17 / 30
第6章 ライバル
①
しおりを挟む
夜中まで涙がとまらなかったせいか、次の日、目が腫れあがっていた。
「夏海!?どうしたの?」
もちろん秋香は心配してくれたけれど、それどころではない。
あの二人。
本当は、今でも思い合っていて、よりを戻したいと思っていたら?
門馬と一緒に住んでる私、思いっきり邪魔じゃない?
「もしかして、失恋?」
「そうかも……」
って、何を言ってんだ?
私は、急に起き上がった。
門馬に恋しているならともかく、何で私が失恋?
「いつの間に。ねえ、どんな人だったの?」
「ごめん、失恋したのは私じゃないわ。」
「へっ?」
秋香は首を横に振っている。
私も何がなんだか、分からなくなってきたわ。
「門馬君、市川さん。打ち合わせしましょう。」
今日も、鈴木係長のミーティングが始まる。
「門馬君、具体案は出た?」
「基本はオフィスで着れるカラーを採用し、指し色でその年の流行の色を入れます。形もベーシックを入れながら、流行りの方を入れていきます。」
「つまり、ベーシックと流行りを混在させると言う事ね。」
「はい。」
門馬と清水係長の息の合った打ち合わせに、私はいなくてもいいんじゃないかって思う。
「市川さんは?」
「はい?」
「市川さんは、どう思うの?」
門馬と清水係長が、私を見つめる。
今まで、具体案は門馬に任せていたから、全く考えていなかった。
だからと言って、何も言わない訳には……
その時私は、この前お店で働いた時の事を思い出した。
あの時、お客さんが手に取ったのは、ベーシックな形でも、流行りの色だった。
「あの……あまりオフィスカラーに、拘る必要はないと思うんです。」
それを聞いた門馬は、無表情だった。
「オフィスカラーって、黒とか白とか、紺色にグレーですよね。それだと長く使える色なので、逆に少々高くても、いい物を買うと思うんです。」
「うんうん。」
清水係長が、頷いてくれている。
「その代り、プチプラに何を求めているかって、流行だと思うんですよ。だからベーシック半分に、残りの半分は、流行りの色で攻めていった方がいいと思うんです。」
「なるほどね。」
清水係長は満足そうだけど、門馬は終始無表情。
それもそのはずだよね。
自分の意見を、否定されている訳だし。
うーん。
ここは、フォロー入れておくか。
「だからと言って、門馬の意見を否定している訳じゃないですよ?あくまで流行りの色の割合を、大目にした方がいいんじゃないかって。」
「分かっているよ。」
門馬はそう言ったけれど、本当に納得してくれているかは、分からない。
もどかしい。
少し前までは、門馬が納得してくれなくても、強きでいたのに。
「私は、市川さんの意見に賛成するわ。」
清水係長の言葉に、私も門馬も、顔を上げた。
「この会社のコンセプトは、流行の物を誰でも手元に置いてもらいたいでしょう?市川さんの案は、コンセプトに合っていると思うの。」
私は、自然に微笑んでいた。
素直に嬉しかった。
自分の意見を取り入れて貰えるなんて、今までなかったから。
「じゃあ、デザインの方だけど。」
清水係長は、資料を見て、ある部分に目を留めた。
「……店長、中野君なのね。」
「係長、お知り合いなんですか?」
「ちょっとね。」
清水係長は、苦笑いをしていた。
「今日の打ち合わせは、これでお終い。」
「はい。」
私と門馬が、立ち上がった時だった。
「門馬君。ちょっと、付き合って貰える?」
清水係長が、門馬に声を掛ける。
しばらくして、二人は外に出てしまった。
「清水係長。早速門馬に、目をつけたわね。」
何も知らない秋香が、私に囁いた。
「ちょっと、私も行ってくる。」
私はカバンを持って、オフィスを飛び出した。
エレベーターを降りた私は、二人の姿を探した。
いた。
ちょうど、会社を出ようとしていたところだった。
「門……」
話しかけようとしても、門馬と清水係長は、楽しそうに会話をしている。
そこには、私が入る隙間なんかなくて。
私は、二人を追いかけてきたことを、後悔した。
その場で立ちすくみ、仲さよげに話をする二人を、私は虚しく見ているだけしかなかった。
何もせずにオフィスに帰って来た私は、席に戻っても、茫然とするしかなかった。
「夏海?」
側にいた秋香に、私は泣きそうになりながら、口を開いた。
「秋香。私、本当に失恋したかも。」
「えっ?」
秋香は、私の背中を摩ってくれた。
「何があったの?」
「……好きな人と、元カノが親しくしているところを、見ちゃったの。」
秋香は、大きなため息をついた。
「それって、門馬の事だよね。」
私は、秋香を見た。
「何年一緒にいると思ってるの。」
秋香は、私を抱きしめてくれた。
「秋香~。」
「はいはい。」
私は、泣きそうになるのを押さえて、秋香に身を任せた。
