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第四章 歪んだ愛の形
動き出す世界
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(ひょっとして私はまた……?)
邪な思考が頭をよぎりますが、直ぐに邪念を振り払う。ルークと結ばれる未来なんて存在しないのだと。
なぜなら私こそが原因なのです。私が絶縁を口にし、妙な置き手紙を書いてしまったから。そのせいでルークが責任を負わねばならなくなりました。
(こっぴどくフッた私がどの面下げて彼の前に現れるというの?)
そもそも原因となった私が生きているのなら、彼の罪は軽減されるはず。
光属性を持つ私が表舞台に戻るだけで、ルークは再び王太子になれるはずです。よって、どう考えても私が望む結末は訪れるはずがありませんでした。
「ルーク殿下はどうされているのです?」
「さあ、そこまでは。それで私の質問にも答えていただきたく存じます」
どうやらリックは噂話を耳にしただけのよう。
諜報活動とはいっても、王城にまで潜り込めるはずはないですからね。
「何が聞きたいの? 私がラルクレイドにいる理由ならランカスタ公爵と面会するためよ」
先に話しておく。最終的に関わりを持つといっても、現時点でサルバディール皇国とは何の接点もなかったのだから。
「ランカスタ公爵と面会するため、冒険者となったのですか?」
「私は子爵家の人間でしかありません。公爵様が興味を持たれるはずもない。火竜の聖女なんて噂は信じていないでしょうし」
かつては火竜の聖女との話を口にした髭だったけど、前世界線においては王命がなければ会ってくれなかったのです。
髭にとって伝承にある聖女の話など、商談時の世間話にも等しい。
「失踪してまで面会する必要があるのですか?」
「失踪は誤解ですわ。急な予知だったもので、ろくな書き置きができなかったのです。王子殿下との遣り取りはタイミングが悪かったとしか……」
信じてもらえないでしょうね。全ては偶然に繋がってしまっただけだもの。
まあでも運命であったのかもしれません。
この世界線は選ぶべきルートが一つしかないのですから。
「貴方様は一体何を予知されてのでしょうか?」
どうしてかリックの問いが続きました。
まあ冒険者になってまで髭との面会を望む私を見れば、当然の疑問かもしれない。
ここまできたら話しておきましょうか。別に話したからといって、問題があるわけでもありませんし。
「実はランカスタ公爵家のイセリナ様がとあるパーティーで暗殺されるという予知をしてしまったのです」
「ランカスタ公爵家といえば、この地の領主様ですよね? イセリナ様が暗殺されたとして子爵家には問題などないでしょう?」
そう思うのは当たり前ですね。
寄子でもない弱小の子爵家が上位貴族の動向を気遣うなどあるはずもありませんし。
「ええまあ、そうなのですが、国家が転覆するような未来を同時に見てしまいまして」
私はようやくこの世界線に隠されたルートに気付いていました。
行き詰まったとも感じる世界線を復帰させられる手段があることを。
「とあるパーティーでは王子殿下まで暗殺されてしまうのです」
起死回生の一撃となる可能性を秘めている。
ルークを王太子候補として復活させ、イセリナと彼が結ばれる世界線へと戻せるかもしれない。
「王子殿下が!? いや、それこそ王家に駆け込むべきでしょう!?」
「イセリナ様の暗殺とは異なり確定ではないのですよ。第一王子殿下の場合もあれば第三王子殿下の場合もある。パーティーに現れないという予知まで多岐に渡っているのです。王家に予知を進言したとして、ハズレた場合に子爵家の立場が危ぶまれます。更には伝えることによりパーティーの主催者と王家の関係悪化は避けられません」
「なるほど、確かに暗殺計画を王家が知ってしまえば、何らかの対応が取られるはず。何も起きなかった場合でも不信感を持たれるのは間違いありません。暗殺者を雇ったのは主催者なのでしょうか?」
言うべきか言わざるべきか。
悩みどころですけれど、信用を得るためならば明らかにするべきかもしれません。
「いえ、暗殺者を送り込んだのは主催者であるデンバー侯爵ではありません。リッチモンド公爵ですわ」
私の返答が意外だったのか、リックは声を失っています。
ここまで伏せてきた貴族の名を私が告げたからか、或いは大物すぎる犯人に驚いたのか。
「私めが聞いて良いお話なのか分かりかねますね……」
「貴方が聞いたのでしょう? 私はずっと伏せていたというのに」
苦笑いを浮かべるのはリックです。しつこく問いを向けたのは彼に他ならない。
ここまで聞いた彼は最後まで聞く必要があるはず。
(残念だけど、出会った相手が悪かったわね……)
小さくほくそ笑む。これは偶然の出会いでした。
しかし、私は一連の騒動に彼を巻き込んでやろうと決めています。
邪な思考が頭をよぎりますが、直ぐに邪念を振り払う。ルークと結ばれる未来なんて存在しないのだと。
なぜなら私こそが原因なのです。私が絶縁を口にし、妙な置き手紙を書いてしまったから。そのせいでルークが責任を負わねばならなくなりました。
(こっぴどくフッた私がどの面下げて彼の前に現れるというの?)
