転生したらヒロインだった件 〜物理で殴る最強聖女になったけどヒロインだから誰か攻略しないと王都が滅びるって言われました〜

一塁企鵝

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第4章 使徒か女神か

第4章15話 不発弾

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 人力式のカタパルトによって高高度へと打ち上げられたオレはどうにか減速を掛けると、姿勢制御に成功してついに停止する。

「……剣と魔法の異世界でスペースショットだなんて一体なんの冗談だ。椅子もセーフティーバーも無い上に着地はセルフ。まったく、猟奇的にもほどがある」

 もしあのまま慣性に任せて上昇を続けていたら今ごろ酸素が殆ど無い高さまで到達していただろう。
 改めて思うが馬鹿げたステータスだな。

 下を見下ろし、遥か遠くになった彼女の綺麗な手には光輝く剣が収められており、準備万端であると見て間違いなさそうだ。

 予定通りオレはハリボテの炎嵐を解除した。
 ただの幻影なので敵へのダメージは皆無である。
 ついでにこんがり焼けたらそれが一番良かったが、本物の火炎をあの規模で操作してもオレの制御力ではすぐに霧散しそうだったのでやめた。
 少なくとも伝言を届けてから離脱するまでは敵の目をかい潜る必要があったので、消去法で幻影魔法を発動したのである。

 移動中に消滅しようものなら確実にオレは死ぬ。
 いくら強化されてると言っても真竜アークドラゴンのブレスを真正面から貰うのは絶対に避けなくてはいけない。

 精霊化の恩恵を受け、魔力が無尽蔵になっている分、コントロールを会得するまでは身の丈に合う魔法を使っておいたほうがよさそうである。

 例え事故でもオレが聖都に穴を分ける訳にはいかない。

「さて、時間制限がある以上早いとこ奴を発見しなくてはな。いざ会敵したタイミングで電池切れなど間抜けもいいところだ。それに飛べなくなったら絶対に助からないしな」

 滞空したままゆっくりと旋回して周囲を見渡すと、リアの予測した通り聖都の端まで離れた位置から、カラスのように乱れ飛ぶ竜の群れを傍観し、なんの動きも見せない竜の姿を捉えた。

 背の上には情報と違わず、甲冑を纏った青髪の人間が立っている。
 ビンゴだな。

「他ならぬリアの頼みだ。なにがなんでも奴を蹴り飛ばして、彼女の願いを叶えてみせる!」

 誰もいない空で雄叫びを上げながら、まだ慣れるない爆発的な加速で一気に目標の頭上へと移動する。
 ちらっとリアの方を一瞥すると、なにをしているのかはさっぱりわからないが、あちらこちらでドラゴンが蹴散らされていた。
 高い防御力と耐久も彼女の前ではケーキのスポンジと変わらないだろう。

 にわかに信じ難い光景ではあるが、もはや驚きはない。慣れというのは恐ろしいものだ。

 敵の阿鼻叫喚が広がる中、誰にも見つかることなくレグルスの真上へ到着した。リアと対峙してよそ見をする余裕のある存在などまずいないから、視界に入っても発見されることはないだろうな。

 とにかく絶好の位置を取ったわけだが、ある問題に気が付いてしまう。

「ふむ。先制したいところだが、この位置から攻撃して外したら、地上が酷いことになるな」

 威力を絞ったとしても火炎魔法は火事の恐れがつきまとう。たとえ狙いが精確でも回避されてしまえば、防衛対象である市街地に流れ弾が当たってしまうだろう。

 どちらかといえば器用な方だと思うが移動に専念したドラゴンに必中させるほどの繊細な魔法操作などオレに出来るはずもない。

「このあたりがあの胡散臭い女神に修練と想像力が足りないと言われた所以だろうが」

 前者に関しては今すぐどうにかなるものではないが、後者には心当たりがないこともない。
 まず、オレが使用している魔法は一般的な物をそのまま使っている。
 形式ばった魔法を再現しているというべきか。

 エリーゼのオリジナル魔法を目の当たりにするまで自由自在に魔法を使うという発想そのものがなかった。今考えれば、あいつの『速石砲ストーンキャノン』は球状じゃなかったが、きっとあれも手を加えているのだろう。

