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第二章 繰り返す時間軸
澱んだ愛
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「イセリナ様、一度控え室へと行きましょう」
「え、ええ……」
暗殺者を殲滅したあと、私はイセリナを引き連れて控え室へと向かいます。
あとはコンラッドに任せるだけなのだと。
私たちが控え室へと戻ってからが、コンラッドの役割なのです。
一年に亘る彼の仕事はこれからが本番でした。
控え室にて着替えを始めると、
「アナ、貴方って剣術も嗜むのね?」
ふとイセリナが聞いた。
剣術に関してはイセリナも収めた方がいいのですけれど、彼女は暢気なもので隙あらば寝ている怠け者。
本当に私のクリアデータが反映されているのか不思議に感じるくらいです。
「下位貴族だったので、色々と学んでいかねばならないのですよ。それよりも気分は悪くないですか? 間近に見てましたけど?」
「問題ないですわ。ワタクシは公爵家の人間ですの。間者が死んだとして気にする必要はありませんわ」
なるほど、一応はイセリナも自身が狙われる立場であることを整理できたみたいね。
これは成長だろうと思う。
我が侭な幼少期が終わり、これから真の公爵令嬢となっていく歩みなのでしょう。
「イセリナ様はこちらの衣装で……」
不測の事態を考え、衣装は何着か持ち込んでいます。
私は目立たぬ色合いのドレスをアイテムボックスから取り出しています。
「もう目立つ必要はございません。パーティーはあと三十分もあれば中止となりますから」
イセリナは詳しい計画内容を知らない。
小首を傾げるのは当然のことです。
このあと王子殿下が毒殺されることなど、イセリナには知る術などありませんでした。
イセリナの着替えが終わって、控え室を出た直後のこと。
再び叫声が轟く。
楽団の演奏が再開されてから二十分くらいでしょうか。
再び平穏を取り戻していたパーティー会場に悲鳴が木霊しています。
イセリナは何が起きたのかと驚いていましたが、私は彼女の手を引いて人集りができている場所へと向かう。
近衛兵たちが追い払うようにしている様子を見る限り、コンラッドが事を成したと考えるに充分な状況でした。
「どうされたのですか!?」
私はレグス近衛騎士団長に問いを投げます。
私であれば、無下にはされないだろうと。
「実はルーク殿下が正体不明の毒を受けたようなのです。毒味はしておったのですが……」
ルークに酒をついだ執事は既に囚われたらしい。
現在は薬師を呼びに行っているとのこと。まあしかし、毒味など無駄なことです。
コンラッドは遠隔にて毒化するユニークスキルを持っているのですから。
「私であれば解毒できるやもしれません! イセリナ様の侍女となってから上位の解毒魔法を習得しておりますので」
完全なマッチポンプであるけれど、レグス近衛騎士団長としては渡りに舟であったことでしょう。
私の魔法能力については既によく知っているはず。
だからこそ、藁をも掴む思いで懇願することでしょう。
「アナスタシア様、どうかお願いします! ルーク殿下をお助けください!」
頷きを返す私。彼にイセリナの警護を頼んでから、兵たちを掻き分けて倒れ込んだルークの元へと歩み寄ります。
「っ!?」
私は知っていたはずなのに。
ルークが服毒した結末を分かっていたはずなのに……。
(ルーク……?)
青ざめた表情でピクリともしないルークを見て、私は動揺していました。
咄嗟に顔を振る。しかし、それは悪夢を振り払うものではありません。
(私は悪役令嬢なんだ……)
何も間違っていないと自分に言いきかせるための所作。
前世において夫であろうとも、この世界線では関係ないのだと。
目的を成すためならば、私は鬼にだってなる。
私の愛はどこまでも澱んだ暗い闇の底へと沈んでいるのだから……。
「え、ええ……」
暗殺者を殲滅したあと、私はイセリナを引き連れて控え室へと向かいます。
あとはコンラッドに任せるだけなのだと。
私たちが控え室へと戻ってからが、コンラッドの役割なのです。
一年に亘る彼の仕事はこれからが本番でした。
控え室にて着替えを始めると、
「アナ、貴方って剣術も嗜むのね?」
ふとイセリナが聞いた。
剣術に関してはイセリナも収めた方がいいのですけれど、彼女は暢気なもので隙あらば寝ている怠け者。
本当に私のクリアデータが反映されているのか不思議に感じるくらいです。
「下位貴族だったので、色々と学んでいかねばならないのですよ。それよりも気分は悪くないですか? 間近に見てましたけど?」
「問題ないですわ。ワタクシは公爵家の人間ですの。間者が死んだとして気にする必要はありませんわ」
なるほど、一応はイセリナも自身が狙われる立場であることを整理できたみたいね。
これは成長だろうと思う。
我が侭な幼少期が終わり、これから真の公爵令嬢となっていく歩みなのでしょう。
「イセリナ様はこちらの衣装で……」
不測の事態を考え、衣装は何着か持ち込んでいます。
私は目立たぬ色合いのドレスをアイテムボックスから取り出しています。
「もう目立つ必要はございません。パーティーはあと三十分もあれば中止となりますから」
イセリナは詳しい計画内容を知らない。
小首を傾げるのは当然のことです。
このあと王子殿下が毒殺されることなど、イセリナには知る術などありませんでした。
イセリナの着替えが終わって、控え室を出た直後のこと。
再び叫声が轟く。
楽団の演奏が再開されてから二十分くらいでしょうか。
再び平穏を取り戻していたパーティー会場に悲鳴が木霊しています。
イセリナは何が起きたのかと驚いていましたが、私は彼女の手を引いて人集りができている場所へと向かう。
近衛兵たちが追い払うようにしている様子を見る限り、コンラッドが事を成したと考えるに充分な状況でした。
「どうされたのですか!?」
私はレグス近衛騎士団長に問いを投げます。
私であれば、無下にはされないだろうと。
「実はルーク殿下が正体不明の毒を受けたようなのです。毒味はしておったのですが……」
ルークに酒をついだ執事は既に囚われたらしい。
現在は薬師を呼びに行っているとのこと。まあしかし、毒味など無駄なことです。
コンラッドは遠隔にて毒化するユニークスキルを持っているのですから。
「私であれば解毒できるやもしれません! イセリナ様の侍女となってから上位の解毒魔法を習得しておりますので」
完全なマッチポンプであるけれど、レグス近衛騎士団長としては渡りに舟であったことでしょう。
私の魔法能力については既によく知っているはず。
だからこそ、藁をも掴む思いで懇願することでしょう。
「アナスタシア様、どうかお願いします! ルーク殿下をお助けください!」
頷きを返す私。彼にイセリナの警護を頼んでから、兵たちを掻き分けて倒れ込んだルークの元へと歩み寄ります。
「っ!?」
私は知っていたはずなのに。
ルークが服毒した結末を分かっていたはずなのに……。
(ルーク……?)
青ざめた表情でピクリともしないルークを見て、私は動揺していました。
咄嗟に顔を振る。しかし、それは悪夢を振り払うものではありません。
(私は悪役令嬢なんだ……)
何も間違っていないと自分に言いきかせるための所作。
前世において夫であろうとも、この世界線では関係ないのだと。
目的を成すためならば、私は鬼にだってなる。
私の愛はどこまでも澱んだ暗い闇の底へと沈んでいるのだから……。
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