神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第9部 魔女クラリーチェとの激闘 ④

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「偽の愛の上に建った国など、滅びてしまえぇぇぇええ!」

クラディアの魂がついに復活した。

魔の泉から現れたその姿は、もはや人間の面影すらない。

闇をまとい、巨大な翼と黒い角を生やしたその姿は、まさしく“魔そのもの”だった。

「そんな……あれが、クラディア……?」

私は、愕然とその姿を見つめた。

怒りと悲しみに満ちたその声が、胸をえぐる。

「どうすれば……彼女の魂を鎮める事ができるんだ!」

レオは剣を構えたまま、呻くように言った。

「俺たちは……サエーナの裏切りの上に踊らされていたのか……?」

その時だった。

――カッ!

サエーナの聖剣が突如、眩い光を放つ。

まるで時を裂くように空間がひらき、眩い金色の光の中から、一人の女性がゆっくりと歩み出た。

「サエーナ……?」

金色の長い髪が、月のように輝いていた。

優しい瞳には、深い後悔と哀しみが宿っていた。

「私の名は、サエーナ。
この国の聖女として、クラディアと共に未来を築こうとした者――
そして、最大の罪を背負った者。」

クラディアの魂がギギ、と唸る。

『偽善者が!今さら姿を現して何になる!?おまえが裏切った!!』

サエーナは静かに、けれど確かな声で言った。

「……あなたは、レグナスに惚れ薬を使いましたね?」

その言葉に、城の空気が一瞬にして凍りついた。

『……ううっ……』

クラディアは唇を震わせた。

目の奥に、長年の怨嗟と苦悩が渦巻いている。

「でも……彼は気づいていました。それが惚れ薬、つまり麻薬であることに。」

『そ、そんな……嘘よ……』

クラディアの肩が小刻みに震える。

「彼は、あなたの手から薬を受け取り、あえて飲んだ振りをしたのです。惚れ薬なんて必要ない。クラディア、あなたを――心から愛していたから。」

その瞬間、クラディアの魔の気配がふっと揺らいだ。

『……うそ……やめて……そんなこと言わないで……』

だが、崩れた仮面の奥から現れたのは、かつて王を恋い、親友を信じていた少女――

赤い髪を持つ、美しい女性の姿だった。

『だったら……どうしてあの時、あの人は……!私は……私は何のために……!』

サエーナがそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れた。

「でも……あなたは、そんなレグナスの心を――操ろうとした。」

サエーナの声は静かだった。だが、その言葉は鋭く、城の大広間に深く響く。

「操って、魔女の国を建国しようとした。レグナスは、苦しんでいました。愛する女性のために、人の国を捨てるべきか。魔女と共に歩むべきか……その狭間で。」

クラディアは瞳を見開いた。

『……やめて……それ以上は……』

「でも、神託が降りてしまったのです。」

サエーナの声音が震える。

「『魔女を討て』と。そして、私が――王妃となるべしと……」

クラディアの脚が崩れるように折れた。
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