情熱的に愛して

日下奈緒

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第6章 ライバル

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夜中まで涙がとまらなかったせいか、次の日、目が腫れあがっていた。

「夏海!?どうしたの?」

もちろん秋香は心配してくれたけれど、それどころではない。


あの二人。

本当は、今でも思い合っていて、よりを戻したいと思っていたら?

門馬と一緒に住んでる私、思いっきり邪魔じゃない?


「もしかして、失恋?」

「そうかも……」

って、何を言ってんだ?

私は、急に起き上がった。

門馬に恋しているならともかく、何で私が失恋?


「いつの間に。ねえ、どんな人だったの?」

「ごめん、失恋したのは私じゃないわ。」

「へっ?」

秋香は首を横に振っている。

私も何がなんだか、分からなくなってきたわ。


「門馬君、市川さん。打ち合わせしましょう。」

今日も、鈴木係長のミーティングが始まる。

「門馬君、具体案は出た?」

「基本はオフィスで着れるカラーを採用し、指し色でその年の流行の色を入れます。形もベーシックを入れながら、流行りの方を入れていきます。」

「つまり、ベーシックと流行りを混在させると言う事ね。」

「はい。」


門馬と清水係長の息の合った打ち合わせに、私はいなくてもいいんじゃないかって思う。

「市川さんは?」

「はい?」

「市川さんは、どう思うの?」

門馬と清水係長が、私を見つめる。

今まで、具体案は門馬に任せていたから、全く考えていなかった。

だからと言って、何も言わない訳には……


その時私は、この前お店で働いた時の事を思い出した。

あの時、お客さんが手に取ったのは、ベーシックな形でも、流行りの色だった。

「あの……あまりオフィスカラーに、拘る必要はないと思うんです。」

それを聞いた門馬は、無表情だった。

「オフィスカラーって、黒とか白とか、紺色にグレーですよね。それだと長く使える色なので、逆に少々高くても、いい物を買うと思うんです。」

「うんうん。」

清水係長が、頷いてくれている。

「その代り、プチプラに何を求めているかって、流行だと思うんですよ。だからベーシック半分に、残りの半分は、流行りの色で攻めていった方がいいと思うんです。」

「なるほどね。」

清水係長は満足そうだけど、門馬は終始無表情。


それもそのはずだよね。

自分の意見を、否定されている訳だし。

うーん。

ここは、フォロー入れておくか。

「だからと言って、門馬の意見を否定している訳じゃないですよ?あくまで流行りの色の割合を、大目にした方がいいんじゃないかって。」

「分かっているよ。」

門馬はそう言ったけれど、本当に納得してくれているかは、分からない。

もどかしい。

少し前までは、門馬が納得してくれなくても、強きでいたのに。


「私は、市川さんの意見に賛成するわ。」

清水係長の言葉に、私も門馬も、顔を上げた。

「この会社のコンセプトは、流行の物を誰でも手元に置いてもらいたいでしょう?市川さんの案は、コンセプトに合っていると思うの。」

私は、自然に微笑んでいた。

素直に嬉しかった。

自分の意見を取り入れて貰えるなんて、今までなかったから。


「じゃあ、デザインの方だけど。」

清水係長は、資料を見て、ある部分に目を留めた。

「……店長、中野君なのね。」

「係長、お知り合いなんですか?」

「ちょっとね。」

清水係長は、苦笑いをしていた。


「今日の打ち合わせは、これでお終い。」

「はい。」

私と門馬が、立ち上がった時だった。

「門馬君。ちょっと、付き合って貰える?」

清水係長が、門馬に声を掛ける。

しばらくして、二人は外に出てしまった。


「清水係長。早速門馬に、目をつけたわね。」

何も知らない秋香が、私に囁いた。

「ちょっと、私も行ってくる。」

私はカバンを持って、オフィスを飛び出した。


エレベーターを降りた私は、二人の姿を探した。

いた。

ちょうど、会社を出ようとしていたところだった。

「門……」

話しかけようとしても、門馬と清水係長は、楽しそうに会話をしている。

そこには、私が入る隙間なんかなくて。

私は、二人を追いかけてきたことを、後悔した。

その場で立ちすくみ、仲さよげに話をする二人を、私は虚しく見ているだけしかなかった。


何もせずにオフィスに帰って来た私は、席に戻っても、茫然とするしかなかった。

「夏海?」

側にいた秋香に、私は泣きそうになりながら、口を開いた。

「秋香。私、本当に失恋したかも。」

「えっ?」

秋香は、私の背中を摩ってくれた。

「何があったの?」

「……好きな人と、元カノが親しくしているところを、見ちゃったの。」

秋香は、大きなため息をついた。

「それって、門馬の事だよね。」

私は、秋香を見た。

「何年一緒にいると思ってるの。」

秋香は、私を抱きしめてくれた。

「秋香~。」

「はいはい。」

私は、泣きそうになるのを押さえて、秋香に身を任せた。


門馬と清水係長は、どこに行くんだろう。

どんな話をしていたんだろう。

そればかりが、私の頭の中を駆け巡る。


辛い。

こんな辛い恋は、初めてかもしれない。

一緒に暮らしているのに、こんなにすれ違うなんて。

しばらくして、私はお昼休憩に、清水係長と一緒になった。

「相変わらず、市川さんのお弁当は、美味しそうね。」

鈴木係長は、にこやかに話しかけてきた。

「そうですか?余り物で作ってるんですけね。」

私もにこやかに、交わした。


その時だった。

「ねえ、この前。私と門馬君が二人で出かけた時、後からついて来たでしょう?」

私は、箸を止めた。

「……何の事ですか?」

「とぼけない。見てたのよ、私。」

顔が熱くなった。

エレベーターを降りて、会社の入り口の手前までしか、行っていないのに。

「どうして?」

「えっ……」

「どうして……私達を追いかけて来たの?」

私を見た清水係長の横顔は、いつもと違っていた。


「あっ……いえ……大した用では……」

清水係長が、クスッと笑った。

「そうよね。ただ私と門馬君の関係が、気になっただけだものね。」

「えっ……」

鈴木係長は、尚もクスクス笑っている。

「前にね。私が、前の彼氏の事、話したでしょう?」

「……はい。」

「あれね。門馬君の事なの。」


知っていたとは言え、はっきり本人の口から聞くと、体が重くなる。


「久しぶりに会って、変わってなかったわ。彼。私が好きになった彼そのまま。」

何にも言葉が出て来ない。

「今も、一人みたいだから、もう一度……」

私は、お弁当の蓋を閉じた。

「……いるみたいですよ。」

「えっ?」

「……彼女。」

私と清水係長は、じっと睨み合った。

「嘘……」

「私も噂だけしか、聞いてないので。それでは。」

私が立ち上がろうとした時だ。

「どうして、そんな嘘つくの?」

係長が、私の手を握った。


年上の人だと言うのに、恋愛の事なると、必死になるのが女だ。


「だから、噂だって言っているじゃないですか。」

「だったら、私のところにも、入って来るはずじゃない。」

「それは、係長はまだここに来て短いですから。」

係長は、目を細めた。

「もしかして、市川さんも門馬君の事、好きなの?」

私は、息を飲んだ。

「そう……そう言う事。」

「私は、何も言ってません。」

「言ってなくても、顔に書いてあるわ。」
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