 魔法とは行使者のイメージに左右され、精霊がこちらの想像を汲み取って発動するものだと言われている。ならば、形に縛られるのはナンセンスだ。

「半精霊化したオレの場合だと精霊を介さずに魔法を発動する分、イメージ力の影響をもろに受けるんだよな。魔法が連発出来るとはいったもののしっかり練ってから発動した方が良さそうだ。『火燕バードストライク』」

 腰に携えていたロングソードを引き抜いて降下を開始しながら魔法を発動する。

 複数の魔法陣が展開して、燕を模した真紅の炎がばらばらに滑空を始める。

 効果が正しく具現化しているならばこの火の鳥はレグルスにぶつかるまで追い続けるだろう。

 地上への被害はこれで心配無い。
 後は『闇厄竜カラミティドラゴン』の背にうまく張り付くだけだ。
 今の飛行技術だとどう頑張っても空中戦では動く的にしかならないからな。
 ブレスの射線から逃れつつ、奴に攻撃を仕掛けるのは背中を取るのが第一である。

 炎の鳥と共に急降下爆撃のように鋭い角度で高度を落として、彼我との距離を詰めていく。

 このまま不意をつけるかと期待したのだがあと10秒くらいで攻撃が直撃するというタイミングで奴はこちらに気付いて迎撃の構えを取る。
 ついでに、射殺すような目が一瞬だけこちらへと向けられた。
 殺意に溢れているのは火を見るより明らかである。

「忙しそうなところ悪いが、ちょっと邪魔するぞ!」
「今度は貴方か!」

 オレの周囲にいた紅い飛燕が先行してレグルスへと突撃をかける。
 奴は回避をしつつ、手にした禍々しい大剣で魔法を切り捨てていく。避けられた火の鳥は旋回して再び体当たりを仕掛けるが振り返りざまに切り払われると、後続も難なく斬り伏せられた。

 オレへの対処までは手が回らなかったらしく無傷でドラゴンの上へと転がり込む事に成功したので御の字である。

 着地した瞬間に足が捉えた竜の鱗の感触は鉱物のように硬かった。
 これでオレもドラゴンライダーというわけだ。

「また会ったな。ストーカー」

 茶化して声をかけてみるが、内心では聖騎士のイメージからかけ離れた禍々しい姿に驚いていた。
 なんか黒っぽい霧のような物をまとって、ヤバそうな剣まで持ってるし、完全に悪役の見た目である。絵に描いたような、堕ちた騎士の出で立ちだ。

「聖女だけに留まらず、まさか貴方まで現れるとは。王子ともあろうものが自ら渦中に飛び込むのは愚行というものだ」
「だろうな。だがリアが反撃にうってでた時点でこちらの勝利は約束されたも同然だ」

 完全に漁夫の利でしかないがな。

「くっ……!」

 苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべたのは、奴もあの強大さを目の当たりにしたからだろう。

「貴様もわかっているだろう。万に一つの勝ち目もないのだから、早々と諦めて降参したほうが身のためだぞ?」
「この身など惜しくもなんともない。もはやどちらかが滅ぶまでこの戦いに終焉はないのだ」
「そう言うだろうと思っていたが仕方ない。オレがリアにちやほやしてもらうために死ね」

 奴は一瞬だけ固まった後、深いため息をはいた。
 なんと言われようとオレの目的はリアだからな。

「……ゴブリンと変わらぬ知性の男が王太子とは。オルヴィエート王国の未来は暗いようだ」

 気が削がれたのかびりびりと発せられていたレグルスの殺気が少しだけ和らぐ。

 不思議と強敵を前にしてもこんな軽口を叩けた。
 前回対戦した時のオレとは異なる点も多いが何より心のゆとりがある。

 力が増して必要なのも時間稼ぎである。こうして無駄な会話しているだけでも着々とやるべきことを達成出来ているのだからな。

「たった今自分の国を滅ぼそうとしている貴様にだけは言われたくないわ! だいたい守るべき聖都を逆に襲撃するとはどういう心変わりだ?」

 話を逸らしたいのが半分とこの事変を引き起こした黒幕の情報を得ておきたいのが半分とでレグルスに問いかけるが返って来た答えは言葉ではない。

「うおっ!?」

 素早い駆け出しから横薙ぎの斬り払いが無言で放たれる。唸りを上げる鉄塊を後方に急加速を掛けて回避する。
 魔法主体で戦う必要のあるオレとしては簡単に接近を許すべきではない。

「それを貴方が知って何になる。説教でもするのか? それとも同情するのか? だが、ここで聖都と共に崩れ去る私にとってはどちらも余計なお世話だ!」

 冷徹なレグルスにしては随分と感情的な反応だ。先ほどの太刀筋も決して甘いものではなかったが、模擬戦の時の方が洗練した動きをしていた。慣れない大剣を使っているのもあるかもしれないが、力任せの剣撃は手負いの獣のようにがむしゃらだ。
 ……自暴自棄になっている?

