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第1部 拒まれた愛 ②
兄が誓いの言葉を述べると、彼は静かにうなずいた。
そのとき――彼の視線が、ふと私に向けられた。
「……君は?」
短く問いかけられ、私は一瞬、胸の鼓動が跳ね上がった。
緑の瞳に見つめられた瞬間、世界の色が変わった気がした。
「妹の、リリアーナと言います。」
私は軽く頭を下げた。するとアシュレイ殿下は、意外なほど気さくに右手を差し出してきた。
「よろしく。」
その手を握った瞬間、温かさと同時にどこか鋭さも感じた。
「あのっ!」
一歩踏み出すようにして声を上げる。
「ん?」
視線が重なる。私は緊張を振り払うように、三つ編みの髪を後ろへとかき上げた。
「私も……騎士の一人です。一緒に戦います。」
殿下の眉がぴくりと上がり、目をぱちくりさせた。
「君が⁉」
その表情が、驚きと興味に変わっていくのがわかった。
「はい。そのつもりで、ここにやってきました。」
一瞬の静寂の後、アシュレイ殿下は小さく噴き出した。
「……勇ましいご令嬢だな。」
笑った顔も、思っていたよりずっと優しい。
私は胸の奥が不思議に熱くなるのを感じていた。
「失礼ですが、お妃様は……身重なのですか?」
私の問いに、アシュレイ殿下は少し目を細めた。
「ん?」
「……恐れ多いのですが、先ほどの会話が、少しだけ耳に入ってしまいまして。」
殿下は一瞬驚いたような顔をし、それから寂しげに笑った。
「ああ。喧嘩のことか。」
その声には怒りよりも、どこか哀しみが滲んでいた。
「彼女は、身ごもってはいないんだ。ただ……夜を共にすることも、もうずっとなくてね。」
私は何も言えなかった。ただ、殿下の静かな声を聞いていた。
「無理には誘わないよ。彼女を大切にしたいから……でも、たまに寂しい夜もあるんだ。」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
(ああ……この人は、冷たい人なんかじゃない。)
誰にも寄りかかれない孤独を、ひとりで抱えている――
その姿が、なぜかとても、愛おしく思えた。
そしてまた奥へと去っていく彼の背中を、私は黙って見つめていた。
その姿が小さくなっても、緑の瞳の輝きは、まぶたの裏に残っている。
「……綺麗な瞳だっただろ。」
隣で兄が、ふと声をかけてきた。
「うん。まるで……エメラルドみたいだった。」
「あまりの美しさに、“ヴィレンの秘宝”って呼ばれてるんだ。」
あの金色の髪に、中性的な整った顔立ち。そして宝石のような緑の瞳。
確かに、見惚れるのも無理はない。
「何でも……お母上が、それまた美しい方だったらしい。」
「そうなの!?」
「王の側妃だったそうだ。王妃ではないが……王が心から愛した女性だったとか。」
そのとき――彼の視線が、ふと私に向けられた。
「……君は?」
短く問いかけられ、私は一瞬、胸の鼓動が跳ね上がった。
緑の瞳に見つめられた瞬間、世界の色が変わった気がした。
「妹の、リリアーナと言います。」
私は軽く頭を下げた。するとアシュレイ殿下は、意外なほど気さくに右手を差し出してきた。
「よろしく。」
その手を握った瞬間、温かさと同時にどこか鋭さも感じた。
「あのっ!」
一歩踏み出すようにして声を上げる。
「ん?」
視線が重なる。私は緊張を振り払うように、三つ編みの髪を後ろへとかき上げた。
「私も……騎士の一人です。一緒に戦います。」
殿下の眉がぴくりと上がり、目をぱちくりさせた。
「君が⁉」
その表情が、驚きと興味に変わっていくのがわかった。
「はい。そのつもりで、ここにやってきました。」
一瞬の静寂の後、アシュレイ殿下は小さく噴き出した。
「……勇ましいご令嬢だな。」
笑った顔も、思っていたよりずっと優しい。
私は胸の奥が不思議に熱くなるのを感じていた。
「失礼ですが、お妃様は……身重なのですか?」
私の問いに、アシュレイ殿下は少し目を細めた。
「ん?」
「……恐れ多いのですが、先ほどの会話が、少しだけ耳に入ってしまいまして。」
殿下は一瞬驚いたような顔をし、それから寂しげに笑った。
「ああ。喧嘩のことか。」
その声には怒りよりも、どこか哀しみが滲んでいた。
「彼女は、身ごもってはいないんだ。ただ……夜を共にすることも、もうずっとなくてね。」
私は何も言えなかった。ただ、殿下の静かな声を聞いていた。
「無理には誘わないよ。彼女を大切にしたいから……でも、たまに寂しい夜もあるんだ。」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
(ああ……この人は、冷たい人なんかじゃない。)
誰にも寄りかかれない孤独を、ひとりで抱えている――
その姿が、なぜかとても、愛おしく思えた。
そしてまた奥へと去っていく彼の背中を、私は黙って見つめていた。
その姿が小さくなっても、緑の瞳の輝きは、まぶたの裏に残っている。
「……綺麗な瞳だっただろ。」
隣で兄が、ふと声をかけてきた。
「うん。まるで……エメラルドみたいだった。」
「あまりの美しさに、“ヴィレンの秘宝”って呼ばれてるんだ。」
あの金色の髪に、中性的な整った顔立ち。そして宝石のような緑の瞳。
確かに、見惚れるのも無理はない。
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