門馬と清水係長は、どこに行くんだろう。
どんな話をしていたんだろう。
そればかりが、私の頭の中を駆け巡る。
辛い。
こんな辛い恋は、初めてかもしれない。
一緒に暮らしているのに、こんなにすれ違うなんて。
しばらくして、私はお昼休憩に、清水係長と一緒になった。
「相変わらず、市川さんのお弁当は、美味しそうね。」
鈴木係長は、にこやかに話しかけてきた。
「そうですか?余り物で作ってるんですけね。」
私もにこやかに、交わした。
その時だった。
「ねえ、この前。私と門馬君が二人で出かけた時、後からついて来たでしょう?」
私は、箸を止めた。
「……何の事ですか?」
「とぼけない。見てたのよ、私。」
顔が熱くなった。
エレベーターを降りて、会社の入り口の手前までしか、行っていないのに。
「どうして?」
「えっ……」
「どうして……私達を追いかけて来たの?」
私を見た清水係長の横顔は、いつもと違っていた。
「あっ……いえ……大した用では……」
清水係長が、クスッと笑った。
「そうよね。ただ私と門馬君の関係が、気になっただけだものね。」
「えっ……」
鈴木係長は、尚もクスクス笑っている。
「前にね。私が、前の彼氏の事、話したでしょう?」
「……はい。」
「あれね。門馬君の事なの。」
知っていたとは言え、はっきり本人の口から聞くと、体が重くなる。
「久しぶりに会って、変わってなかったわ。彼。私が好きになった彼そのまま。」
何にも言葉が出て来ない。
「今も、一人みたいだから、もう一度……」
私は、お弁当の蓋を閉じた。
「……いるみたいですよ。」
「えっ?」
「……彼女。」
私と清水係長は、じっと睨み合った。
「嘘……」
「私も噂だけしか、聞いてないので。それでは。」
私が立ち上がろうとした時だ。
「どうして、そんな嘘つくの?」
係長が、私の手を握った。
年上の人だと言うのに、恋愛の事なると、必死になるのが女だ。
「だから、噂だって言っているじゃないですか。」
「だったら、私のところにも、入って来るはずじゃない。」
「それは、係長はまだここに来て短いですから。」
係長は、目を細めた。
「もしかして、市川さんも門馬君の事、好きなの?」
私は、息を飲んだ。
「そう……そう言う事。」
「私は、何も言ってません。」
「言ってなくても、顔に書いてあるわ。」
「夏海!?どうしたの?」
もちろん秋香は心配してくれたけれど、それどころではない。
あの二人。
本当は、今でも思い合っていて、よりを戻したいと思っていたら?
門馬と一緒に住んでる私、思いっきり邪魔じゃない?
「もしかして、失恋?」
「そうかも……」
って、何を言ってんだ?
私は、急に起き上がった。
門馬に恋しているならともかく、何で私が失恋?
「いつの間に。ねえ、どんな人だったの?」
「ごめん、失恋したのは私じゃないわ。」
「へっ?」
秋香は首を横に振っている。
私も何がなんだか、分からなくなってきたわ。
「門馬君、市川さん。打ち合わせしましょう。」
今日も、鈴木係長のミーティングが始まる。
「門馬君、具体案は出た?」
「基本はオフィスで着れるカラーを採用し、指し色でその年の流行の色を入れます。形もベーシックを入れながら、流行りの方を入れていきます。」
「つまり、ベーシックと流行りを混在させると言う事ね。」
「はい。」
門馬と清水係長の息の合った打ち合わせに、私はいなくてもいいんじゃないかって思う。
「市川さんは?」
「はい?」
「市川さんは、どう思うの?」
門馬と清水係長が、私を見つめる。
今まで、具体案は門馬に任せていたから、全く考えていなかった。
だからと言って、何も言わない訳には……
その時私は、この前お店で働いた時の事を思い出した。
あの時、お客さんが手に取ったのは、ベーシックな形でも、流行りの色だった。
「あの……あまりオフィスカラーに、拘る必要はないと思うんです。」
それを聞いた門馬は、無表情だった。
「オフィスカラーって、黒とか白とか、紺色にグレーですよね。それだと長く使える色なので、逆に少々高くても、いい物を買うと思うんです。」
「うんうん。」
清水係長が、頷いてくれている。
「その代り、プチプラに何を求めているかって、流行だと思うんですよ。だからベーシック半分に、残りの半分は、流行りの色で攻めていった方がいいと思うんです。」
「なるほどね。」
清水係長は満足そうだけど、門馬は終始無表情。
それもそのはずだよね。
自分の意見を、否定されている訳だし。
うーん。
ここは、フォロー入れておくか。
「だからと言って、門馬の意見を否定している訳じゃないですよ?あくまで流行りの色の割合を、大目にした方がいいんじゃないかって。」
「分かっているよ。」
