欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

日下奈緒

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4、酔ったふりで、彼を誘った夜

仕事帰りのワインと揺れる視線

今日は月末ということで、営業チーム全員での打ち上げ飲み会だった。

月の最終日まで走り抜けたご褒美のような夜。なのに、私はどこか落ち着かない。

私の隣には、片瀬悠くん。

私よりも4歳年下だけど、営業成績はいつもトップクラス。

チーフである私にとって、間違いなく頼れる存在。

だけど――やけに距離を保ってくる男でもある。

「佐伯チーフ、飲まないんですか?」

「……飲んではいるよ」

グラスに残ったハイボールを揺らしながら答える。

本当は、もっと飲める。いつもなら気を遣うこともなく、それなりに盛り上がれるはずなのに――今日は違った。

なぜか、片瀬くんの隣ではお酒が進まない。

彼の視線、声のトーン、グラスを持つ手の仕草。

すべてが妙に気になって、胸の奥がざわつく。

もしかして私、酔ってるのはお酒じゃなくて――

彼に、なのかもしれない。


「佐伯チーフ、ちょっとワイン飲みません?」

唐突にそう言って、片瀬くんはワインメニューのページを私に向けた。

彼の目は、普段よりも少しだけ近くて、いたずらを仕掛ける子どもみたいに楽しげだった。

「いいよ。」

あくまで軽く応じるつもりだったのに、心がなぜか弾んでしまう。

「はーい、このグラスワイン2つお願いします。」

店員に向かってそう言いながら、彼はふと私を見た。

その目が、挑むように、じっと私を射抜く。

「俺、強いですよ。ワイン。」

――強い。

その一言に、なぜかドキッとしてしまう。

まるで、それだけじゃない何かを意味しているように思えて。

運ばれてきたワインは、深いルビー色をしていた。

グラスを傾け、少しずつ口に含む。

香りが立ち、舌の奥にまろやかな酸味が広がる。

「……美味しい」

素直にそう言うと、片瀬くんが嬉しそうに頷いた。

「でしょ?」

次の瞬間、私はグラスを置いて、少しだけ彼の肩にもたれかかった。

「……なんだか、酔っちゃったかも」

本当は、全然酔ってなんかいない。

でも、彼がどうするか――試したくなった。

「どうしたんですか?」

グラスを置いた片瀬くんが、少しだけ真顔になって私を見る。

「……今日、帰りたくない」

ぽつりと漏らした言葉は、本音なんて曖昧なものじゃなかった。

寂しさと、甘えと、ほんの少しの期待。全部が詰まっていた。

沈黙が流れる。

ふと横を見ると、片瀬くんの目が揺れていた。

真っ直ぐな瞳。だけど、どこか迷っている。

「あ、あの……」

やだ、困ってる?

変なこと言ったかな。急に重かった?

「……いえ」

そう言ったあと、彼が顔を寄せてきた。

耳元に、低く落ちる声。

「……それ、本気で言ってる?」

その瞬間、背中がぞくりと震えた。

ああ、もう――彼に甘えたい。

「このあと……行こうか」

「えっ……」

「ホテルに」

私の手を、彼の指がそっと包み込む。

自然と、指先が重なって、離れられなくなっていた。

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