青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
74 / 377
第四章 歪んだ愛の形

零れ落ちる雫に

しおりを挟む
 ナイフを胸に突き刺し、私は自害していました。

 一拍おいて、私の意識は戻っています。

 やはりレジュームポイントではなく、戻されたのはセーブポイントのよう。

 しかし、様子がおかしい。

 キャサリン・デンバーの誕生パーティー会場であると考えていましたが、どう見ても屋外です。それもかなり見たことがある景色。

「まあでも、あと一つだけ俺には要求があるんだ……」

 戸惑う私を更なる混乱が襲います。

 どうしてか、毒に冒されていないルークが目の前にいたのです。

(セーブポイントが更新されてない……?)

 瞬時に理解する。私の予想が完全にハズレていたのだと。

(どうしてなの、アマンダ……?)

 あろうことか、セーブポイントは五年も巻き戻された時間帯でした。

 何度も経験したから覚えている。

 ここはルークが不意打ちでキスをしようとする場面に他なりません。

 どうしてかアマンダが巻き戻したのはこの時間軸。ここより先に私は二度もキスしていたというのに。

「殿下、おやめください!!」

 私は声を張った。

 絶対にキスされてはならないのだと。なぜならアマンダの意図がそれとなく分かったから。

 セーブしなかったのは、そもそもあの世界線がマズい展開だったからでしょう。

 逆に考えると、この時間軸ならば、まだやり直しが可能。より良い世界線へと向かえる可能性があるはずです。

(王家との関わりを断てば……)

 きっとそれが正解です。

 先ほどの世界線が行き詰まったのはルークが必要以上に好意を持ってしまったから。だから私はもう彼と関わらない。

「不意打ちでキスしようとするなんて、それでも王家の人間でしょうか!? 幻滅いたしましたわ!」

「ああいや、すまん! あまりに君が魅力的……」

「言い訳は聞きたくありませんの! 荷物を纏めて帰ってください!」

 激怒しておく。

 ルークには悪いけれど、これでも私は貴方の為に動いているのよ。

 予定を変更し、私はルークを生かす世界線を構築しようとしているのだから。

「アナ、俺はお土産を……」

「そんなもの必要ございませんわ! 顔も見たくありません! 即座に立ち去るよう願います!」

 不敬罪となってもおかしくはありませんが、元はといえば不意打ちでキスしようとしたルークが悪いのです。

「アナスタシア嬢、どうか落ち着いてください。殿下は貴方に一目惚れしただけなのです」

「レグス近衛騎士団長様、一目惚れしたならば、未婚の女性に対して不意打ちでキスが許されるのですか? 私は結婚まで純潔を守りたいのです。王子殿下ならば許されるのでしょうか!?」

 私はレグス近衛騎士団長にも同じ対応をする。

 一応は正論のつもり。一歩も引くわけにはなりません。ここはレグス近衛騎士団長にも明言しておくだけよ。

「火竜退治の褒美は何一つ必要ありませんわ。陞爵すらお断りします! ガゼル王陛下にはそのようにお伝えくださいまし!」

「いやしかし……」

「私の行動による褒美ならば、拒否するのも私の勝手。議会の承認とか知ったことではありませんわ! しつこく仰るのでしたら、私は王子殿下に無理矢理唇を奪われそうになったと、全国各地で声を上げようと考えます」

 レグス団長しかいないのは助かりました。

 まあしかし、罰を与えるなら甘んじて受けましょう。

 私は悪に徹すると決めたんだ。日和見的な攻略はもうしない。

「殿下、引き下がりましょう。アナスタシア様の言い分は正しい。貴方様の失態です。彼女が話す通りにしなければ収拾がつきません」

「いや、レグス!?」

 今もまだルークは私を宥めたいと考えているのでしょう。

 しかし、何度も首を振るレグス近衛騎士団長に彼も理解したらしい。激怒する私を宥める方法は一つしかないのだと。

「アナ、すまない……」

「もう二度と私の前に現れないと誓ってくださいまし。許すことがあるとすれば、それを誓ってくれた場合のみですわ」

 これで良いの。もう二度とルークの顔を見なくて済む。

 惑わされることなく、私は攻略を続けることができるんだ。

(えっ……?)

 ルークは泣いていました。

 たった一度命を救っただけの少女を、そんなにも好きになっていたのね。でも、私たちは関わるべきじゃない。これが最善の選択なの。

「誓うよ……。もう二度と君の前に現れない……」

 大粒の涙を零す彼に、私は視線を合わせない。

 目を合わせると私まで泣いてしまう気がして。

 けれど、ルークが身体を反転させたあと、私はこの瞳に彼の姿を焼き付けていました。

 今世で最後の会話。名残惜しさも、未練も全てこれで最後にしようと。

 レグス近衛騎士団長に肩を抱かれながら、嗚咽するルークが去って行く。

 泣きながら去って行く背中を見るのは、これが初めてでした……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...