第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第1部 拒まれた愛 ③

「……なんでそんなに詳しいの?」

思わず問い返すと、兄は少しだけ口元をゆがめた。

「騎士団長ともなれば、いろいろと耳に入るさ。」

そう言う彼の表情の奥に、何か言葉にできないものがあった。

それが何なのか――今の私には、まだ分からなかった。

数日後、私も騎士団の鍛錬に参加した。

「やっ! はっ!」

「やあああ!」

気合いの声が飛び交う中、私の相手をしてくれたのは、年の近いルークだった。

「妹さん、リリアーナでしたっけ。筋がいいですね」

軽快に剣を受けながら言うルークの声に、私は少し頬を緩めた。

「騎士の家系なもんで、幼い頃から好きなんですよ。」

と、兄にベテランのギルバートさんが話しかけるのが聞こえた。

その時だった。

鍛錬場の空気がぴりりと引き締まり、皆が一斉に頭を下げた。

「……ああ、続けて。」

その声――振り返ると、いつの間にかアシュレイ殿下が立っていた。

陽の光を受けて、金の髪がきらりと揺れる。

彼の緑の瞳が、まっすぐに私を捉えていた。

鼓動が跳ねる。剣を握る手に、自然と力が入る。

(見てる……私のことを。)

そう思った瞬間、また一歩、この人が私の中に踏み込んできた気がした。

休憩中、木陰で汗を拭っていると、誰かの気配が近づいてくる。

振り返れば、アシュレイ殿下だった。

「殿下。」

慌てて立ち上がり敬礼をすると、彼の視線が私の手に落ちた。

「あの……」

言葉を探していると、彼がそっと私の手を取った。

「血豆だらけだね。頑張ってる証拠だ。」

傷だらけの手を見られて、恥ずかしくてたまらなかった。

女らしい綺麗な手じゃないのに――そう思った瞬間。

「でも、俺の好きな手だよ。」

さらりと告げられた言葉に、胸が熱くなる。

「ありがとうございます……」

それだけ言うのが精一杯だった。

アシュレイ殿下は静かに微笑み、空を見上げた。

「綺麗な空だね。」

「は、はい!」

ぎこちなく返事をすると、彼がくすりと笑った。

「まだ緊張してるの?」

その声が、少しだけ優しくて――

私は、心のどこかがふわりとほどけていくのを感じていた。

するとアシュレイ殿下が、ふと窓の方に視線を向けた。

その先――宮殿の上階の廊下に、一人の女性が立っていた。美しい金髪、端正な顔立ち。

「もしかして……お妃様?」

「……ああ。カトリーナ!」

殿下がその名を口にしたと同時に、彼女は何も言わず、こちらに目もくれずに背を向けて去っていった。

「仲、悪いんですか?」

そう聞いた瞬間、自分の無礼さに気づき、私は慌てて口を押さえた。

「はっきり言うね。」

「す、すみません……!」

謝る私を見て、殿下はふっと笑った。

「俺、嫌われてるのかな。」

「そんな……」

思わず言葉が出る。彼は、ただ彼女に優しさを向けたかっただけなのに。

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