第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第10部 新しい命と未来 ①

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私たちが結婚して、三か月が過ぎたある日。

宮廷に悲しい知らせが駆け巡った。

「えっ……⁉ 皇太子殿下が、病で倒れたの?」

私は声を上げ、アシュレイの顔を見た。

彼はただ黙って頷いたが、その表情には明らかに悲しみと動揺が滲んでいた。

「エドワルド兄は……もう長くはもたないかもしれない。」

「そんな……」

皇太子殿下、エドワルド様は病弱ながらも誠実なお人柄で、民にも臣下にも慕われていた。

誰よりも国を愛し、責務を果たそうとしてきた方だ。

「兄上には子供がいない。」

ぽつりとアシュレイが呟いた。

伏せたままの瞳が、どこか遠くを見ているようで、私はそっと彼の手を握った。

「次の皇太子は、セシル兄が継ぐと思う。」

その名に、私は小さく頷いた。

文官として内政に長けた方――静かで温厚な眼鏡の青年が脳裏に浮かぶ。

「それはそれで、教養豊かな国になりそうね。」

少しだけ明るい話題に変えたくて、私は微笑んだ。

アシュレイも口元をほころばせた。

「……そうだな。兄上は、民の学を重んじる人だから。」

「あなたも、そういう国が好きでしょう?」

「うん。でも……」

アシュレイの声がわずかに震えた。

「俺は、エドワルド兄の代わりになれるとは思わない。」

「なる必要なんてないわ。」

私は彼の手を両手で包んだ。

「あなたには、あなたのやり方がある。」

アシュレイは静かに息を吐いた。

「ありがとう、リリアーナ。君がいてくれて、よかった。」

彼の指先に、ようやく微かな温もりが戻った気がした。

しばらくして、皇太子エドワルド殿下の容態がさらに悪化した。

死を悟った殿下は、私とアシュレイを病床に呼んだ。

静かな部屋には、既にセシル殿下も腰かけていた。

「兄上……」

ベッドの傍に膝をついたアシュレイが、苦しげに顔を伏せる。

エドワルド殿下は痩せ細った手を伸ばし、アシュレイの手を優しく握った。

「泣くな、アシュレイ。」

「しかし……兄上は……」

こらえきれずに落ちた涙が、アシュレイの頬を伝った。

「俺はただ、この世から去るだけだ。悲しむな。お前には、まだなすべきことがある。」

弱々しくも静かな声。

だが、その瞳には揺るぎない意思が宿っていた。

「皇太子殿下……」

アシュレイが、いつになく改まった声で口を開いた。

震える声を抑えるように背筋を伸ばし、兄を真っ直ぐに見つめる。

「妾腹の俺を……本当の弟として扱って頂き……本当に感謝しています。」

その瞳には、涙が溢れていた。

「指揮官に任命していただいた時も……あの時、あなたは……」

声が震え、言葉が詰まる。思い出の重さが、胸に押し寄せるのだろう。

「あなたは、俺に……絶大な信頼を寄せてくれて……」
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