第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第6部 妃の怒り ①

それから、二週間が経った頃だった。

廊下を歩いていると、耳に刺さるような声が聞こえてきた。

「見て、リリアーナ嬢よ。」

「毎晩、アシュレイ殿下のお部屋に通っているらしいわ。」

「えっ、そんな……妃様がいらっしゃるのに?」

私は立ち止まることなく歩き続けた。けれど、足取りが自然と重くなる。

どれも事実で、否定できる言葉は見つからない。

(……やっぱり、気づかれていたんだ)

夜ごとに交わす熱い囁きも、扉を閉じたはずの吐息も、すべて──宮中には筒抜けだったのだ。

ふと、後ろから小走りの足音が聞こえた。

振り返ると、若い使用人が慌てて頭を下げた。

「お気になさらないでください、リリアーナ様。」

「え……」私は目を見張る。

「私たち、わかっております。殿下が、どれほどあなたを大切にしておられるか。見ていれば伝わります。」

「…………ありがとう。」

私は小さく笑みを返すと、深く頭を下げた。

そのとき、もう一人、年配の侍女がそっと言った。

「リリアーナ様は、私たちの希望の星です。どうかご自分を恥じないでくださいませ」

胸の奥に、じんと熱が灯った。

それは恋の熱とも違う、確かな"誇り"のようなものだった。

けれど──その翌日、それは突然起こった。

ノックの音もなく扉が開かれ、現れたのは見間違いようのない人影。

カトリーナ妃だった。

「カトリーナ様……」

私は立ち上がり、微笑みをたたえながら会釈をした。

「どうぞ、おかけになってください。」

けれど彼女は一歩も動かず、冷ややかな眼差しで私を見下ろしてきた。

その唇は怒りに震えている。

「どういうつもりなの?」

「え……?」

「愛人のくせに、毎晩アシュレイを独り占めするなんて。立場をわきまえているつもりなの⁉」

言葉の棘が容赦なく突き刺さる。

カトリーナ妃の瞳は、怒りと――どこか哀しみすら帯びていた。

私は胸元を押さえた。震える心を、なんとか抑え込む。

「……愛し合っているのに、会うなと言うのですか?」

静かに放った私の言葉に、彼女の顔がさらに歪む。

「愛?」

彼女は鼻先で笑った。

「妃というのはね、愛されるだけでは務まらないの。王族の子を産み、立場を守る。それが妃の責務よ。」

「……それでも私は、アシュレイ殿下を、心から――」

「黙りなさい!」

強い語調に、私は思わず唇を噛みしめた。

「あなたのような女がいるから、私はアシュレイから拒まれるのよ……っ」

彼女の声音が震えるのを聞いたとき、私は初めて、彼女もまた傷ついているのだと気づいた。

――でも、それでも私は退かない。

心からの愛を、今さら偽れないのだから。

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