15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第3章 大学生だと知った日、彼は手を離した

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後部座席に、私がさっき渡したばかりのマグカップがぽつんと置かれている。

あんなに嬉しそうにしてくれたのに――。

「えっ……?」

かすれる声で問い返すと、玲央さんは目をそらし、ハンドルに視線を落とした。

「ひよりさんは、大学生で、将来がある。君にはもっとふさわしい人がいると思うんだ。俺はもう三十五で、大人の男だよ。たぶん、すれ違いも、出てくる。」

静かに、それでも確かに距離を置こうとする言葉。

胸がきゅっと締め付けられる。

私は迷わず体を乗り出していた。

シートベルトの拘束がわずらわしいくらいに。

「そんなこと言わないでください。時間がある時だけでいいんです。少しの時間でも、会えるならそれでいい……」

精一杯、想いをぶつけた。

その瞬間だった。

玲央さんが、私の両肩を強く掴んだ。

びくりと体が固まる。

でも、力任せじゃない。その手は、迷っていて、苦しんでいて、でも――私に触れたいと願っている手だった。

「……君がそうやってまっすぐ来るから、余計にダメになるんだよ。」

低く、かすれた声。

近い距離にいるはずなのに、玲央さんの顔が遠く感じた。

「俺は君が思ってるほど、優しくも、誠実でもない。……これ以上、君に触れたら、自信がないんだ。」

まっすぐ私を見るその目に、どれだけの葛藤があるのか。

私はただ、まばたきもできずに見つめ返していた。

そしてそっと、口を開く。

「それでも……私は、玲央さんがいいんです。」

私の声は震えていたけれど、本心だった。

ふいに、玲央さんの腕が私の肩を包んだ。

「……えっ。」

声にならない声が漏れる。

優しくて、でもどこか切実で、どうしようもない気持ちが、その腕の強さから伝わってくる。

一瞬、時間が止まったようだった。

でも次の瞬間、玲央さんはそっと身体を引き離した。

その動作はとてもゆっくりで、名残惜しさがにじんでいた。

「ね……ひよりさんの前では、親切なお兄さんでいられない。」

その言葉は、あまりにも正直すぎて、胸に刺さった。

目を伏せた玲央さんの表情には、どうしようもない苦しさが滲んでいた。

私は笑うことも、言葉を返すこともできず、ただ頷いた。

「……分かりました。今日は、ありがとうございました。」

それだけを告げて、ドアノブに手をかけた。

「家まで送るよ。」

玲央さんが静かに言う。

けれど私は、顔を見せないようにしながら言葉を返した。

「……ああ、ここから近いので。」

俯いたまま、ドアを閉める。

エンジン音がかすかに響く中、私は足を前に踏み出した。

背中に感じる視線を、振り返ることはなかった。

でも、歩き出した足がやけに重くて、涙が滲むほどだった。

「歳の差って、そんなに重要なことなの……?」

ぽつりと呟いた言葉は、夜の空気に吸い込まれていく。
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