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第十一章 謀略と憎悪の大地

真紅のドレスに

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「お前らは手出しするな。この女は俺の獲物。使ったあとでなら貸してやるさ」

 やはり傭兵団の頭みたいね。全員が引いて、戦いを見届ける感じ。

 ま、かかってきなさいよ。夜どころか昼がくる前に、貴方はこの世から旅立つのよ。

「俺は足がなくても平気だ。動けなくしてから楽しませてもらうぜ!!」

 言って男が駆け出してくる。

 乱戦でないのなら、初手が全てだ。私は全力でナイフに魔力を流し、傭兵の長剣を受け止めるだけ。集中さえすれば、受け止められるはず。

「アナスタシア、俺様の前に這いつくばれぇぇ!!」

 怒声は聞き流す。私は視認できるほどの魔力をナイフに循環させ、その時を待つ。

 足を狙うと言ったのはサービスかしらね。私をただの令嬢と思わないで欲しいわ!

「こんのォォッ!!」

 刹那に甲高い音が周囲に木霊した。

 見守る全員が息を呑んだことでしょう。何しろ屈強な傭兵の一撃を小柄な私が受け止めていたのですから。

「なっ!?」

「斬り刻んであげるわ!!」

 狼狽えた男の右腕を狙う。魔力循環により強化されたナイフの切れ味を体験させてあげる。

「いけぇぇっっ!」

 スパンという軽い手応え。しかし、切断を疑わない私は攻撃を続ける。返す刃で左腕をも斬り落としてやろうと。

「終わりよぉっ!!」

 一瞬のあと、血飛沫が舞う。

 私の頭上から生温い血の雨が降り注いでいました。

「ぐおおぉぉおおおっ!?」

 男は両腕から血を噴き出しています。

 狙い通りに両腕を無効化できたようです。

「もう終わりかしら?」

「し、止血してくれ! お前ら斬りかかれ! 殺しても構わん!」

 嘆息するしかない。

 潔い死に様ではありませんわね。部下に助けを求めるだなんて。

「ハイドロクラッシャァァァ!!」

「がぁぁっっ!」

 おっと、マリィも追撃ありがとう。

 膝を突く大男を無視して、私とマリィは盗賊団を殲滅していく。

 二百人規模と聞いていましたけれど、一直線に向かってきた彼らは残念ながら一網打尽です。

「ハイヒール!!」

 ここで私は男を止血します。

 まだ死んでもらっちゃ困るの。貴方には色々と聞きたいことがあるからね。

「カイン、この男を縛り上げなさい!」

 カインに捕縛を指示。私は残党の殲滅をしなければいけませんの。

「ハイドロクラッシャー!」

 クルセイドの東端は炎と濁流によって滅茶苦茶になっていく。

 だけど、これくらいは仕方ありません。何しろ二百人という人数はちょっとした戦争なのですから。

 全てをメルヴィス公爵の責任とし、私は街を救った英雄と称えられましょうか。


 このあと十分ばかりで盗賊団は壊滅しています。

 まあしかし、マリィの火球はとんでもない威力になっていますね。ただのおデブではなく、ちゃんと彼女も成長しているようです。

 最後のハイドロクラッシャーを撃った私はようやくと後方に視線を向ける。

 すると、大歓声が私に向けられていました。

 剣術にて戦ったのは明らかにスタンドプレイでしたけれど、それでも浴びせられる喝采の声を聞くと、私は彼らの心を掴んだのでしょう。

「姫様、捕らえた男はどうしますか?」

「子爵邸に運び入れてください。尋問を行います」

 何か手がかりを得ないことには生かした意味がありません。

 またもやザックという名が聞かれるのではないかと思いますけれど、情報収集は必要だからね。

「皆様、何かあれば子爵邸までお越しください。これより区長を据えることはありません。全て私が解決いたしますので、困ったことや疑問に思うことがあればなんなりと申し付けてくださいまし」

 以降の方針を伝えてから、私は屋敷へと戻ります。

 思わぬ戦闘がありましたけれど、私は住民たちの支持を得られたかと思います。

 真紅のドレスを血に染めた価値は少なからずあったことでしょう。
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