「……いきなり襲い掛かってくるとは無作法な奴だな」

 まあ、オレも魔法を撃ってから突撃したから人のことは言えないが。
 それだけあちらには余裕がないのだろう。こうしている間にも奴の後ろでは『闇厄竜カラミティドラゴン』が次々に消滅の憂き目にあっているからな。

「聖騎士なら正々堂々と戦え。『威炎烈衝ロイヤルフレア』」

 前方へと放った野球ボール程の火球は真っ直ぐレグルスへと向かって進む。
 見た目はただの初歩的な火魔法だが、中身は火炎ではなく圧縮した熱そのものである。

 形こそあるがかなり不安定なので何かに衝突した拍子に弾けて、灼熱の衝撃が相手を襲うので奴が剣で防いでも被害は与えられるだろう。

 前回の戦いでは奴の魔法鎧マジックアーマーにまんまとやられた。一方でエリーゼは土魔法で吹き飛ばすことによって、削りを掛けつつ優位に立っていたのだ。

 その点、火は物理的な攻撃力が低いので相打ち覚悟で斬りかかることが出来てしまう。
 このあたりの反省を生かし、爆風で奴を牽制することで簡単に接近を許さない作戦である。

 案の定、レグルスは赤熱する球体に対し、頭上に構えた剣をすっと振り下ろす。

 例え迎撃されても、この魔法ならば少なからずダメージが――

「はっ!」

 ――通らないだと!?

「って、なんだその剣!? 今どう見ても魔法が消えただろうが!」

 ズバッ、という空気を引き裂く音ともに振り下ろされた刃が火球に吸い込まれると爆ぜるどころか音すらないまま消失した。
 魔法なので不発弾という事はない。いや、あまりに練度が低ければ、そういう場合もあるのかもしれないが、正しく発動した感触はあったのだ。
 それがちょっとした変化も無く消滅などあり得ない。

「この魔剣は斬った魔法を吸収する」
「ぐぬぬっ……!」

 おいおい、ふざけるな。相性が悪いにも程があるだろ。
 パワーアップしたのオレだけじゃないのか……

 ただでさえ近接戦闘の技術で劣り、下手に切り結んだら勝ち目はないというのに、魔法も通じないとなるとリアが来るまで凌ぐだけでも雲行きが怪しい。
 何か考えないとまずいな。

「今の私なら貴方の婚約者に不覚をとることもないだろう」
「さあな。あの女は性悪で怠惰で傲慢だが、戦闘に限って言えば狡猾で豪胆だ。ちょっと剣が強くなったくらいであいつを倒すなど不可能だろう」

 予想外の方法で盤面を平気でひっくり返してくるからな、あいつ。

「残念だがこの剣はただ魔法を吸収するだけのものでない。絶望の光……とくと見るがいい! 『滅光波ダークブラスト』!」
「何っ!?」

 オレの魔法を切り伏せたのと同様に瓦割りを放つと、刀身から紫がかった黒色の奔流が放たれる。

 見るからにヤバそうな一撃をどうにか緊急浮上して回避すると、静かに滑空していた『闇厄竜カラミティドラゴン』が首を反らせて真上を拝んだ。
 上に飛び出したオレとバッチリ目が合う。

 あ、これもヤバイ。

 そう思った瞬間に口から吐き出された暗黒のブレスを何とか後方に下がりながら降下し、レグルスの頭上を越えて尾のほうに着地する。漆黒の鱗の上を少し滑りながら半回転して奴の姿を捉えると、向こうも緩慢な動作で振り返った。

「いまのはまさか、闇属性魔法……!?」

 レグルスの鎧に纏わり付く邪悪なもやが瘴気のように渦巻いている。
 聖騎士だと思っていたものはどうやら魔王になったらしい。
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