う、ハーキム。話してくれて。」
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