欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

日下奈緒

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4、酔ったふりで、彼を誘った夜

朝、境界線のない関係

朝、オフィスに入ると、彼の声がすぐに届いた。

「佐伯チーフ」

昨夜のことがまるで夢だったように、彼はいつも通りの声で私を呼んだ。

「……ああ。私、これから外回りだから」

「お伴します」

即答された上に、私が止めようとした時には、彼はさっさと自分のカバンと私の資料を持って、颯爽とオフィスを出ていく。

「ちょ、片瀬君……!」

追いかけるように私も廊下に出る。

その背中が、なんだか頼もしく見えた。

昨夜までは、ただの同僚。

部下として、信頼できる営業マン。

でも、今の私は――彼を男として見てしまっている。

背広越しの肩幅、スマートな歩き方、そして……あの熱い視線。

全部、思い出すたびに心臓が忙しい。

でも、私はチーフ。

それにこれは、仕事。

今は、私情なんて持ち込んじゃいけない。

「……佐伯チーフ?行きますよ?」

振り向いた彼の目が、昨日と同じ熱を湛えていた。

やっぱりダメだ。

今朝からずっと、仕事に集中できそうにない――。

そして、乗り込んだのは片瀬君の車。私は当たり前のように助手席へ。

シートベルトを締めながら言う。

「あのさ、片瀬君……」

話しかけた瞬間、顔が近づき、唇を奪われた。

「んっ……!」

唐突なキスに驚く暇もなかった。

「……もう、我慢できないんだよ、俺。」

熱を帯びた声が耳に残る。

まさか、あの頼れる営業マン・片瀬悠が、私にこんなにも――?

「今夜、空いてる?」

「ええ⁉」思わず声が裏返った。

“昨夜”の次に、“今夜”もって……そんなに⁉

戸惑う私をよそに、彼は真剣な目で見つめてくる。

「玲奈……ずっと一緒にいよう。」

それは、同僚として? それとも、男と女として?

私はとっさに言葉を濁す。

「うん。……外回りだからね。」

その瞬間、片瀬君は目に見えてがくっと肩を落とした。

「……そっちの“一緒”か……」

落ち込む彼を見て、思わず吹き出しそうになった。

「あのさ、これからも……同僚として——」

そう切り出そうとした瞬間、運転席の彼が遮った。

「もう、同僚じゃない」

低く落ち着いた声。横顔すら見惚れるほどかっこよくて、言葉が詰まる。

「……好きな女、一度抱いたら。同僚には戻れないでしょ?」

はっきり言われたその言葉に、胸の奥がざわついた。

「……はっきり言って、困るよ。片瀬君」

「うん。困らせる気しかないよ、俺」

いたずらっぽく笑いながらも、その目はどこまでも真剣だった。

やがて車が赤信号で停まり、片瀬君が私の方を向いた。

「玲奈さん。……俺の彼女になってください」

まっすぐに、まるで営業先にプレゼンをかける時よりも真剣な目で。

昨日まで、ただの同僚だった彼が、こんな風に恋を仕掛けてくるなんて。

車のエンジンの音だけが響く中、私はそっと頷いた。

この恋は、もう“過ち”じゃない。

これからも続いていく恋になる。

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