186 / 377
第八章 絶望の連鎖に
溜め息のわけ
しおりを挟む
「ルイは殿下のことが好きですから……」
静まり返るルークの自室。それだけはないと分かっていても、鼓動が高鳴っていく。
堪らずルークは自身が覚えた絶望の記憶を掘り返していた。
「俺は完膚なきまでにフラれたんだぞ?」
「あの子は強情ですからね。自分が決めたことをやり遂げる強さがあるのですよ。その遣り取りがあった頃、ルイは問題ごとを抱えていました。最善の行動が意志に反して、殿下と縁を切ることだったのでしょう」
呆然と頭を振るのはルークである。しかし、思い返せば不自然に感じるほど、アナスタシアは激昂していた。
まるで縁を切ることを目的としていたかのように。
「そんな馬鹿な……?」
「殿下が王太子候補として復帰できたのはルイのおかげですわよ? 父をそそのかし、殿下の後ろ盾になれと言ったのはルイに他なりません。国外に逃げ、要職を得たルイが今さら首を突っ込む話ではないというのに」
知らされていく事実。ルークの心臓は激しく脈打っていた。
「ルーク殿下を気にしていたからこそ、ルイは騒動に身を晒したのですわ。貴方様の潔白を証言したのです。キャサリンの誕生パーティーで見せたルイの表情は全てをやり終えたにしては、悲しげでありましたし……」
「嘘だ……」
今もまだあの頃の感情が偽物だとは思えない。
本気で妻に迎えようとしていたこと。彼女の魅力に抗えなくなり、思わず唇を奪おうとしたことまで。
「ワタクシが殿下と婚約した話をしたときには顔色も変えませんでしたけどね。狼狽えることもなく、非常につまらなかったですわ」
続けられた話に安堵するルークだが、更に感情を揺さぶる話を聞いてしまう。
「まあ、一日中自室に籠もって泣いていましたからね。少なからずショックだったのだと思いますわ。ワタクシの部屋まで泣き声が聞こえて眠れませんでしたの」
自身の婚約を知って泣き続けるわけ。
簡単な理由にルークは時間をかけて考えていた。
もしも知っていたら。
事前に彼女の気持ちが分かっていたとすれば、イセリナが話すように策を練らずとも纏まったはず。
「俺は……やはり馬鹿だな」
「ええ、大馬鹿ですわね? 現在のルイは男性なら放っておかないことでしょう。近くで見ているワタクシが断言いたしますわ!」
イセリナの話は理解している。何しろルークは直接謝罪したのだ。
あの時には、まともに彼女の顔を見られなかった。
想像以上に美しく成長した彼女を見てしまうと、決意した全てが瓦解するような気がしたから。
「まあ、あの美しい薔薇は恐らく、蕾のまま枯れてしまうことでしょう」
続けられた話にルークが視線を上げる。
望むような望まない話は興味を惹くに充分だった。
「アナが枯れる……?」
「あの子は殿下と同じ。自身の幸せなど考えておりませんわ。ワタクシはルイが止めてきたのなら、婚約の話は白紙に戻そうと考えていましたの。でも、あの子はおめでとうと言ってくれた。ワタクシはルイの本心を知っていましたのに……」
イセリナの話は今さらであった。
事実がどうあったとして、ルークにはどうしようもない。
アナスタシアの助力を無にすることのないように選択を終えただけであるのだから。
ルークの長い溜め息だけが、静まり返る部屋に漏れていた。
静まり返るルークの自室。それだけはないと分かっていても、鼓動が高鳴っていく。
堪らずルークは自身が覚えた絶望の記憶を掘り返していた。
「俺は完膚なきまでにフラれたんだぞ?」
「あの子は強情ですからね。自分が決めたことをやり遂げる強さがあるのですよ。その遣り取りがあった頃、ルイは問題ごとを抱えていました。最善の行動が意志に反して、殿下と縁を切ることだったのでしょう」
呆然と頭を振るのはルークである。しかし、思い返せば不自然に感じるほど、アナスタシアは激昂していた。
まるで縁を切ることを目的としていたかのように。
「そんな馬鹿な……?」
「殿下が王太子候補として復帰できたのはルイのおかげですわよ? 父をそそのかし、殿下の後ろ盾になれと言ったのはルイに他なりません。国外に逃げ、要職を得たルイが今さら首を突っ込む話ではないというのに」
知らされていく事実。ルークの心臓は激しく脈打っていた。
「ルーク殿下を気にしていたからこそ、ルイは騒動に身を晒したのですわ。貴方様の潔白を証言したのです。キャサリンの誕生パーティーで見せたルイの表情は全てをやり終えたにしては、悲しげでありましたし……」
「嘘だ……」
今もまだあの頃の感情が偽物だとは思えない。
本気で妻に迎えようとしていたこと。彼女の魅力に抗えなくなり、思わず唇を奪おうとしたことまで。
「ワタクシが殿下と婚約した話をしたときには顔色も変えませんでしたけどね。狼狽えることもなく、非常につまらなかったですわ」
続けられた話に安堵するルークだが、更に感情を揺さぶる話を聞いてしまう。
「まあ、一日中自室に籠もって泣いていましたからね。少なからずショックだったのだと思いますわ。ワタクシの部屋まで泣き声が聞こえて眠れませんでしたの」
自身の婚約を知って泣き続けるわけ。
簡単な理由にルークは時間をかけて考えていた。
もしも知っていたら。
事前に彼女の気持ちが分かっていたとすれば、イセリナが話すように策を練らずとも纏まったはず。
「俺は……やはり馬鹿だな」
「ええ、大馬鹿ですわね? 現在のルイは男性なら放っておかないことでしょう。近くで見ているワタクシが断言いたしますわ!」
イセリナの話は理解している。何しろルークは直接謝罪したのだ。
あの時には、まともに彼女の顔を見られなかった。
想像以上に美しく成長した彼女を見てしまうと、決意した全てが瓦解するような気がしたから。
「まあ、あの美しい薔薇は恐らく、蕾のまま枯れてしまうことでしょう」
続けられた話にルークが視線を上げる。
望むような望まない話は興味を惹くに充分だった。
「アナが枯れる……?」
「あの子は殿下と同じ。自身の幸せなど考えておりませんわ。ワタクシはルイが止めてきたのなら、婚約の話は白紙に戻そうと考えていましたの。でも、あの子はおめでとうと言ってくれた。ワタクシはルイの本心を知っていましたのに……」
イセリナの話は今さらであった。
事実がどうあったとして、ルークにはどうしようもない。
アナスタシアの助力を無にすることのないように選択を終えただけであるのだから。
ルークの長い溜め息だけが、静まり返る部屋に漏れていた。
10
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる