第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第4部 勝利と帰還 ①

翌朝、目を覚ますと――アシュレイの姿はなかった。

隣にいたはずの温もりは消え、代わりに静寂が広がっていた。

(あの夜は……夢?)

そんな不安がよぎったその時、テントの布が揺れた。

「……リリアーナ。」

兄・ダリウスが入ってくる。私は慌てて胸元を押さえた。

「っ……!」

「……ああ、いい。殿下が“ゆっくり休め”と仰せだった。」

そう言って兄は、あえて視線を外してくれた。

恥ずかしさと、胸の奥のじんわりとした余韻に、私は俯く。

――アシュレイは、もう戦場に立っている。

「……すぐに、準備します。」

急いで服を羽織ると、兄の声がふと低くなった。

「……抱かれたのか?」

言葉が喉に詰まり、私は何も答えられなかった。

兄はしばらく沈黙し、それから呟く。

「戦の前の晩、女は……禁忌なんだぞ?」

「……ああ……」

その声には、叱責ではなく、ただ静かな心配と、理解が滲んでいた。

「でもな……殿下、まるで水を得た魚みたいに、戦場で猛々しいんだよ。」

「……えっ!? そうなの!?」

思わず声を上げてしまった。

(なんで……元気になってるの⁉ あんなに、たくさんしたのに⁉)

兄は腕を組んで私をまじまじと見た。

「おまえ、どんな手技を使ったんだ?」

「はあっ!?」

「いや、冗談抜きで。あんなに自信満々な男、久々に見たぞ。」

「ちょ、ちょっと! 私は乙女だったし!?」

「初めてで⁉ 征服感⁉ おまえ、聖女か?」

「ちがっ……!」

私の顔はきっと真っ赤だった。でも、そんな兄のからかいに、なぜかふっと笑ってしまう。

「……ただ、アシュレイを受け入れただけよ」

それは照れでも強がりでもなく、私の中に芽生えた確かな誇り。

愛され、愛した一夜が、私を少しだけ強くしていた。

敵陣を目前に、アシュレイの号令が響く。

「敵を――討て!」

「おおおおおっ!」

雄たけびと共に、騎士たちが一斉に動いた。

私も剣を構え、風を切るように前へと駆け出す。

「はああっ!」

目の前に現れた敵兵に、真っ向から斬りかかった。

「……女?」

敵が目を丸くする。

「姉ちゃん、連れて帰りたいわ~」

「ふざけるなっ!」

剣を交えた瞬間、敵の容赦ない斬撃が襲ってくる。

冗談を言っていた口とは裏腹に、殺気は本物だった。

(やっぱり怖い……でも、負けられない!)

そのとき――鋭い剣閃が私の前を走った。

「後ろに回れ!」

アシュレイ――!

敵兵が倒れ、血が地に散る。

「アシュレイ!」

「……何? 皇子だと気づいた?」

敵がどよめく。

「いかにも! 第3皇子・アシュレイ・ルヴェールだ!」

その声と同時に、殿下は私の背中を守るように立ち、剣を閃かせながら、次々と敵を斬り払っていく。

私たちは背中を合わせながら、ひとつの命として――戦っていた。

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