王太子妃は2度目の恋をする

日下奈緒

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第8話

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「えっ……」
真っすぐに私を見るジュスタンの瞳。

ドキドキする。
こんな人、前世ではいなかった。

「俺はアリーヌ様にも忠誠を誓う。あなたが危険な時は、俺が真っ先に駆け付ける。」
いけない。
王太子殿下意外に、胸がドキドキする人がいるなんて。

「で、でも。王太子殿下と私が同時に、危険な目に遭ったら?」
「その時は……」
「その時は?」

私はゴクンと息を飲んだ。
「アリーヌ様をお守り致します。」
「私を?」
「王太子殿下は、剣の達人です。俺がいなくてもご自分の身は、ご自分で守れるでしょう。でもあなた様には、何もない。」

「うっ……確かに。」
「それにアリーヌ様をお守りする事が、王太子殿下の真意のはず。」
「それもそうね。」

冷静になって。
ジュスタンはただ、王太子殿下の側近として、私を見ているだけよ。

「分かりました。何かあった時には、お願い致します。」
「はい、アリーヌ様。」

もう!王太子殿下さえ、私にキスをした事がないのに。
でも、忠誠を誓うキスだから、まあいいか。

「さあてと、そろそろ王太子殿下が、お呼びの頃ですから。俺は行きますね。」
「ええ。」
「失礼致します。」

ジュスタンは、頭を下げると部屋を出て行った。
私は疲れて、ソファーに座った。

「アリーヌ様。ジュスタンは、信頼に足りる人です。」
オリアは、考えている私に、助言をくれる。
「王太子殿下も、ジュスタンを真の友と言っております。」

「そうみたいね。」
「どうかジュスタンを、疑わないで下さい。」
私はオリアをふと見た。

「オリアは、ジュスタンの事が好きだから、そう言うのね。」
「いえ、ジュスタンは……」
「王太子殿下の側近としても、優秀な人なのでしょう?」
「……はい。」

人が殺された時、まずは第一発見者を疑えと言うのは、通例の事だわ。
でも、私の記憶が正しければ、ジュスタンは王太子殿下の亡骸を抱きながら、取り乱していた。

『殿下、殿下!目を覚ましてください!殿下!』

あんなに泣きながら、自分が殺した人の名前を呼べる?
分からない。

本当に、ジュスタンは暗殺者じゃない?
他に暗殺者はいる?

「アリーヌ様。」
「大丈夫よ、オリア。」
オリアにまで心配はかけられない。

「アリーヌ様。どうかお一人で悩まないでください。」
「オリア?」
「私、アリーヌ様付きの侍女になって、舞い上がってしまって、それでジュスタンにあんなことを話してしまいましたけれど、先ほどのアリーヌ様のお姿を見て、この方は本気で王太子殿下をお守りしたいのだと、分かりました。」

「オリア……」
「でも、暗殺の相手を探すなんて、一人では無理ですよ。一緒に探しましょう。」
私はオリアの必死な姿が、私の姿と重なって、嬉しくなった。

「そうね、オリア。」
「はい、アリーヌ様。」
だけど、問題は直ぐ起こった。

「そう言えば、近々。王太子殿下とアリーヌ様の婚約式が挙げられるそうです。」
「えっ?婚約式をするの?」
「何でも、王太子殿下がすごく乗り気だとか。」

王太子殿下が?私の頭の中に、照れる王太子殿下の姿が現れた。
嬉しい。けれど、恥ずかしい。

「その様子では、アリーヌ様も乗り気ですね。」
「いえ、そんな事は……」
「ただし!ここが一番大事ですよ。」

オリアは、人差し指を立てて、ビシッと決めた。
「婚約式では、お城のバルコニーから、王太子殿下とアリーヌ様が、皆に向かって手を振られます。もし、そこに暗殺者がいたとしたら!」

