神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第4部 芽吹きの奇跡と、宮廷の風 ④

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背後から駆けつけたレオナルトが声をかけた。

二人で泉を見下ろすと、そこには――

「これは……!」

ただの枯れた泉ではなかった。

その水面は、不気味なほど静かに凍てつき、青白い光がまるで呪いのように渦を巻いている。

「……強力な魔女の結界だ。」

私は思わず後ずさった。

昨夜、クラリーチェが放っていたあの呪文。まさか、ここまでの力があるなんて――

「泉を、取り戻せるか?」

レオの問いに、私は唇を噛んだ。

「……無理です。今の私では……結界が強すぎます。」

悔しさで声が震える。

自分が回復させたはずの泉が、再び、しかもより強力に封じられている。

レオが私の肩に手を置いた。

「君が責められることじゃない。むしろ、誰も気づけなかった中で、君だけが見抜いた。」

その言葉が、少しだけ私の胸を軽くした。

だけど――

(どうすれば、この国を守れるの?このままじゃ、私……レオ様も……)

泉の青い結界は、今も淡く、しかし確かに、宮廷の未来を侵していた。

エミリアは、宮殿の図書館の奥にある聖女の歴史書の棚にいた。

ページをめくる指が止まらない。夢中で読み漁った。

「……神の声を聞き、光を呼び、穢れを祓う」

「どの時代も……聖女の記録ばかり。魔女についての記述は……一行もない。」

不思議だった。

魔女は忌まわしい存在であるはず。

聖女と対をなす存在として、記されていてもいいのに。

「もしかして……この国は、魔女に襲われたことがないの?」

本を閉じ、深く息を吐く。

だとしたら――今この国が直面しているのは、建国以来の国防の危機。

「このままでは、王国が……」

立ち上がったエミリアは、今度は魔術・呪術の書棚へと向かう。

が、そこにも魔女に関する記述はなかった。

「……ない。やっぱりない。」

唇を噛みしめた。

クラリーチェの使った呪文「マル=ナグ・サエルヴァ」の意味も、どこにも記されていない。

「そうだ……おばあさまの家なら――」

エミリアはすぐに使いの者を呼び出した。

「お願いがあります。祖母の屋敷に行って、魔術に関する本があれば、持ってきてほしいのです。」

使用人は目を見開いたが、すぐにうなずいた。

「承知しました。急ぎお届けいたします。」

エミリアは窓辺に立ち、沈みかけた夕陽を見つめた。

(……お願い。間に合って。魔女の力を止められるだけの知識が、どうか届きますように)

その祈りは、静かに夜の空へと吸い込まれていった――。
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