神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第9部 魔女クラリーチェとの激闘 ①

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城の中に足を踏み入れると、私たちは馬から降りた。

冷たい石の床。長く続く薄暗い廊下。

天井の燭台には、青白い炎がぼんやりと揺れている。

「……嫌な気配がする。」

私の呟きに、レオは頷いた。

すると――

ギィィィィン……ッ!

重厚な音を立てて、大広間の扉が突然開かれた。

「油断するな!」

レオが咄嗟に聖剣を構えた。

しかしその時、私たちの足が動かなくなる。

まるで見えない手に引かれるように、体が勝手に大広間の中へと――吸い込まれていく。

「くっ……なんて強い魔力だ……!」

大広間の奥――黒曜石の玉座の上に、彼女はいた。

長い髪を翻し、妖艶に立ち上がる女。

クラリーチェ・ルーヴェン。

その瞳は、青い光に妖しく染まり、まるでこちらを見透かすように輝いていた。

「ようこそ、我が城――カストル・ノクティスへ。」

唇に冷笑を浮かべ、クラリーチェは静かに言い放った。

「クラリーチェ!覚悟しろッ!」

レオが一歩踏み出し、聖剣を突き出す。

「ああはははは!よく来たな、小さな虫けらども!」

クラリーチェの哄笑が大広間に響き渡る。

「魔女の本陣に乗り込んで、私を討とうだなんて……まったく、愚かにも程がある!」

彼女が腕を掲げたその瞬間――

ズズズ……ッ!

黒い霧が床を這い、石畳の隙間から無数の魔物たちが湧き上がる。

牙を剥き、爪を振りかざし、咆哮を上げて襲いかかってきた。

「きゃああっ!」

私は反射的にレオにしがみついた。

「エミリア、下がれ!」

「だめ、私も戦う!」

「……そう言うと思った。」

レオは静かに笑い、腰の聖剣を鞘ごと私に手渡した。

「これは、サエーナの聖剣。君の力を引き出せるはずだ。」

「レオ……」

「背中は預ける。戦えるか?」

「戦ってみせる!」

私は強く頷き、剣を抜いた。光がほとばしり、聖なる気配が私の体に流れ込んでくる。

「よし、行くぞ!」

レオは叫ぶと、魔物に向かって剣を振るった。

ダリウスも剣を抜き、重々しい気迫で魔物の群れに立ち向かう。

「来い、魔女の使いども……貴様らに、我らの剣の意味を教えてやる……!」

私はレオと背中を合わせたまま、迫る魔物に剣を振るう。剣から放たれる光が、魔物を貫いてゆく。

「……サエーナ、どうか……導いて……!」

目の前が光に包まれ、私の意識は戦いの中、次第に“聖女の覚醒”へと導かれていく――

「レオナルト!おまえが来るとは好都合!」

クラリーチェは高笑いしながら、空中へふわりと浮かび上がった。

「なに⁉」

レオは魔物を斬り払いながら、怒気を孕んだ声で叫ぶ。

「なぜ、そこまでして我が国を滅ぼそうとする!」

クラリーチェは両足を揃え、ゆっくりと宙に腰を下ろした。その姿はまるで、王座に座る女王のようだった。

「――かつて、この国の建国の頃。魔女と王族は、心を通わせていた。」
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