月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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こうなると、原因は分かっている。

ハーキムが大事な話を、俺に伝えていないのだ。

戻ってきたハーキムを、仁王立ちで迎える。


「ハーキム。俺に言う事があるだろう。」

「な、何の事でしょう。」

目を合わせないようにしているのを見ると、益々怪しい。

「言え、ハーキム。今だったら、許してやる。」

「えーっとですね……」

「ハーキム!」

久しぶりに大きな声を出した俺に、ハーキムは怯えている。

「……本当に、怒らないですか?」

「ああ。俺も男だ。」

本当に怒らないかは、話を聞いてみないと分からないが、まずは話をさせる事が、先決だ。

「……話を聞いて、騒がないですか?」

「騒ぐ?俺が騒ぎ立てるような、話なのか?」

「恐らく……」

俺が騒ぐ話?

何なんだ?

「分かった。騒がない。」

「本当ですね。」

「ああ。」

内心ワクワクしながら、ハーキムの話を待った。


「実は……国王より。」

「父上から?」

ハーキムは、言いたくなさそうだが、俺が話す事を待っていると知って、深呼吸を一度した後、話し始めた。


「ジャラール様を、他の国の王子として、差し出すと仰せです。」

「なに!?」

俺が、他の国へ?

「国王は、このままジャラール様が、この国の臣下として埋もれてしまう事を、大変嘆いていらっしゃいます。他で、跡継ぎの無き国、婿を探している国があれば、ジャラール様をその君主として、迎い入れてほしいと。」


いつか見た国王の、優しい眼差しが、思い出される。


「父上は、俺が邪魔なのか?」

「そうでは、ありません!ジャラール様の才能を、買っておいでなのです。」

俺は何も言わずに、階段に座った。

「それは、いつぐらいに決まるのか?」

「私の勝手な予想ですが、成人の儀をお迎えになったあたりかと。」

15歳になった俺は、この国からお払い箱と言う事か。


「なぜ、黙っていた?ハーキム。」

「申し訳ありません。」

ハーキムは、直ぐに頭を下げた。

「この国の王子として、日々鍛練に精を出すジャラール様を見ていますと、言い出す事ができませんでした。」

「そう……か……」

ハーキムは、俺が“何でそんな話に、なっているんだ!!”と、怒るのだと思っていたんだろう。

でも、結果は逆だった。

騒がないと、ハーキムに約束したからではない。


ああ、そうか。

俺は、他国に行かせられるのかと思うと、これまで頑張ってきた事が、全部無駄のように思えて、力が抜けていくようだったんだ。

他国に行くのなら、この国の決まり事など、勉強する必要はないじゃないか。

他国に行くのなら、この国の兵士を動かすだけの、剣術の訓練など、必要ないじゃないか。

俺は、だんだん可笑しくなって、小さく鼻で笑っていた。


「ジャラール様?」

「有り難う、ハーキム。話してくれて。」
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