家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第3部 見捨てられた令嬢、伯爵邸で咲く

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「そう。それはよかったわ。あの子は真面目なところがあってね。女にも真面目なのよ。」

そう言って、どこか懐かしむような目をした。

「……何て言ったかしら、あの幼馴染みの……」

「キャリーですか?」

私がそっと名前を出すと、お母様は「ああ、そうそう」と頷いた。

「キャリーにもね、手を出さなかったのよ。どんなに親しくしていてもね。そういうところ、あの子は律儀なの。」

私は胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。

――真面目で、誠実。セドリックのそんな一面を、私はもっと知りたくなった。

そして彼を選んだことが、少しずつ誇らしく思えてくるのだった。

「でも、あの子……初めてで戸惑わなかった?」

お母様が茶目っ気たっぷりに尋ねてきた。

「むしろ……私の方が戸惑いました。」

そう答えると、お母様は意外そうに目を丸くする。

「まあ。あなたも男性経験、なかったの?」

その言葉に、私は思わず笑ってしまった。

「はい。初めてでした。」

するとお母様は、ふっと遠くを見るような目をしたあと、ぽつりと語り始めた。

「私はね……お父様と結婚する前に、結婚を約束していた人がいてね。その人と、若い頃……愛し合っていたの。」

私は一瞬、言葉を失った。
ということは……お母様は結婚する時、処女ではなかったということ?

「でも、お父様にどうしても“伯爵夫人になってほしい”って言われてね。あの人、ちょうど爵位を受けたばかりだったのよ。貴族の妻になるのも、悪くないって思ったの。」

それは淡々としていながら、どこか切なさの混じった語り口だった。

「でもね、クラリス。貴族社会は――本当に恐ろしいものよ。」

お母様は声のトーンを落とし、紅茶のカップをそっと置いた。

「作法ひとつ知らないだけで、とことん蔑まれるの。私もね、まだ成り上がったばかりだったから、許された部分もあった。でも……心の中で笑っている人は、きっと大勢いたわ。」

私は何も言えなかった。

お母様がその言葉をどれほどの重みで口にしているか、痛いほど伝わってきたからだ。

――苦労されたのだ。きっと、誰にも言えないような。

「だから、キャリーには悪いけれど……セドリックが貴族の娘を妻に迎えられて、本当によかったと思っているの。あなたなら、蔑まれることもないもの。」

お母様は優しく微笑んだ。

でも、私の胸に刺さるものはあった。

「でも……私には、そばかすがあります。」

思わず、ぽつりと口から出ていた。

何の価値もない、そんな言葉。

だが、お母様はその言葉に、ふっと小さく笑って言った。

「クラリス、それがあなただけの魅力よ。」

私の中にあった、少しの痛みが溶けていくようだった。
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