そもそも原因となった私が生きているのなら、彼の罪は軽減されるはず。
光属性を持つ私が表舞台に戻るだけで、ルークは再び王太子になれるはずです。よって、どう考えても私が望む結末は訪れるはずがありませんでした。
「ルーク殿下はどうされているのです?」
「さあ、そこまでは。それで私の質問にも答えていただきたく存じます」
どうやらリックは噂話を耳にしただけのよう。
諜報活動とはいっても、王城にまで潜り込めるはずはないですからね。
「何が聞きたいの? 私がラルクレイドにいる理由ならランカスタ公爵と面会するためよ」
先に話しておく。最終的に関わりを持つといっても、現時点でサルバディール皇国とは何の接点もなかったのだから。
「ランカスタ公爵と面会するため、冒険者となったのですか?」
「私は子爵家の人間でしかありません。公爵様が興味を持たれるはずもない。火竜の聖女なんて噂は信じていないでしょうし」
かつては火竜の聖女との話を口にした髭だったけど、前世界線においては王命がなければ会ってくれなかったのです。
髭にとって伝承にある聖女の話など、商談時の世間話にも等しい。
「失踪してまで面会する必要があるのですか?」
「失踪は誤解ですわ。急な予知だったもので、ろくな書き置きができなかったのです。王子殿下との遣り取りはタイミングが悪かったとしか……」
信じてもらえないでしょうね。全ては偶然に繋がってしまっただけだもの。
まあでも運命であったのかもしれません。
この世界線は選ぶべきルートが一つしかないのですから。
「貴方様は一体何を予知されてのでしょうか?」
どうしてかリックの問いが続きました。
まあ冒険者になってまで髭との面会を望む私を見れば、当然の疑問かもしれない。
ここまできたら話しておきましょうか。別に話したからといって、問題があるわけでもありませんし。
「実はランカスタ公爵家のイセリナ様がとあるパーティーで暗殺されるという予知をしてしまったのです」
「ランカスタ公爵家といえば、この地の領主様ですよね? イセリナ様が暗殺されたとして子爵家には問題などないでしょう?」
そう思うのは当たり前ですね。
寄子でもない弱小の子爵家が上位貴族の動向を気遣うなどあるはずもありませんし。
「ええまあ、そうなのですが、国家が転覆するような未来を同時に見てしまいまして」
私はようやくこの世界線に隠されたルートに気付いていました。
行き詰まったとも感じる世界線を復帰させられる手段があることを。
「とあるパーティーでは王子殿下まで暗殺されてしまうのです」
起死回生の一撃となる可能性を秘めている。
ルークを王太子候補として復活させ、イセリナと彼が結ばれる世界線へと戻せるかもしれない。
「王子殿下が!? いや、それこそ王家に駆け込むべきでしょう!?」
「イセリナ様の暗殺とは異なり確定ではないのですよ。第一王子殿下の場合もあれば第三王子殿下の場合もある。パーティーに現れないという予知まで多岐に渡っているのです。王家に予知を進言したとして、ハズレた場合に子爵家の立場が危ぶまれます。更には伝えることによりパーティーの主催者と王家の関係悪化は避けられません」
「なるほど、確かに暗殺計画を王家が知ってしまえば、何らかの対応が取られるはず。何も起きなかった場合でも不信感を持たれるのは間違いありません。暗殺者を雇ったのは主催者なのでしょうか?」
言うべきか言わざるべきか。
悩みどころですけれど、信用を得るためならば明らかにするべきかもしれません。
「いえ、暗殺者を送り込んだのは主催者であるデンバー侯爵ではありません。リッチモンド公爵ですわ」
私の返答が意外だったのか、リックは声を失っています。
ここまで伏せてきた貴族の名を私が告げたからか、或いは大物すぎる犯人に驚いたのか。
「私めが聞いて良いお話なのか分かりかねますね……」
「貴方が聞いたのでしょう? 私はずっと伏せていたというのに」
苦笑いを浮かべるのはリックです。しつこく問いを向けたのは彼に他ならない。
ここまで聞いた彼は最後まで聞く必要があるはず。
(残念だけど、出会った相手が悪かったわね……)
小さくほくそ笑む。これは偶然の出会いでした。
しかし、私は一連の騒動に彼を巻き込んでやろうと決めています。
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