私はハッとした。
確かに、バルコニーに出れば、無防備になるはず。

いや、暗殺は夜中か朝方に行われた。
それを通り越して昼間に、しかも皆がいる前でするだろうか。

「アリーヌ様、迷っていられますね。」
「そうね。」
「一つお聞きしたいのですが、これまでの事は全て、前世の記憶と一緒でしょうか。」

私は目をパチパチさせた。
「違うわ。前世ではジュスタンのように、私を守ると言ってくれる人はいなかったわ。」
「気づかなかっただけとか。」
「いえ、王太子殿下の付き人は、そんな人ではなかったわ。」
「うーん。」

私のせいで、オリアも悩ませてしまった。
「これは私の勝手な考えなのですが。」
「何?」
「全てが前世と同じと言う訳ではないとすると、暗殺も違う時間に行われるのでは?」

私の胸に不安が過った。
「昼間に行われる事もあるって事ね。」
「そういう事です。」

私は直ぐに立ち上がった。
「そうとなれば、婚約式も中止させなければ!」
「あっ、アリーヌ様!」

私は急いで、王太子殿下の執務室に向かった。
殿下が政治を行う執務室。

女性が入るなんて、異例の事だ。
だけど、お願い!入らせて!

私が執務室のドアを叩くと、ジュスタンが出てきた。
「アリーヌ様?」
「王太子殿下に伝えたい事があるの。入らせて。」
「しかし、ここは執務室ですよ?」
「お願い、ジュスタン!」

すると奥から、王太子殿下の声がした。
「誰だ?」
「アリーヌ様です。」
「入れてくれ。」

王太子殿下の一声で、ドアが開いた。
「どうした?アリーヌ。」

いつもと違う口調。
これが本当の王太子殿下の姿なのかもしれない。

「王太子殿下。婚約式の事で、お話があります。」
そう言うと、王太子殿下は私を中央のソファーに呼んだ。
「こちらにおいで、アリーヌ。」
「失礼します。」

中に入って、ソファーに座った。
「アリーヌ。その事については、後ほど話そう。」
「いえ、今すぐ決めて頂きたい、重要事項です。」

王太子殿下とジュスタンは、顔を合わせた。
「殿下、婚約式を直ぐに中止してください。」
「婚約式を中止⁉」

王太子殿下は、驚きのあまり呆然としている。
「何故だ。」
「暗殺の可能性があるからです。」
「暗殺って……考えすぎではないか?アリーヌ。」

私は立ち上がって、王太子殿下の側に近づいた。
「王太子殿下。もしもの事があったら、どうするんですか。」
「アリーヌ、落ち着け。」

王太子殿下は、私をまたソファーに座らせた。
「婚約式は、我々の婚約を国の内外に示す儀式だ。暗殺の恐れがあったとしても、中止する訳にはいかない。」
「そんな!」

「大丈夫だよ、アリーヌ。君の言う事は信じる。」
「殿下?」
「ジュスタン、婚約式の警備の人数を増やせ。怪しい者は例え婚約式であっても、敷地の中に入れるな。」
「かしこまりました、王太子殿下。」

そして、王太子殿下はニコッと笑ってくれた。
「アリーヌ。何かあっても、君は私が守る。」
「殿下……」
「何かあっても、君一人置いて、死にはしないよ。」

私の目に、涙が貯まった。
『ずっと一緒にいよう。ずっとずっと一緒に……』

前世でも、そう言ってくれた。
でも殿下は、一人で冷たい亡骸となってしまった。

「殿下!」
私は思わず、殿下の胸に飛び込んでしまった。

「絶対。絶対ですよ!私を置いていかないで。」
「ああ、約束するよ。」
私は殿下をぎゅっと抱きしめた。

ああ、殿下。
私はあなたの側にいる事ができて、幸せです。
誰でもない、あなたを私も守りたい。

「アリーヌ?そんなに強く抱きしめたら痛いよ?」
婚約式は政治の関係で、中止にはさせられないだろう。

王太子殿下は、警備を増員してくれると言ってくれた。
でも不安が拭い去れないのは、どうしてなのだろう。

その時、ソファーの隅に、ジュスタンがいるのが見えた。
そうだ。ジュスタンがいる。

こうなったら、ジュスタンに言うしかないわ。
私はジュスタンを、ジーっと見つめた。
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