門馬はそう言ったけれど、本当に納得してくれているかは、分からない。
もどかしい。
少し前までは、門馬が納得してくれなくても、強きでいたのに。
「私は、市川さんの意見に賛成するわ。」
清水係長の言葉に、私も門馬も、顔を上げた。
「この会社のコンセプトは、流行の物を誰でも手元に置いてもらいたいでしょう?市川さんの案は、コンセプトに合っていると思うの。」
私は、自然に微笑んでいた。
素直に嬉しかった。
自分の意見を取り入れて貰えるなんて、今までなかったから。
「じゃあ、デザインの方だけど。」
清水係長は、資料を見て、ある部分に目を留めた。
「……店長、中野君なのね。」
「係長、お知り合いなんですか?」
「ちょっとね。」
清水係長は、苦笑いをしていた。
「今日の打ち合わせは、これでお終い。」
「はい。」
私と門馬が、立ち上がった時だった。
「門馬君。ちょっと、付き合って貰える?」
清水係長が、門馬に声を掛ける。
しばらくして、二人は外に出てしまった。
「清水係長。早速門馬に、目をつけたわね。」
何も知らない秋香が、私に囁いた。
「ちょっと、私も行ってくる。」
私はカバンを持って、オフィスを飛び出した。
エレベーターを降りた私は、二人の姿を探した。
いた。
ちょうど、会社を出ようとしていたところだった。
「門……」
話しかけようとしても、門馬と清水係長は、楽しそうに会話をしている。
そこには、私が入る隙間なんかなくて。
私は、二人を追いかけてきたことを、後悔した。
その場で立ちすくみ、仲さよげに話をする二人を、私は虚しく見ているだけしかなかった。
何もせずにオフィスに帰って来た私は、席に戻っても、茫然とするしかなかった。
「夏海?」
側にいた秋香に、私は泣きそうになりながら、口を開いた。
「秋香。私、本当に失恋したかも。」
「えっ?」
秋香は、私の背中を摩ってくれた。
「何があったの?」
「……好きな人と、元カノが親しくしているところを、見ちゃったの。」
秋香は、大きなため息をついた。
「それって、門馬の事だよね。」
私は、秋香を見た。
「何年一緒にいると思ってるの。」
秋香は、私を抱きしめてくれた。
「秋香~。」
「はいはい。」
私は、泣きそうになるのを押さえて、秋香に身を任せた。
門馬と清水係長は、どこに行くんだろう。
どんな話をしていたんだろう。
そればかりが、私の頭の中を駆け巡る。
辛い。
こんな辛い恋は、初めてかもしれない。
一緒に暮らしているのに、こんなにすれ違うなんて。
しばらくして、私はお昼休憩に、清水係長と一緒になった。
「相変わらず、市川さんのお弁当は、美味しそうね。」
鈴木係長は、にこやかに話しかけてきた。
「そうですか?余り物で作ってるんですけね。」
私もにこやかに、交わした。
その時だった。
「ねえ、この前。私と門馬君が二人で出かけた時、後からついて来たでしょう?」
私は、箸を止めた。
「……何の事ですか?」
「とぼけない。見てたのよ、私。」
顔が熱くなった。
エレベーターを降りて、会社の入り口の手前までしか、行っていないのに。
「どうして?」
「えっ……」
「どうして……私達を追いかけて来たの?」
私を見た清水係長の横顔は、いつもと違っていた。
「あっ……いえ……大した用では……」
清水係長が、クスッと笑った。
「そうよね。ただ私と門馬君の関係が、気になっただけだものね。」
「えっ……」
鈴木係長は、尚もクスクス笑っている。
「前にね。私が、前の彼氏の事、話したでしょう?」
「……はい。」
「あれね。門馬君の事なの。」
知っていたとは言え、はっきり本人の口から聞くと、体が重くなる。
「久しぶりに会って、変わってなかったわ。彼。私が好きになった彼そのまま。」
何にも言葉が出て来ない。
「今も、一人みたいだから、もう一度……」
私は、お弁当の蓋を閉じた。
「……いるみたいですよ。」
「えっ?」
「……彼女。」
私と清水係長は、じっと睨み合った。
「嘘……」
「私も噂だけしか、聞いてないので。それでは。」
私が立ち上がろうとした時だ。
「どうして、そんな嘘つくの?」
係長が、私の手を握った。
年上の人だと言うのに、恋愛の事なると、必死になるのが女だ。
「だから、噂だって言っているじゃないですか。」
「だったら、私のところにも、入って来るはずじゃない。」
「それは、係長はまだここに来て短いですから。」
係長は、目を細めた。
「もしかして、市川さんも門馬君の事、好きなの?」
私は、息を飲んだ。
「そう……そう言う事。」
「私は、何も言ってません。」
「言ってなくても、顔に書いてあるわ。」
0
あなたにおすすめの小説
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる