婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒

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5、けん制

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私は放火の罪で、宮殿に連れて行かれた。

「私はやっていません!本当に……私じゃないんです……」

声が震える。けれど、私の訴えは冷たい宮殿の壁に吸い込まれていくだけだった。


久しぶりに目にしたクリフは、以前よりもずっと威厳に満ちていた。

国王としての風格が、私に距離を感じさせる。

「では、他に誰が火をつけた?」

淡々とした声が心をえぐる。優しかったかつての面影は、どこにもなかった。


「……」

言えない。ミーシャの名を口に出せば、私の言葉は嫉妬にまみれた濡れ衣だと受け取られるだろう。

火傷を負った彼女を、誰も疑おうとはしない。

むしろ、被害者として同情すら集めている。


「証拠もないまま他人を貶めるつもりか?」

クリフの目が細められる。追い詰めるようなその視線に、私は立っているのがやっとだった。

誰も私を信じてくれない。

火事という大罪の前に、私はただの容疑者にされた。

――でも私は、やっていない。

それだけは、どんなに疑われようとも、決して曲げられない真実だった。


「覚えているか、あの春の日のことを。君が花冠を作って、私の頭に載せてくれた――あの時、私は本当に、君と未来を共にしたいと思ったんだ。」

クリフの声は静かだった。けれど、その中には確かな熱があった。

私たちの幼い日々。確かに、心が通じていた時があったのだと、私も覚えている。


でも――

「その気持ちを覆したのは、あなたでしょう。」

そう言った瞬間、私の胸は少しだけ痛んだ。

だって、私はまだ彼に憎しみよりも、悲しみのほうが勝っているのかもしれないから。

「私はあなたを信じていた。なのに、何も言わずに妹と婚約して、あっさりと私を手放した。」

「立場があったんだ、王家としての責任が――」

「私だって公爵令嬢でした。立場なんて、最初から分かっていた。でもあなたは…私に何も言わず、私を選ばなかった。」

王となった今のクリフに、強い言葉をぶつけるのは怖かった。

でも――これだけは、はっきり伝えなければいけなかった。

「あなたが背を向けたのに、どうして今さら…私の心を確かめようとするのですか。」

彼の視線が揺れた。その沈黙が、何よりの答えだった。


「ずいぶんと冷たいな、アーリン。」

クリフは静かに言ったが、その瞳には確かな苛立ちが宿っていた。

私は下を向いたまま、何も返せなかった。

あの頃の淡い感情が残っていると、彼は思っていたのだろう。

けれど、今の私はグレイブを愛している。それ以外の何者でもない。


「少しくらいは、俺に未練があると思っていた。」

苦笑混じりに呟く彼の声は、どこか悔しさに満ちていた。

だけど、愛人としてそばに置かれたいわけじゃない。

私は物でも、過去の飾りでもない。


「お前の目は、いつもあいつの方を向いているな。」

その一言に、胸がぎゅっと締め付けられた。

私の気持ちはもうグレイブだけにある――その事実が、クリフを苛立たせている。

優位に立っていたはずの王が、一人の女に拒まれる悔しさを噛み締めているのだ。

そして私は、どれだけ睨まれても、もう気持ちを揺らがせることはなかった。
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