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第10部 ふたりの城と、落ちぶれた家族の末路
④
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「何を困らせているのですか。」
セドリックがそう問いかけると、母は少しうろたえた様子で言葉を探していた。
「いやね、その……」
「この屋敷に住みたいって言いだしているの。」
私が母の代わりに正直に伝えた。
セドリックの眉が一瞬だけ動いたのを、私は見逃さなかった。
「住む場所ですか。」
「だからね。クラリスももうすぐ赤ちゃんが生まれるでしょう?私も手伝えるし……」
母は懸命に理由を並べ立てる。
けれど、どこか説得力に欠けていた。
セドリックは椅子に深く腰を下ろし、落ち着いた声で言った。
「まずは、お父様と話し合いを。」
その言葉に、母の表情が凍る。
セドリックは怒るでもなく、突き放すでもなく、ただ冷静にやんわりと断っただけだった。
でもそれが一番効いた。
「……話し合いなんて、もう無理よ。」
母は小さくつぶやいた。
「それでも、けじめは必要です。」
セドリックはそう付け加え、私の手を優しく取った。
そして一週間後、今度は父が一人でこの屋敷にやってきた。
「お父様⁉」
玄関先で出迎えた私は、思わず声を上げた。かつて威厳に満ちていた父の姿はそこになく、衣服はくたびれ、髪も乱れていた。
「クラリス、元気か?」
その言葉にも、かつての堂々とした調子はなく、どこかすがるようだった。
「どうしたの?お母様に……離婚の話、されたんでしょ?」
私が問いかけると、父はぎくりとした表情を浮かべた。――知らないとでも思っていたのだろうか。
「まさか、お母様に追い出されそうになっているの?」
私が問いかけると、父はわずかにうつむいた。
父の姿が、どこか哀れで、情けなく見えた。
だけど私の胸の奥には、かつて感じたことのない複雑な感情が湧いていた
「そうなんだ。それでなぜか慰謝料まで請求されてな……」
父は深いため息をついた。
「なぜかって、愛人を囲っていたからでしょ。」
私は呆れを隠せずに言った。父の顔がピクリと動く。
「……なんで知ってる。」
「お母様から聞いたのよ。」
その瞬間、父の顔は面目をつぶしたように歪んだ。かつての威厳は影も形もない。
「……はっきり言って、金などない。そこでな……屋敷を売ろうと思うんだ。」
「エルバリー家の屋敷を⁉」
私は思わず声を上げていた。
実家の屋敷――代々続いてきたエルバリー家の象徴。
その重厚な門、立派な庭園、母が愛した温室……私にとっては、思い出が詰まった大切な場所だった。
「そんな……」
実家がなくなる。そう思った瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。
あんなにも華やかだった家が、父の失態で――壊れていくなんて。
セドリックがそう問いかけると、母は少しうろたえた様子で言葉を探していた。
「いやね、その……」
「この屋敷に住みたいって言いだしているの。」
私が母の代わりに正直に伝えた。
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「住む場所ですか。」
「だからね。クラリスももうすぐ赤ちゃんが生まれるでしょう?私も手伝えるし……」
母は懸命に理由を並べ立てる。
けれど、どこか説得力に欠けていた。
セドリックは椅子に深く腰を下ろし、落ち着いた声で言った。
「まずは、お父様と話し合いを。」
その言葉に、母の表情が凍る。
セドリックは怒るでもなく、突き放すでもなく、ただ冷静にやんわりと断っただけだった。
でもそれが一番効いた。
「……話し合いなんて、もう無理よ。」
母は小さくつぶやいた。
「それでも、けじめは必要です。」
セドリックはそう付け加え、私の手を優しく取った。
そして一週間後、今度は父が一人でこの屋敷にやってきた。
「お父様⁉」
玄関先で出迎えた私は、思わず声を上げた。かつて威厳に満ちていた父の姿はそこになく、衣服はくたびれ、髪も乱れていた。
「クラリス、元気か?」
その言葉にも、かつての堂々とした調子はなく、どこかすがるようだった。
「どうしたの?お母様に……離婚の話、されたんでしょ?」
私が問いかけると、父はぎくりとした表情を浮かべた。――知らないとでも思っていたのだろうか。
「まさか、お母様に追い出されそうになっているの?」
私が問いかけると、父はわずかにうつむいた。
父の姿が、どこか哀れで、情けなく見えた。
だけど私の胸の奥には、かつて感じたことのない複雑な感情が湧いていた
「そうなんだ。それでなぜか慰謝料まで請求されてな……」
父は深いため息をついた。
「なぜかって、愛人を囲っていたからでしょ。」
私は呆れを隠せずに言った。父の顔がピクリと動く。
「……なんで知ってる。」
「お母様から聞いたのよ。」
その瞬間、父の顔は面目をつぶしたように歪んだ。かつての威厳は影も形もない。
「……はっきり言って、金などない。そこでな……屋敷を売ろうと思うんだ。」
「エルバリー家の屋敷を⁉」
私は思わず声を上げていた。
実家の屋敷――代々続いてきたエルバリー家の象徴。
その重厚な門、立派な庭園、母が愛した温室……私にとっては、思い出が詰まった大切な場所だった。
「そんな……」
実家がなくなる。そう思った瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。
あんなにも華やかだった家が、父の失態で――壊れていくなんて。
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