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第十一章 謀略と憎悪の大地

使用人たち

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 自室へと戻った私はアイテムボックスから薔薇の鉢植えを取り出し、窓際に置いています。

「コンラッドなら割と早い接触があるでしょ……」

 今のところ信頼できるのはコンラッドのみ。

 恐らくメルヴィス公爵領へと潜伏しているはずですが、私が王都を発って所領へ来ている情報くらい手に入れているはずだもの。

「とりあえず、間者の尋問と使用人に挨拶しておこうかな」

 間者は地下の牢獄へ放り込んだわけですが、私はまだ使用人たちと正式な顔合わせをしておりません。

 私は自室を出て、エントランスへと。

「使用人の皆様、お集まりください」

 大声で全員を呼ぶ。割と広いお屋敷なので、隅まで届くはずもないのですけれど。


 しばらくして、ゾロゾロと執事やメイドたちが集まっています。

 聞いていたように十人。一人も抜けがないとか優秀なのかもね。

 全員を整列させたあと、私は自己紹介を始めます。

「私が当主であるアナスタシア・スカーレットですわ。どうぞよろしく」

 とりあえずは頭を下げて、様子を見てみます。流石に当主が頭を下げては全員が戸惑っていました。

 とはいえ、別段変わった様子もありませんね。

「まあそれで、私は貴方たち全員がランカスタ公爵家と繋がっていることを知っております」

 回りくどいのはやめです。はっきりと口にしておきましょう。

 私が居住する場所の使用人が抱き込まれていないはずがないのですから。

「毒殺、刺殺、あらゆる暗殺が考えられますわね。何しろメルヴィス公爵はイセリナ・イグニス・ランカスタを暗殺しようとしておりました。子爵でしかない私など人形同然に見ていることでしょう」

 流石に使用人たちは困惑顔をしています。

 顔合わせ早々にする話でもないのは重々承知しておりますが、私は洗いざらい口にするだけよ。

「ちなみにゼクシス男爵は王都へお帰り願いました。彼もまたメルヴィス公爵と契約していたからですの。恐らく王都では身体中に幾万という針を突き刺され、酷い拷問を受けることになるでしょうね」

 誰も言葉を発しない。

 恐らく聞いていた話と違うのでしょう。十七歳の小娘がおままごと的に領主となったのだとね。

「書面を用意いたしました。屋敷で働きたいのでしたらご署名くださいな。署名ができないというのなら、メルヴィス公爵領まで自費でお戻りください」

 ここで使用人がいなくなったとして問題ありません。そもそも身の回りのことくらい自分でできますからね。

 私はエントランスの調度品である机に紙を取り出し、術式を映写していく。

 ここはキツい強制力などなくても良いでしょう。ゲームが楽しめなくなってしまうもの。

「えっと、契約するとどうなるのでしょう?」

 執事が手を挙げて聞きました。

 メルヴィス公爵との繋がりを隠そうともしないのね。そんなことを聞くのは二重契約を恐れていると話しているようなものよ?

「別に何も。命に別状はございませんわ。もしも貴方様が私を刺し殺そうとするのなら、少しばかり頭が痛むくらい。死に至ることはございません。また二重契約となりましても、先方の契約には違反しないように作成しました。今後とも間者ライフが楽しめる契約となっております」

 私が説明すると執事の彼は真っ先に署名を終えています。

 書き終えたあと、自身の身体を確かめられておりますが、何も変化がないと分かって安堵されているようです。

「さあ、安全は確認できましたね? 残りの方たちもどうぞ」

 私が促すや、全員がサインを終えております。恐らく二重契約に関する不安があったのでしょう。

 ゼクシス男爵がそうであったように、即座に死ぬような縛りがあったのだと思われます。

 私は悪の根元を絶つだけだ。

 伸びた枝葉まで気にする必要はありません。
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