53 / 56
Ⅳ
⑬
しおりを挟む
「さすがだな。教えた奴がよかったんだな。」
「はははっ……」
頭の中に、ハーキムの顔が浮かぶ。
「ところでよ、ジャラール坊っちゃんは、家を継ぐのか?」
家を継ぐ?
それって、父上の跡を継ぐって事なのかな。
「……いいえ。」
「だったら、嫁にする女は、ある程度自由が利くんだろ。アリアを、幸せにしてやってくれよ。」
俺は、ボルーボさんを見た。
「見ると、坊っちゃんもアリアの事、満更でもなさそうじゃないか。相思相愛なら、何も文句はねえ。」
何も、ボルーボさんには言えなかった。
アリアとは、一緒にいたい。
でも、アリアを妃の一人に、迎えられるかどうかなんて、まだ子供の俺には、分からない。
「あの、髪の長い男がいるだろう?」
ボルーボさんが指差した場所を見た。
「あっ……」
前にアリアに会いに来た時に、アリアは仕事でいないと、教えてくれた男だ。
「トルトって言うんだ。アリアの幼馴染みだ。」
程よい筋肉が付いていて、腰まである長い髪を、一つに束ねていた。
「アリアに惚れている。」
「えっ?」
改めてその、トルトさんを見た。
子供達と一緒に遊んでいるトルトさんは、とても優しそうだ。
「最初は、どこのどいつか分からない相手に、アリアを渡せないと、いつも言っていた。だが、あんたがアリアを訪ねて来たのを見て、考えが変わったらしい。」
「……俺が来てから?」
「坊っちゃんの様子を見て、お互いが好き合っているんだったらと、思ったらしい。みんなそうだ。みんなアリアを、子供のように、妹のように、姉のように慕っている。だからこそ、アリアに幸せになってほしいんだ。」
俺は周りにいる人達を、一人一人、見ていった。
いろんな人が、そこにはいた。
みんな何かしらの芸を観客に見せて、それで生計を立てている。
言うなれば、大所帯の家族みたいなものだ。
「まあ、答えは急がねえよ。見たところ、まだ若いしな。」
トルトさんは、そんな事を言うと、また自分の仕事に戻って行った。
一人残された俺は、明かりが灯った広場の中央に腰掛け、何となく舞踏団の皆を、見ていた。
食事を用意する者。
舞台の掃除をする者。
壊れた服を修復する者。
みんな、生き生きと働いている。
「ジャラール!」
アリアが、嬉しそうに近寄って来た。
「今日はご馳走だって。楽しくなるわ。ジャラールは、お酒飲む?」
「……少しなら。」
「あら、飲めないの?」
「まだ飲み始めて、間もないんだ。最初からそんなに、飲めないよ。」
本当は、成人の儀が終わらないと、お酒は飲んではいけないのだけど、ハーキムが『今から飲み慣れていないと、成人の儀で急に倒れてしまう可能性も。』と言っても、少しずつ飲ませてくれていたんだ。
「そうだ!兄さんに会った?」
「兄さん?ああ、さっきテントの外に、来ていた人?」
「ふふふ。今のところ、声だけね。」
「はははっ……」
頭の中に、ハーキムの顔が浮かぶ。
「ところでよ、ジャラール坊っちゃんは、家を継ぐのか?」
家を継ぐ?
それって、父上の跡を継ぐって事なのかな。
「……いいえ。」
「だったら、嫁にする女は、ある程度自由が利くんだろ。アリアを、幸せにしてやってくれよ。」
俺は、ボルーボさんを見た。
「見ると、坊っちゃんもアリアの事、満更でもなさそうじゃないか。相思相愛なら、何も文句はねえ。」
何も、ボルーボさんには言えなかった。
アリアとは、一緒にいたい。
でも、アリアを妃の一人に、迎えられるかどうかなんて、まだ子供の俺には、分からない。
「あの、髪の長い男がいるだろう?」
ボルーボさんが指差した場所を見た。
「あっ……」
前にアリアに会いに来た時に、アリアは仕事でいないと、教えてくれた男だ。
「トルトって言うんだ。アリアの幼馴染みだ。」
程よい筋肉が付いていて、腰まである長い髪を、一つに束ねていた。
「アリアに惚れている。」
「えっ?」
改めてその、トルトさんを見た。
子供達と一緒に遊んでいるトルトさんは、とても優しそうだ。
「最初は、どこのどいつか分からない相手に、アリアを渡せないと、いつも言っていた。だが、あんたがアリアを訪ねて来たのを見て、考えが変わったらしい。」
「……俺が来てから?」
「坊っちゃんの様子を見て、お互いが好き合っているんだったらと、思ったらしい。みんなそうだ。みんなアリアを、子供のように、妹のように、姉のように慕っている。だからこそ、アリアに幸せになってほしいんだ。」
俺は周りにいる人達を、一人一人、見ていった。
いろんな人が、そこにはいた。
みんな何かしらの芸を観客に見せて、それで生計を立てている。
言うなれば、大所帯の家族みたいなものだ。
「まあ、答えは急がねえよ。見たところ、まだ若いしな。」
トルトさんは、そんな事を言うと、また自分の仕事に戻って行った。
一人残された俺は、明かりが灯った広場の中央に腰掛け、何となく舞踏団の皆を、見ていた。
食事を用意する者。
舞台の掃除をする者。
壊れた服を修復する者。
みんな、生き生きと働いている。
「ジャラール!」
アリアが、嬉しそうに近寄って来た。
「今日はご馳走だって。楽しくなるわ。ジャラールは、お酒飲む?」
「……少しなら。」
「あら、飲めないの?」
「まだ飲み始めて、間もないんだ。最初からそんなに、飲めないよ。」
本当は、成人の儀が終わらないと、お酒は飲んではいけないのだけど、ハーキムが『今から飲み慣れていないと、成人の儀で急に倒れてしまう可能性も。』と言っても、少しずつ飲ませてくれていたんだ。
「そうだ!兄さんに会った?」
「兄さん?ああ、さっきテントの外に、来ていた人?」
「ふふふ。今のところ、声だけね。」
1
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
魔族の花嫁に選ばれた皇太子妃
葉柚
恋愛
「ロイド殿下。お慕い申しております。」
「ああ。私もだよ。セレスティーナ。」
皇太子妃であるセレスティーナは皇太子であるロイドと幸せに暮らしていた。
けれど、アリス侯爵令嬢の代わりに魔族の花嫁となることになってしまった。
皇太子妃の後釜を狙うアリスと、セレスティーナのことを取り戻そうと藻掻くロイド。
さらには、魔族の王であるカルシファーが加わって事態は思いもよらぬ展開に……
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる