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第二章 騎士となるために
一夜明けて
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翌日のカリキュラムは別々であった。実技が多い伸吾とは正反対に、一八は座学のみ。それもほぼ全て魔法と魔力に関するものである。
一限目は術式論という科目だ。基礎とは違って割と専門的な内容のよう。
「ちぃーす……」
ハンディデバイスにある指定の教室はどうしてか大講堂だった。よって生徒が二人というはずもない。一八は扉を開くや声をかけていた。
ガラリと扉を開くと、講堂中がざわめく。突如として現れた大男に、どよめきが起こっている。
「まいったな。魔道科の必修科目かよ……」
どうやら魔道科では必修単位となっているらしい。かといって一八は学びたかった。居心地は悪いだろうが、魔法のイロハも知らなかった自分は魔法の仕組みについても学ぶべきだと思う。
『奥田一八だ……』
『奥田君がどうして?』
『あいつが飛竜を討伐したんだろ?』
ちょっとした有名人であった一八は話のネタになってしまう。遠巻きに聞こえるヒソヒソ話には苦笑いを浮かべるしかない。
丸刈りにて威圧感が増した一八が注目されないはずもなかった。全員がどこに座るのかと目で追っている。
「一八君、こっち!」
そんなとき助け船というべき声がかかる。どこに座ろうかと悩む必要がなくなったのだ。
声をかけたのは厳密にいうと同窓生ではなかったけれど、知らない仲ではない。
「舞子さん、やっぱこの授業は魔道科の必修っすか?」
「びっくりしたよ。おっきな男の子なんて魔道科にはいないし!」
長机には知った顔が並んでいる。舞子の隣には恵美里と小乃美もいたのだ。
「一八さんは勤勉ですね? 術式論は魔道科の必修なんです。今ではデバイスに書き込まれている魔法式を構築する授業ですね……」
「内容は一応知ってます。デバイスの術式を変更したりできるんすよね?」
「おお、よく知ってるね! 基本術式を自分に合うように変更できなきゃ立派な魔道士にはなれないのよ!」
舞子と恵美里が答えた。やはり調べたままの授業であるようだ。応用編とも言える授業について行けるかは未知数であるが、座学は目一杯に受講していたから落としたとしても問題はない。
「マジっすか。俺も魔法を使ってみてぇっす」
「魔力量で引っかからなかったなら簡単だよ。魔力操作と効率化。魔道士の根幹はこの二つだけだからね」
魔力操作とは出力の加減を自在に操る能力である。広範囲攻撃のデバイスでは出力を加減しなければならないことも多く、少しのミスで怪我人を出してしまったりもするからだ。
「何かワクワクしてきましたよ。俺みたいな大男が魔道士なんて笑っちまうでしょうけど」
「奥田君、そんなことないよ。ガトリング砲とか凄く重いし、力持ちの魔道士は大歓迎なんだから!」
小乃美が笑顔で返していた。彼女が話すように魔道科は魔道具の持ち運びが問題となっている。現地まではハンディデバイスのボックスへ収納しておればいいのだが、戦地では急な襲撃に備えて持ち歩く必要があったのだ。
短銃と呼ばれる魔道具くらいなら何の問題もないけれど、編成によっては対空狙撃砲やロングレンジの砲台なども配備される。女子だけの班になると移動が困難となった。
「身体強化して運んじゃ駄目なんすか?」
「それこそ魔力は攻撃に使うのよ。だから、できるだけ温存だね。移動で魔力を使用しないように、私たちは魔力強化に加えて筋トレの授業も多いのよ」
まるで知らない世界が拡がっている。一八は目から鱗とばかりに感嘆の声を上げた。確かに移動で魔力を失っては本末転倒である。一見、体力とは無縁に思えた魔道科であるけれど、剣術科と同等以上の体力強化を図っているのだと分かった。
「やっぱこの授業を履修してよかった。俺は色々な知識が得られると思う」
何やら感動すら覚えている一八。ここ一年で学びに対する姿勢は大きく変わっていた。
学ぼうとすれば楽しい。逆に強制されるとつまらないと思う。だから一八は前向きに物事を捉えるようにしている。
「それで一八君、昨日の武勇伝を聞かせてよ!」
「ああ、そうでしたね! 飛竜を仕留めたとか褒章が出てもおかしくないですよ?」
舞子の話題転換により、突として雑談となった。一八たち剣術科一班の活躍は全学科に知れ渡っているのだ。
「かなり小さな若い個体っすよ……。別に俺たちでも対処できるほどの……」
「いや、飛竜ですよ!? 幾ら小さな個体であろうと、混成編隊を何組も編成して追い払えるかどうかだと思います!」
小乃美が声を大きくした。飛竜を追い払うだけでなく仕留めたという事実。それも小隊規模にも満たない四人だけで……。
「ただのデカいトカゲっすよ。パートナーが地面に落としてくれたんでね。何とかなったのはそれに尽きます。良かったことは討伐よりも犠牲が出なかったこと。俺はそれが一番だと思ってる」
一八の話に側耳を立てていた全員から一斉に拍手が送られた。一八が語った言葉は、あるべき騎士の姿そのものであったからだ。
盛り上がってきたところだが、雑談はここで強制終了となってしまう。始業の鐘が鳴り、教官が講堂にやってきたからだ。
途端に全員が姿勢を正し、立ち上がっては教官に敬礼をする。どうやら魔道科でも騎士たる者のあり方について指導が成された模様だ。
応用編ともいえる魔道科の必修科目。一八は前世から通して初めての経験ができた。前世も魔法のある世界であったけれど、力だけでのし上がった彼には全てが未知なる体験。新しい世界の新たな知識に他ならない。
魔法の仕組みなんて気にすることすらなかったし、理解しようとも考えていなかった。けれど、生まれ変わったこの度は明確に異なっている。貪欲に知識を求め、彼は理解したいと願う。
どうしてか、一八は心の内で女神マナリスに祈っていた。
学ぶことを彼女が教えてくれたような気がして。このチキュウ世界へ転生させてくれたことを今更ながらに一八は感謝している……。
一限目は術式論という科目だ。基礎とは違って割と専門的な内容のよう。
「ちぃーす……」
ハンディデバイスにある指定の教室はどうしてか大講堂だった。よって生徒が二人というはずもない。一八は扉を開くや声をかけていた。
ガラリと扉を開くと、講堂中がざわめく。突如として現れた大男に、どよめきが起こっている。
「まいったな。魔道科の必修科目かよ……」
どうやら魔道科では必修単位となっているらしい。かといって一八は学びたかった。居心地は悪いだろうが、魔法のイロハも知らなかった自分は魔法の仕組みについても学ぶべきだと思う。
『奥田一八だ……』
『奥田君がどうして?』
『あいつが飛竜を討伐したんだろ?』
ちょっとした有名人であった一八は話のネタになってしまう。遠巻きに聞こえるヒソヒソ話には苦笑いを浮かべるしかない。
丸刈りにて威圧感が増した一八が注目されないはずもなかった。全員がどこに座るのかと目で追っている。
「一八君、こっち!」
そんなとき助け船というべき声がかかる。どこに座ろうかと悩む必要がなくなったのだ。
声をかけたのは厳密にいうと同窓生ではなかったけれど、知らない仲ではない。
「舞子さん、やっぱこの授業は魔道科の必修っすか?」
「びっくりしたよ。おっきな男の子なんて魔道科にはいないし!」
長机には知った顔が並んでいる。舞子の隣には恵美里と小乃美もいたのだ。
「一八さんは勤勉ですね? 術式論は魔道科の必修なんです。今ではデバイスに書き込まれている魔法式を構築する授業ですね……」
「内容は一応知ってます。デバイスの術式を変更したりできるんすよね?」
「おお、よく知ってるね! 基本術式を自分に合うように変更できなきゃ立派な魔道士にはなれないのよ!」
舞子と恵美里が答えた。やはり調べたままの授業であるようだ。応用編とも言える授業について行けるかは未知数であるが、座学は目一杯に受講していたから落としたとしても問題はない。
「マジっすか。俺も魔法を使ってみてぇっす」
「魔力量で引っかからなかったなら簡単だよ。魔力操作と効率化。魔道士の根幹はこの二つだけだからね」
魔力操作とは出力の加減を自在に操る能力である。広範囲攻撃のデバイスでは出力を加減しなければならないことも多く、少しのミスで怪我人を出してしまったりもするからだ。
「何かワクワクしてきましたよ。俺みたいな大男が魔道士なんて笑っちまうでしょうけど」
「奥田君、そんなことないよ。ガトリング砲とか凄く重いし、力持ちの魔道士は大歓迎なんだから!」
小乃美が笑顔で返していた。彼女が話すように魔道科は魔道具の持ち運びが問題となっている。現地まではハンディデバイスのボックスへ収納しておればいいのだが、戦地では急な襲撃に備えて持ち歩く必要があったのだ。
短銃と呼ばれる魔道具くらいなら何の問題もないけれど、編成によっては対空狙撃砲やロングレンジの砲台なども配備される。女子だけの班になると移動が困難となった。
「身体強化して運んじゃ駄目なんすか?」
「それこそ魔力は攻撃に使うのよ。だから、できるだけ温存だね。移動で魔力を使用しないように、私たちは魔力強化に加えて筋トレの授業も多いのよ」
まるで知らない世界が拡がっている。一八は目から鱗とばかりに感嘆の声を上げた。確かに移動で魔力を失っては本末転倒である。一見、体力とは無縁に思えた魔道科であるけれど、剣術科と同等以上の体力強化を図っているのだと分かった。
「やっぱこの授業を履修してよかった。俺は色々な知識が得られると思う」
何やら感動すら覚えている一八。ここ一年で学びに対する姿勢は大きく変わっていた。
学ぼうとすれば楽しい。逆に強制されるとつまらないと思う。だから一八は前向きに物事を捉えるようにしている。
「それで一八君、昨日の武勇伝を聞かせてよ!」
「ああ、そうでしたね! 飛竜を仕留めたとか褒章が出てもおかしくないですよ?」
舞子の話題転換により、突として雑談となった。一八たち剣術科一班の活躍は全学科に知れ渡っているのだ。
「かなり小さな若い個体っすよ……。別に俺たちでも対処できるほどの……」
「いや、飛竜ですよ!? 幾ら小さな個体であろうと、混成編隊を何組も編成して追い払えるかどうかだと思います!」
小乃美が声を大きくした。飛竜を追い払うだけでなく仕留めたという事実。それも小隊規模にも満たない四人だけで……。
「ただのデカいトカゲっすよ。パートナーが地面に落としてくれたんでね。何とかなったのはそれに尽きます。良かったことは討伐よりも犠牲が出なかったこと。俺はそれが一番だと思ってる」
一八の話に側耳を立てていた全員から一斉に拍手が送られた。一八が語った言葉は、あるべき騎士の姿そのものであったからだ。
盛り上がってきたところだが、雑談はここで強制終了となってしまう。始業の鐘が鳴り、教官が講堂にやってきたからだ。
途端に全員が姿勢を正し、立ち上がっては教官に敬礼をする。どうやら魔道科でも騎士たる者のあり方について指導が成された模様だ。
応用編ともいえる魔道科の必修科目。一八は前世から通して初めての経験ができた。前世も魔法のある世界であったけれど、力だけでのし上がった彼には全てが未知なる体験。新しい世界の新たな知識に他ならない。
魔法の仕組みなんて気にすることすらなかったし、理解しようとも考えていなかった。けれど、生まれ変わったこの度は明確に異なっている。貪欲に知識を求め、彼は理解したいと願う。
どうしてか、一八は心の内で女神マナリスに祈っていた。
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