第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第9部 新しい妃として ②

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「ん?アシュレイ・ルヴェール……どこかで聞いた名前だな。」

父が首を傾げてつぶやく。

「あなた、ダリウスの手紙に出てきた人じゃない?」

母の言葉に、父が目を見開いた。

「ああ、あのアシュレイ殿下か? 馬鹿な、まさか。あの方はダリウスの上司で、この国の第3皇子だぞ。」

その瞬間、アシュレイが少し引きつった笑みを浮かべながら口を開いた。

「ええと……僕が、その第3皇子のアシュレイ・ルヴェールです。」

「えっ⁉」

父と母が同時に驚きの声を上げた。信じられないものを見るようにアシュレイを見つめる。

一瞬、部屋の空気が凍りついたようだった。

「……うそだろ……本当に、あのアシュレイ殿下……?」

「リリアーナ、本当なの?あなた、皇子様と……?」

私は恥ずかしさと誇らしさで胸がいっぱいになりながら、こくりと頷いた。

「待て待て。第3皇子殿と言ったら、ダリウスの手紙によると……」

父が腕を組んで、アシュレイをじっと見据えた。

「次の国王になるかもしれないと書いてあったぞ。」

場の空気が一気に張りつめる。

「そうなったら……リリアーナは王妃としての務めを果たせるのだろうか。」

その問いに、私はぎゅっと手を握りしめた。

父は、家の名誉よりも、この国の未来を案じているのだ。

さすがは騎士の家柄。国を背負う覚悟がある。

そんな父に向かって、アシュレイは静かに、しかしはっきりとした声で言った。

「お父上。リリアーナさんは、俺が――このアシュレイ・ルヴェールが選んだ人です。」

その言葉に、私は思わず顔を上げた。

「もし僕が、国王になったとしても……彼女はきっと、王妃として立派に務めを果たしてくれる。僕は、そう信じています。」

アシュレイの瞳には、一点の曇りもなかった。

私のことを、ただの妻ではなく、未来を共に築く“王妃”として見てくれているのだ。

父はしばし黙ったまま、アシュレイを見つめていた。

「正直、騎士の家柄から王族に嫁ぐなんて話、聞いたことがありません。」

父の声には、動揺と疑念が混ざっていた。

「何か間違っていませんか?」

アシュレイは穏やかに、しかしはっきりと首を振った。

「間違いなど、微塵もありません。確かに僕は、リリアーナさんを選びました。」

その言葉に、私の胸が熱くなる。だが父は食い下がる。

「……もし、リリアーナが貴族出身ではないと、王宮で蔑まれたら?」

「お父さん……」

私は思わず、父の腕を掴んでいた。これ以上はアシュレイが可哀想だ。

けれどアシュレイは、微笑みながら前に出た。

「僕が、リリアーナさんを全力で守ります。」

アシュレイのその言葉には、微塵の迷いもなかった。

父はしばらく黙っていたが、やがて静かに問いかけた。
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