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第10部 ふたりの城と、落ちぶれた家族の末路
⑤
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「なんとかならないの?」私は絞り出すように尋ねた。
父は肩をすくめて、「だったら、母親に言ってくれ。慰謝料を請求するのは止めろと。」と、他人事のように言った。
気が遠くなる思いだった。
なぜ自分のしたことに、責任を持たないのだろう。
「それでな……」と、父は言いにくそうに口を開いた。「私を、このグレイバーン家で引き取ってくれんか……?」
「住む場所なんてありません!」
私の声は思わず怒気を帯びていた。
この人は、何も変わっていない。
家を傾け、妻を裏切り、娘にすがる――まるで、都合のいい時だけ父親を名乗ってくるようで、情けなかった。
その一喝に、父は肩を落とし、背中を丸めて門を出て行った。
あれが、エルバリー家の当主だった人――。
私はただ呆然と、その小さくなった背中を見送るしかなかった。
その夜、私は暖炉の前でため息ばかりついていた。
「どうした、クラリス。」
セドリックがワインのグラスを置きながら声をかけてくる。
「それがね、お父様が来たの。」
私は眉をひそめたまま答えた。
「今度は父親か!」
セドリックも呆れたようにため息をついた。
「お母様に慰謝料を請求されてて……それで、屋敷を売るとか言い出してるの。」
「エルバリー家の屋敷を?」
セドリックは驚いた様子で私を見つめた。
「うん。あの家がなくなるなんて、想像したこともなかった。」
私は思わず、膝の上の手を強く握る。
どんな形であれ、あの家は私の原点だった。
失われるのは、何か大事な一部を失うようで……切なかった。
「クラリス。」セドリックがそっと私の隣に腰を下ろし、肩を抱く。
「悲しいな……」私はセドリックの胸にすがった。
「お願い、セドリック。屋敷を、何とかできないかしら。」
自分でも、馬鹿なお願いだと分かっていた。
父の失態、母の怒り、すべてはエルバリー家が招いた当然の結果。
「分かってるの。これは、自業自得だってことも……」
でも、どうしても割り切れなかった。
「でもね、セドリック。屋敷を失うなんて……まるで、子供だった頃の私まで失うみたいなの。」
セドリックは黙って、私の背を優しく撫でた。
「君がどれほど、あの家に思い出を残しているか分かるよ。君の言葉ひとつひとつに、それが滲んでる。」
私は目を閉じ、過去の自分と会話するようにうつむいた。
あの広間、あの庭、姉妹で遊んだ小さな池。
そこには幸せな記憶も確かにあった。
父は肩をすくめて、「だったら、母親に言ってくれ。慰謝料を請求するのは止めろと。」と、他人事のように言った。
気が遠くなる思いだった。
なぜ自分のしたことに、責任を持たないのだろう。
「それでな……」と、父は言いにくそうに口を開いた。「私を、このグレイバーン家で引き取ってくれんか……?」
「住む場所なんてありません!」
私の声は思わず怒気を帯びていた。
この人は、何も変わっていない。
家を傾け、妻を裏切り、娘にすがる――まるで、都合のいい時だけ父親を名乗ってくるようで、情けなかった。
その一喝に、父は肩を落とし、背中を丸めて門を出て行った。
あれが、エルバリー家の当主だった人――。
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その夜、私は暖炉の前でため息ばかりついていた。
「どうした、クラリス。」
セドリックがワインのグラスを置きながら声をかけてくる。
「それがね、お父様が来たの。」
私は眉をひそめたまま答えた。
「今度は父親か!」
セドリックも呆れたようにため息をついた。
「お母様に慰謝料を請求されてて……それで、屋敷を売るとか言い出してるの。」
「エルバリー家の屋敷を?」
セドリックは驚いた様子で私を見つめた。
「うん。あの家がなくなるなんて、想像したこともなかった。」
私は思わず、膝の上の手を強く握る。
どんな形であれ、あの家は私の原点だった。
失われるのは、何か大事な一部を失うようで……切なかった。
「クラリス。」セドリックがそっと私の隣に腰を下ろし、肩を抱く。
「悲しいな……」私はセドリックの胸にすがった。
「お願い、セドリック。屋敷を、何とかできないかしら。」
自分でも、馬鹿なお願いだと分かっていた。
父の失態、母の怒り、すべてはエルバリー家が招いた当然の結果。
「分かってるの。これは、自業自得だってことも……」
でも、どうしても割り切れなかった。
「でもね、セドリック。屋敷を失うなんて……まるで、子供だった頃の私まで失うみたいなの。」
セドリックは黙って、私の背を優しく撫でた。
「君がどれほど、あの家に思い出を残しているか分かるよ。君の言葉ひとつひとつに、それが滲んでる。」
私は目を閉じ、過去の自分と会話するようにうつむいた。
あの広間、あの庭、姉妹で遊んだ小さな池。
そこには幸せな記憶も確かにあった。
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