神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第9部 魔女クラリーチェとの激闘 ②

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「なんだって⁉」

レオの目が驚きに見開かれる。

「このカストル・ノクティスにも、かつて王族が舞踏会に招かれ、魔女たちと交流をはかった。その中で――魔女クラディアは、若き皇子・レグナスと恋に落ちたのだ。」

「初代建国の王と⁉」

レオは、驚愕の声を上げた。

「……嘘だろ。そんなこと、歴史には――」

「記されていないのは当然!」

クラリーチェの目が怒りで紅く染まる。

「クラディアとレグナスは、互いを理解し、心を通わせ、愛を育んだ。魔女と人間――種を超えた恋だったが、それでも、二人は結婚の契りを交わしたのだ。」

「じゃあ……クラディアは、裏切られたの?」

私の言葉に、クラリーチェの肩が小さく震える。

「クラディアを裏切り、レグナスを奪ったのは……クラディアの親友、聖女サエーナだったのよ!」

衝撃的な言葉に、私はレオと顔を見合わせた。

あの伝説の聖女が――?

レグナス王と共に国を築いたとされる、あの聖女が?

「サエーナは、自分の恋がクラディアに奪われるのを面白くなかった……」

クラリーチェは、悔しげに唇を噛みしめる。

「だから奪った。レグナスの心を。そして……」

その目から、ぽろりと涙が落ちた。

「……その上、親友だったクラディアを、“魔女”として告発し、レグナスと共に討ったの。愛と嫉妬、そして……名誉のために!」

息をのむ私の横で、レオは硬く拳を握った。

「それが真実だというのか……」

「真実よ!」

クラリーチェは叫ぶように言った。

「サエーナは、王家に祝福された“聖女”という肩書を守るために、クラディアを歴史の闇に葬った! そしてその名を、千年語り継がせたの!」

クラリーチェは静かに立ち上がった。

その目は、どこか哀しみに濡れ、それでも確信に満ちていた。

「クラディアは、討たれてもなお魂をこのカストル・ノクティスに留めた。自らの血を絶やさず、代々、子を残し続けることで――
その魂は、次第に魔力を増幅していったのよ。」

私は息をのんだ。

そう、あの城の大広間に描かれた壁一面の名前たち――

サエルヴァ家の魔女たちの名が、代々、途切れることなく刻まれていたのはそのためだったのか。

「そして――時は満ちた。」

クラリーチェの声が低く響く。

「私は魔女サエルヴァ一族の中で、最も強き力を受け継いだ存在。あのマル=ナル・サエルヴァの力を、完全に覚醒させた。」

その瞬間――
広間の奥にある黒い泉が、激しく泡立ち、青白い光が噴き出した。

「見なさい。この泉こそ、マル=ナルが最後に命を捧げて作った“魔の結界”。私はその封印を解いた。この国の命脈は、いま私の手の中にある。」

レオが剣を構える。

「泉を……支配しているのか?」

「ええ。王家の繁栄の象徴だった命の泉は、いまや魔の力を満たす呪われた泉。この泉を通じて、王国中に“絶望”が流れ出すの。」
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