第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第6部 妃の怒り ③

夜中、ふと目が覚めた。どうしても眠れず、私はそっとベッドを抜け出した。

静まり返った廊下。トイレへ向かう途中、ある部屋の前で立ち止まる。

扉の隙間から、わずかに明かりが漏れていた。

(……カトリーナ妃の部屋?)

と、その時だった。

「来てくれたと思ったら、“あの女を虐めるな”ですって⁉」

カトリーナ妃の怒声が、扉越しに響いた。

私は反射的にその場に身をひそめた。

続く声は、低く、しかし確かにアシュレイのものだった。

「あれは暴力だ! 許されることじゃない!」

アシュレイの怒声に、カトリーナ妃は唇を噛みしめた。その瞳には、怒りと哀しみとが入り混じる。

「……あの女が、そんなに大事なの?」

そう言いながら、カトリーナ妃は自らのナイトウエアの紐を解いた。薄絹が滑り落ち、白い肩が露わになる。

「だったら……側妃だっていいわ。私が正妃だもの。私が、あなたの子供を産めばいいんだもの。」

そのまま、彼女はアシュレイにすがりつくようにして近づき、腕を絡めた。

しかし次の瞬間、アシュレイは彼女の両肩をしっかりと掴んだ。

「……やめろ、カトリーナ。」

「やめない。だって、あなたは私の夫なのよ。私を抱けないはずなんてない!」

「違う。心を通わせた相手がいる。――リリアーナが。」

「そんなの関係ない……!」

涙混じりに叫ぶと、カトリーナ妃はアシュレイをベッドに押し倒そうとした。

けれど、その手を強く振り払われた。

「……やめてくれ。これ以上、自分を貶めるな。」

アシュレイの声は、怒りでも拒絶でもなく、哀しみだった。

「俺はもう、君を抱けない。」

静かなその一言が、まるで刃のようにカトリーナ妃の胸を貫いた。

彼女は崩れるように床に座り込む。

ナイトウエアが肩から滑り落ちたまま、震える唇で呟く。

「どうして……私じゃ、だめなの……?」

アシュレイは、その問いに答えず、そっと彼女に毛布を掛けた。

「君の幸せは、ここにはない。――もう戻れないんだ。」

そして、静かに扉の方へと歩き出した。

まずい。このままじゃ、盗み聞きしていたのがバレてしまう――。

私は音を立てぬようそっと後ずさり、自室へ戻ろうとした。

だが、

「……リリアーナ。」

その低く優しい声に、足が止まった。

「アシュレイ……」

振り返ると、彼はまっすぐに私を見ていた。

そして、一歩、また一歩と近づいてくる。

「眠れないのか?」

「え、ええ……少しだけ……」

アシュレイは私を優しく抱き寄せ、目を伏せる私の唇にそっと自分の唇を重ねた。

「じゃあ……眠れるようにしてあげるよ。」

囁く声は甘くて、どこか意地悪で、でも安心感に満ちている。

「え……?」

「俺に抱かれて、ぐったり疲れて眠ればいい。」

その言葉と同時に、強くぎゅっと抱きしめられる。

背中に回された腕は、まるで決して離さないと誓うかのように力強く。

「リリアーナ……君が誰よりも、大切なんだ。」

胸の奥まで震える声で、彼はそう言って、私を自分の部屋へと連れて行った。

広々とした天蓋付きのベッド。

まるで王の威厳そのもののようで、どこかおとぎ話の中にいるようだった。

「こ、ここって……」

「俺の寝室だ。」

その言葉に胸が高鳴る。ここに招かれた意味を、私は分かっていた。

「でも……私、正妃じゃ……」

「同じようなものだ。」

アシュレイに抱き寄せられ、ナイトウエアが肩から滑り落ちる。肌に触れる彼の指先は熱くて、優しい。

「リリアーナの胸……甘くて、好きだ。」

囁きと共に重ねられる口づけ。愛しさが、静かに、でも確かに火を灯していく。

その夜、私は彼の腕の中で、ただひとりの「愛される女」になった。

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