幼馴染みが皇帝になった件

日下奈緒

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第1章 幼馴染み

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「アンヌ……」

もう少しで崩れそうなヴィクトルを、私は走って行って、抱きしめてあげたかった。

その時だ。

「皇太子殿を、名前で呼ぶなんて!」

「なんて、不謹慎な女だ!」

周りの視線が、痛かった。

思い余って、私は列の中から、飛び出した。


私を追って来たのは、アリスティドだった。

「アンヌ!」

私の腕を掴んで、アリスティドは、はぁはぁと息を切らしていた。

「どうした?急に。あんな事叫ぶなんて。」

「周りの人が、ヴィクトルを頼りないって。バカにしたのよ!」

「アンヌ。それは違うって、俺達が一番知ってるじゃないか。ヴィクトル皇太子は、勇敢で賢くて……」

「皇太子なんて、呼ばないで!!」

ヴィクトルが、どんどん遠くに行ってしまう。

「ヴィックは、いつまでもヴィックよ。私達のヴィックだわ!」

「……アンヌ。皇帝が亡くなった今、あいつは、俺達のヴィックじゃなくなったんだ。次の皇帝、ヴィクトル皇太子なんだ。」

私は、その場に泣き崩れた。

「アンヌ。今、一番辛いのは、ヴィクトル皇太子なんだ。俺達は、皇太子の味方だ。それは変わらないだろう?」


変らないモノと、変わって行くモノ。

その時の私は、変って行くモノに、対応していけなかったのだ。

あの遠い日の、一緒に遊んだ日が、無くなってしまうような気がして。



そしてヴィクトルは、18歳の誕生日に、皇帝の座についた。

国中がその瞬間を、待ち続けていた。


「ヴィクトル・フェルディナン・ロリオ。そなたにこの国の王位を授けます。これよりは、ロリオⅢ世と名乗るがよい。」

「はい。」

国の司教より、王冠を授かったヴィクトルは、とても眩しくて勇ましくて、誰よりも輝いていた。

その場にいる人、全てがヴィクトルの為だけに、拍手と賛辞を贈る。


ああ、ヴィクトルはこの為に、生まれたのだ。

私の中の力が無くなっていく。

この日から、私達は王と庶民。

住む世界が、引き裂かれてしまったのだ。

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