月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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「どうだった?私の躍り。」

「とても素晴らしかったよ。と、言いたいところだけど。」

俺はさっき返された上着を、またアリアに羽織らせる。

「やっぱり、そんな衣装を着て、あんな大勢の男の前で、踊ってほしくない。」

「ははは!」

アリアは、大きな口を開けて笑った。

宮殿では、女性は大きな口を開けて、笑うものじゃないと、いろんな女の子が、怒られていたけれど。

アリアは、それすらもチャーミングに見えた。

「ジャラール、妬いているのね。観客に。」

「そうかもしれない。」

「可愛い!」

アリアは、俺の頬にキスをくれた。

ちょっと、複雑な気持ちになる。


「この後、夕食をみんなで食べるんだけど、ジャラールも来ない?」

「いいの?行って。俺、邪魔にならない?」

「邪魔になるんだったら、最初から誘わないでしょ。」

アリアは、俺が行くって言っていないのに、手を引いてテントへと向かう。


「この前、ジャラールが私に会いに来たでしょう?それからね。みんな、ジャラールに会いたいって、言ってたのよ。」

そんなに皆が言うんだったら、行ってもいいかなって、ふと思った。

「さあ、着いたわよ。」

テント村の中央には、広場があって、そこに薪を燃やす場所があった。

その時俺はなぜか、ハーキムと時々行く、野宿生活を思い浮かべた。

「まだ火が炊かれていないのね。皆は厨房かしら。」

アリアはキョロキョロと、辺りを見回す。


「おい、アリア。」

背の低い男が、近くにやってきた。

「火を着けるから、少し離れていろ。って、誰だ?その男。」

アリアは、軽く咳をした。

「みんなが会いたがっていた、ジャラールよ。」

「おお!おまえがか!」

おまえって、君も挨拶に来たのに、俺の事覚えてないんだな。

背の低い男は、薪を燃えた跡に置いた。

「アリアの男にしては、いい男だな。服もいいモノを着ているし、金持ちか?」


俺は目をパチクリさせる。

この舞踏団の人達は、同じ事を聞いてくるのか?

「……まあ、そこそこ。」

「そうかそうか。」

背の低い男は、嬉しそうに薪を組み始めた。


「ボルーボ。私は少し厨房に行ってくるわ。ジャラールをお願いね。」

「分かった、アリア。」

そしてアリアは俺を置いて、どこかへと走って行ってしまった。

ここで何もせずに、アリアを待つ訳にも行かない。

「手伝います。」

「えっ?できるのか?ジャラール坊っちゃん。」

なんだその、坊っちゃんって。

そう思いながら、近くに落ちている薪を拾った。

「少しだけなら、教わった事があるので。」

「へえ、そうかい。」

ボルーボさんが置いた薪の上に、拾った薪を組む。

そして辺りに落ちていた、葉っぱや小枝を、一番下の空洞の部分に入れた。

「火をお願いします。」

「ああ、そうだな。」

ボルーボさんが、小枝に火を着けると、上手い具合に火は燃え上がった。
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