10 / 18
4、酔ったふりで、彼を誘った夜
仕事帰りのワインと揺れる視線
今日は月末ということで、営業チーム全員での打ち上げ飲み会だった。
月の最終日まで走り抜けたご褒美のような夜。なのに、私はどこか落ち着かない。
私の隣には、片瀬悠くん。
私よりも4歳年下だけど、営業成績はいつもトップクラス。
チーフである私にとって、間違いなく頼れる存在。
だけど――やけに距離を保ってくる男でもある。
「佐伯チーフ、飲まないんですか?」
「……飲んではいるよ」
グラスに残ったハイボールを揺らしながら答える。
本当は、もっと飲める。いつもなら気を遣うこともなく、それなりに盛り上がれるはずなのに――今日は違った。
なぜか、片瀬くんの隣ではお酒が進まない。
彼の視線、声のトーン、グラスを持つ手の仕草。
すべてが妙に気になって、胸の奥がざわつく。
もしかして私、酔ってるのはお酒じゃなくて――
彼に、なのかもしれない。
「佐伯チーフ、ちょっとワイン飲みません?」
唐突にそう言って、片瀬くんはワインメニューのページを私に向けた。
彼の目は、普段よりも少しだけ近くて、いたずらを仕掛ける子どもみたいに楽しげだった。
「いいよ。」
あくまで軽く応じるつもりだったのに、心がなぜか弾んでしまう。
「はーい、このグラスワイン2つお願いします。」
店員に向かってそう言いながら、彼はふと私を見た。
その目が、挑むように、じっと私を射抜く。
「俺、強いですよ。ワイン。」
――強い。
その一言に、なぜかドキッとしてしまう。
まるで、それだけじゃない何かを意味しているように思えて。
運ばれてきたワインは、深いルビー色をしていた。
グラスを傾け、少しずつ口に含む。
香りが立ち、舌の奥にまろやかな酸味が広がる。
「……美味しい」
素直にそう言うと、片瀬くんが嬉しそうに頷いた。
「でしょ?」
次の瞬間、私はグラスを置いて、少しだけ彼の肩にもたれかかった。
「……なんだか、酔っちゃったかも」
本当は、全然酔ってなんかいない。
でも、彼がどうするか――試したくなった。
「どうしたんですか?」
グラスを置いた片瀬くんが、少しだけ真顔になって私を見る。
「……今日、帰りたくない」
ぽつりと漏らした言葉は、本音なんて曖昧なものじゃなかった。
寂しさと、甘えと、ほんの少しの期待。全部が詰まっていた。
沈黙が流れる。
ふと横を見ると、片瀬くんの目が揺れていた。
真っ直ぐな瞳。だけど、どこか迷っている。
「あ、あの……」
やだ、困ってる?
変なこと言ったかな。急に重かった?
「……いえ」
そう言ったあと、彼が顔を寄せてきた。
耳元に、低く落ちる声。
「……それ、本気で言ってる?」
その瞬間、背中がぞくりと震えた。
ああ、もう――彼に甘えたい。
「このあと……行こうか」
「えっ……」
「ホテルに」
私の手を、彼の指がそっと包み込む。
自然と、指先が重なって、離れられなくなっていた。
月の最終日まで走り抜けたご褒美のような夜。なのに、私はどこか落ち着かない。
私の隣には、片瀬悠くん。
私よりも4歳年下だけど、営業成績はいつもトップクラス。
チーフである私にとって、間違いなく頼れる存在。
だけど――やけに距離を保ってくる男でもある。
「佐伯チーフ、飲まないんですか?」
「……飲んではいるよ」
グラスに残ったハイボールを揺らしながら答える。
本当は、もっと飲める。いつもなら気を遣うこともなく、それなりに盛り上がれるはずなのに――今日は違った。
なぜか、片瀬くんの隣ではお酒が進まない。
彼の視線、声のトーン、グラスを持つ手の仕草。
すべてが妙に気になって、胸の奥がざわつく。
もしかして私、酔ってるのはお酒じゃなくて――
彼に、なのかもしれない。
「佐伯チーフ、ちょっとワイン飲みません?」
唐突にそう言って、片瀬くんはワインメニューのページを私に向けた。
彼の目は、普段よりも少しだけ近くて、いたずらを仕掛ける子どもみたいに楽しげだった。
「いいよ。」
あくまで軽く応じるつもりだったのに、心がなぜか弾んでしまう。
「はーい、このグラスワイン2つお願いします。」
店員に向かってそう言いながら、彼はふと私を見た。
その目が、挑むように、じっと私を射抜く。
「俺、強いですよ。ワイン。」
――強い。
その一言に、なぜかドキッとしてしまう。
まるで、それだけじゃない何かを意味しているように思えて。
運ばれてきたワインは、深いルビー色をしていた。
グラスを傾け、少しずつ口に含む。
香りが立ち、舌の奥にまろやかな酸味が広がる。
「……美味しい」
素直にそう言うと、片瀬くんが嬉しそうに頷いた。
「でしょ?」
次の瞬間、私はグラスを置いて、少しだけ彼の肩にもたれかかった。
「……なんだか、酔っちゃったかも」
本当は、全然酔ってなんかいない。
でも、彼がどうするか――試したくなった。
「どうしたんですか?」
グラスを置いた片瀬くんが、少しだけ真顔になって私を見る。
「……今日、帰りたくない」
ぽつりと漏らした言葉は、本音なんて曖昧なものじゃなかった。
寂しさと、甘えと、ほんの少しの期待。全部が詰まっていた。
沈黙が流れる。
ふと横を見ると、片瀬くんの目が揺れていた。
真っ直ぐな瞳。だけど、どこか迷っている。
「あ、あの……」
やだ、困ってる?
変なこと言ったかな。急に重かった?
「……いえ」
そう言ったあと、彼が顔を寄せてきた。
耳元に、低く落ちる声。
「……それ、本気で言ってる?」
その瞬間、背中がぞくりと震えた。
ああ、もう――彼に甘えたい。
「このあと……行こうか」
「えっ……」
「ホテルに」
私の手を、彼の指がそっと包み込む。
自然と、指先が重なって、離れられなくなっていた。
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?