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第十一章 謀略と憎悪の大地

目的は……

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「アナ、王宮殿へ向かいますわよ!」

 まいったな。

 新酒につられて行動を起こしたのだけど、まさかルークと出会わないでしょうね。

(妙な話をしちゃったし……)

 イセリナは大凡の場所を分かっているのか、王宮殿へと向かっています。確かに側付の騎士であれば、一緒にいるでしょうけれど。

 溜め息を吐きながら、ついていった先はやはりルークの自室に他なりません。

 この世界線では一度も入ったことがない場所。前世では何度も通った部屋を私は再び訪れていました。

「ルーク殿下、イセリナですわ!」

 ノックのあと、イセリナの甲高い声が響く。

 まるで実家にいるような安定感があります。イセリナは王宮殿でさえも我が道を行く。彼女を教育した人間の顔を是非とも見てみたいわ。


 程なく扉が開かれると、そこにはレグス近衛騎士団長の姿。ずっと王子殿下に付きっきりで騎士団の方は大丈夫なのですかね?

「これはイセリナ様、ってアナスタシア様も!?」

 流石に驚いています。ま、私までいるのは予想できないでしょうね。

「申し訳ございません。実はペガサスをお借りしたいのです。所領まで行くのに馬車だと時間がかかりすぎてしまいますので……」

 イセリナには任せられないので、私は自分で真意を告げました。

 部屋に入る必要はありません。許可さえいただければ、廊下でも構わないのです。

「とりあえず、中へどうぞ……」

「ああいや、急ぎますのでお気になさらず!」

 直ぐさま拒否しようとしましたが、イセリナは中へと入ってしまいます。

 勝手知ったる我が家というつもりなのか、イセリナはルークに挨拶まで済ませていました。

「ささ、アナスタシア様も……」

 私は手を引かれ、どういうわけかルークの自室へと招かれています。

 新酒に惑わされたせいで、予定にない事態へと巻き込まれていました。

「えっと、お久しぶりです……」

 いや、何言ってんだ? 年末に会ったばかりじゃない? しかもダンスまでしちゃったんだけど……。

「あ、ああ、久しぶりだね……」

 流石にルークも戸惑っているみたい。私の言葉をそのまま返してしまうほど、驚いていたのでしょう。

「あの、別に用はないのです! 私はただペガサスの使用許……」

「アナスタシア様、お茶が入りました」

 レグス騎士団長様、貴方執事じゃないですよね? どうしてお茶を淹れちゃうの!?

「レグス様、一体どういったおつもりなのでしょう?」

 彼はスカーレット子爵領にての一件について、客観的に知る唯一の人間なのです。何らかの思惑があるようにしか考えられません。

「いやなに、ちょうどお茶にする時間であっただけです。イセリナ様もどうぞ」

 食えない騎士団長様だこと。

 イセリナは既に目的を忘れたのか着席しているし……。婚約者二人と同席して、私に道化を演じろとでもいうつもりかしら?

「それで二人は何の用事できたんだ?」

 困惑顔をしたルークが聞く。

 いや、要件を言おうとしたら、貴方の騎士が口を挟んだのよ。ちゃんと教育してもらわないと困るわ。

「殿下、お茶菓子がありませんわ!」

 そして、このイセリナ……。貴方は本当に目的を忘れてんじゃないの?

 優雅にお茶をしていたら、クルセイドに行く時間がなくなってしまうっての。

「お茶菓子はこちらに……」

 この騎士団長おかしいって。

 てか執事はいないのかしら? どうして公爵令嬢を騎士団長がもてなしているのかさっぱりです。


 嘆息しながらも、お菓子を摘まむ私。美味しい新酒はお預けとなっています。

「レグス様、私どもは落ち着いている場合ではないのです」

 ここで私は本題を切り出す。目的があって王宮殿まで来たのですからね。暢気にお茶をしている暇はありません。

「どうされましたか?」

「実は所領に挨拶をしようと思いまして、ペガサスをお借りしたいのです」

 ようやく話を切り出せました。

 所領を有する貴族であるのは既知の事実です。なので快く貸し出してくれるかと思います。

「しかし、もう三時前ですよ? 今からだと挨拶どころではないかと思いますけれど」

 まあ確かに。着いた頃には暗くなっていますね。

 ただでさえ未成年なのに常識に欠けると思われてもいけません。

「じゃあ、明日貸してください」

 とりあえず新酒……じゃなくて、挨拶を終えておかなきゃ。

 それより所領運営って、どうすれば良いのかしら? ゲームにはそんなのなかったし。

「それは構いませんけれど、運営方針は決まったのでしょうか?」

「いえいえ、まだ何も話を聞いておりません。書類を読んだだけですね」

「それでしたら、モルディン大臣に質問されたらよろしいかと。貴族院もございますし、やはり代理を立てるべきかと存じます」

 うんまあ、そうだよね。少なくとも一年以上は留守なわけだし。

 代理って誰に頼めば良いのかしら?

「モルディン大臣であれば、適切な領主代行を選べますかね?」

「とにかく、相談されたら良いかと思いますよ。今は私の部下に警護され、所領へと向かわれておりますが、夜には戻られるかと存じます」

(あ、この展開って嵌められたんだわ……)

 レグス団長は夜まで私を王宮殿に閉じ込めておくつもりのよう。それも他ならぬ第一王子殿下の部屋に。

 眉間にしわを寄せる私とは異なり、イセリナはポンと手を叩く。

「ルーク殿下、お酒を用意しなさい。アナは四時間も呑まずにいられない人間なのですわ」

「ちょっと、イセリナ!?」

 何が何だか分かりませんが、ルークは頷いています。

 フィアンセの要求にレグス騎士団長へと視線を向ける。加えて、レグス団長も分かっているようで、何も言わずに部屋を後にしました。

 正直に気乗りしませんが、どうやら昼間から宴会が催されるみたいです。

 それもなぜかルークの自室で。

 どうしてか彼のフィアンセと一緒に……。
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