第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第2部 戦の兆し ②

「君が……あまりにも美しくて……欲しくてたまらないんだよ。」

アシュレイ殿下の声は震えていた。

どこか哀願にも似た響きが、耳に残る。

「アシュレイ……」

カトリーナ妃の声が揺れる。

「君に受け入れてもらいたい。それが……俺の希望になるんだ。」

まるで、結婚しているのに――片想いをしているみたいだった。

その真っ直ぐな想いが切なくて、胸が締めつけられる。

けれど、カトリーナ妃はそっと、殿下の腕を引き離した。

「……ごめんなさい。」

「え?」

「どうしても……あの、吐息が……」

顔を背ける彼女の頬が、かすかに震えていた。

「自分が、淫らな女になるのが……嫌なんです。私は、高潔でいたいの。」

静かに、けれどはっきりと告げられた言葉に、殿下は何も言えなくなった。

その場に残されたのは、深く沈黙するアシュレイの背中だけだった。

――こんなに想われているのに、届かない。

私は息を呑んで、そっと木陰から目を伏せた。

胸の奥に、アシュレイ殿下への想いが、静かに根を張り始めていた。

もう行こう――そう思った瞬間だった。

パキンッ。

小枝を踏んだ音が、静寂の中に鋭く響いた。

しまった、と思った瞬間、振り返ったアシュレイ殿下と目が合った。

「……あっ。」

「聞いてたのか。」

低い声。怒っているわけではないけれど、逃げられない気がした。

「す、すみません……!」

私は慌てて頭を下げた。すると殿下は、はぁーっと深く息をついて、ぽつりと呟いた。

「……リリアーナは、男に抱かれるのって、どう思う?」

「えっ!」

顔が一気に熱くなる。そんなの、知らない!

答えに困っていると、彼はふっと笑った。

「なんだ、まだ乙女か。」

からかうような口調に、恥ずかしさと悔しさが混ざる。

「……恋人は?」

「いません。」

素直に答えると、殿下は少しだけ目を細めた。

「好きな人は?」

不意に向けられた問いに、心臓がどくんと跳ねた。

答えようとした瞬間――

あのエメラルドの瞳が、ふいに胸の奥で揺れた。

「……側にいたい人は?」

殿下の声は静かで、優しくて。

私は、自分でも気づかないまま口を開いていた。

「……綺麗な人です。」

「美男子ってやつか。」

少し笑った殿下の声に、なぜか胸がくすぐったくなる。

「剣を持つところが……カッコいいんです。」

「なんだ、騎士か?」

冗談めいた口調。けれど私は、彼の横顔をじっと見つめながら、心の中で呟いた。

(いいえ、あなたのことです。)

言いたくて、でも言えなくて。

唇を噛みしめながら、自分の鼓動の速さに戸惑っていた。

――あれ?

私、いま……アシュレイ殿下に、恋をしてる?

気づいた瞬間、胸の奥が、甘くも苦しくきゅっと締めつけられた。

もう、後戻りなんてできない。

そう直感した。

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