第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第1部 拒まれた愛 ①

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兄が国の騎士団長に任命されたのは、春先の事だった。

代々続く騎士の家系。

そこから騎士団長に選ばれるのは、家としても誉だった。

かくいう妹の私も剣術を習い兄と一緒に励んでいた。

「リリアーナ。おまえは剣さばきが特にうまい。一緒に王都に来るか。」

「はい!」

兄のダリウスに従い、私はこの国の王都・ヴィレンに辿り着いた。

王都は、噂に違わぬ華やかさだった。

白い石畳と重厚な城門。

行き交う騎士や兵士たちの間を、ドレス姿の貴婦人たちが優雅に歩く。

けれど、空気の端に、どこか緊張が走っていた。

「どうしたの? 皆、険しい顔をしているけれど。」

訓練場で剣を振るう騎士たちの間を抜け、私は兄に声をかけた。

兄・ダリウスは少し難しい顔をして私を見つめる。

「北方で反乱が起こっている。だから北方出身の俺が騎士団長になったんだ。」

「えっ……そうなの?」

思わぬ事態に、胸がざわつく。

「だが、王都にいるならリリアーナも安心だ。」

「……だから連れてきたの?」

剣さばきが上手いとか言って、おだてられてついてきてしまったけれど――まさかそんな理由だったなんて。

兄はわずかに目を伏せ、そして笑った。

「……おまえが巻き込まれたら、俺が後悔する。」

その言葉に、胸が少しだけ、痛んだ。

宮殿に着いた私たちを、同じ騎士団の仲間たちが出迎えてくれた。

「騎士団長。アシュレイ殿下がお目通りを願っています。」

「……ああ、第3皇子の。」

兄は短く答えると、廊下の奥に視線をやった。

そこには一人の美丈夫が立っていた。

「アシュレイ殿下。」

兄が名を呼んだ瞬間、奥の部屋から鋭い声が聞こえた。

「今夜くらいいいじゃないか!」

「体調が悪いの!」

「もうすぐ戦が始まるんだぞ!妃と過ごして何が悪い!」

その場にいた誰もが一瞬、動きを止めた。

(……え? いまの、夫婦喧嘩?)

私は思わず兄の顔を見たが、彼は何も言わず前を向いたままだった。

ドアの向こうで、言い合いは続いていた。王子の激情と、妃の拒絶――

胸の奥が、なぜかざらつく。

初めて聞いたその声は、冷たい怒りの中に、どこか…寂しさを含んでいた。

そしてしばらくすると、噂の“アシュレイ殿下”が私たちの方へと歩いてきた。

「アシュレイ殿下。騎士団長に任命されました、ダリウス・ファルクレストです。」

兄が姿勢を正し、敬礼を送る。

彼は、背筋を伸ばし毅然と立つ兄の前に立ち止まった。その瞳は――深く澄んだ、緑。

(……綺麗。)

思わず見惚れてしまう。まるで宝石のような瞳だった。

「第3皇子、アシュレイだ。今度、将軍を任された。」

落ち着いた声。低く、冷たい印象を受けたけれど、不思議と耳に残る響きだった。

「一緒にこの国を守りましょう。」
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