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第十四章 迫る闇の中で
真相に気付く
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ランカスタ公爵家の別宅へと戻った私はアンジェラ・ローズマリーの日記を再び取り出していました。
パラパラと捲ったとして魔術が施されたそれは何万ページあるのか分かりません。
従って検索機能を使うより目的のページは見つからないことでしょう。
「呪いと魔王因子について……」
直ぐさま反応しています。
やはりアンジェラは自身が呪われたことを理解していたみたい。封印には成功したというのに、いつ呪われたというのでしょうか。
『黒竜の討伐報告を終えて一週間後。私の身体に変化が起きた。脇腹に呪印が現れていたのだ。魔力糸を調べると、その糸は北へと伸びていた』
黒竜は即時封印されたようで、その実は日記に描かれなかったシーンがあったのだと考えられます。
『魔法陣への誘導時にやられたのだろう。呪いは確実に黒竜が契約者だ。かといって、今さらどうにもできない。せっかく災厄を封印できたというのに、呪いを受けたくらいで解放するなどできるはずもないのだ』
ここでページが飛ばされていく。
何日が経過したのか、呪いについて再び記されています。
『どうやら私は魔王因子を植え付けられたようだ。発現すれば世界を滅ぼすという魔王。私は世界を救ったというのに、その世界を滅ぼす可能性がある。何とも皮肉な話だ』
アンジェラは呪いの根幹にあるものが何かを気付いたらしい。
闇属性が加えられた原因。それこそが魔王因子なのだと。
再びページが飛ぶ。かなりの日数が経過しているに違いない。今までで一番、時間がかかっています。
『双子が生まれた。呪いを受けた自分が子を成して構わないのか分からなかったが、授かってしまったのだから仕方ない。二人とも女の子だ。一人は夫に似て銀髪。二人目は……』
割とぶっ飛んだ展開です。
まさか出産報告が続けられるとは考えもしませんでした。
まあしかし、呪いというキーワードがありますし、黒竜との戦いよりも後であるのは間違いないでしょう。
『私と同じ赤髪。薄い桃色の髪をした女の子だった』
私は息を呑んだ。
「桃色……?」
火竜の聖女がピンク髪だったなんて、今まで少しですら聞いたことありません。
しかしながら、本人の日記に嘘が書いてあるはずもない。
『銀髪の子供には呪印があった。赤髪の子供にはない。どうやら私だけに影響を与える呪いではなく、代々受け継がれてしまうのだと思われる』
またもやページが飛んでいく。
嘆息するしかない内容でしたが、既に他人事とも思えません。
私は最後まで読んで、決断しなければならないことでしょう。
『クラリスとリサリアは大きくなっていた。上の子たちは既に私たちの手を離れていたので、残すところは双子だけとなった。クラリスの呪印は今も残っており、私たち親子は残念ながら黒竜と魔力糸で繋がったままだ』
何年が経過していたのか、双子は呪印の影響を受けることなく育っているみたい。
正直に悪影響があると考えていたのだけど。
『長年に亘って私は呪印を調べた。分かったことが一つだけある。恐らく黒竜もまた呪われているはず。魔王の種を植え付けられているに違いない』
急展開となります。
アンジェラは呪印の元凶を突き止めたようです。
大元は魔王であって、黒竜が原因ではないのだと。
『強大な黒竜に植え付けられた魔王因子。子を成すように呪いが拡散していく。ただし、魔王は子種の設置先を間違えたと思う。何しろ黒竜は強大すぎて、視界に入る全てを破壊してしまったから。結局のところ、魔王の子種は私と子供にしか残せていないのだ』
魔王因子が明らかになっていく。
どうやら本当に魔王という存在があり、黒竜を媒介として復活を目論んだようです。
『恐らく魔王の誕生には条件がある。私たち親子がキーなのは間違いないが、普通に生きるだけでは魔王は誕生しない。なぜなら呪印は私たちの生活に少しも影響を与えていないからだ。恐らく媒介する何かがある。魔王の種を発芽させるだけの力が必要なのだろう』
この記述こそがアマンダの悩み。
概ね天界の見解は正しいように感じます。
種はエリカにあり、発芽させる力とは王家の血なのだと思います。
『私は決断しなければならない。クラリスを生かすのかどうか。十歳になる我が娘をこの手で殺めるのかどうかを……』
クラリスとリサリア。どうにも他人事だとは思えませんでした。
現在まで受け継がれている呪いはクラリスの生存を明らかとしていますが、幸せだったのかどうかまでは推し量ることすらできません。
「あれ? ページが進まない……」
幾ら待ったとして、ページは飛んでいきません。
ずっと読んだままのところで止まっています。
「ちょっと、気になるところで終わるんじゃないって!」
自分の手でページを捲るも、そこからは普通の日記になっていました。
「うそ……?」
本当にここで終わりなの?
呪印によって亡くなったわけではないと思いますが、その可能性は否定しきれません。
「アンジェラは間違いなく愛娘を生かした。でも、それより……」
ここまでの話を要約すれば、現状の矛盾が見えてくる。
魔王が復活するというアンジェラの憶測によって。
「前世ではエリカのひ孫が魔王因子を発現させた……」
私が転生前に聞いていたことはルークとエリカの子が魔王因子を発現させ、魔王化して世界を滅ぼすといった内容です。
子供とひ孫には二代の隔たりがある。この問題を考えるとアンジェラの推測は間違っているのかもしれません。
「いや、セシルは庶子だし、血が薄れているという可能性もある。二代や三代くらいは誤差の範囲内かも……」
私はアンジェラの予想が正しいと思い直す。
王家の血と結びついた時点で、その内に魔王が誕生するのだろうと。
「早いか遅いかの違いだけ。それで結局、クラリスを殺せなかったのね……」
アンジェラは世界よりも我が子への愛を選んだのでしょう。
後々の災いとなるのは明らかでしたけれど、今に残る魔王因子はそう考えて差し支えない証拠といえます。
「アマンダは知っていたのね……」
結論は天界がこの話を知っていたこと。加えて、現在の魔王因子継承者がエリカしかいないことも。
もし他に残っていたのなら、この内容は私に告げられているべきものだし。
「流石にアンジェラの時代まで遡れなかったってことかな」
もしも、アマンダが魔王因子に気付いたのなら、アンジェラ・ローズマリーの時代にまで遡る必要があります。
「いや、遡ったとして黒竜を倒す術がなかった……。封印が最善であって、封印以外は世界が滅びたのかも……」
当時の時間に私が転生できたら良かったのですけど、恐らく現状は巻き戻せる限界です。
高宮千紗が召喚陣に引っかかる時点において、女神の裁量で巻き戻せるのはルークとエリカが生まれた時間軸だったのでしょう。
「まあでも、よく分かった。たぶんエリカの闇属性は除去できない」
そんな結論に至っていました。
なぜなら、考えていたほど単純な話ではないのです。
千年以上が経過した魔王の謀略。魔王因子こそが問題であって、付随的に付加された闇属性に意味はないのですから。
「まいったな。アンジェラがどうにもできなかった魔王因子を私が除去できるの?」
疑問しか思い浮かびませんが、やるしかないのは以前と同じです。
術式は練り直しとなります。問題となっていた原因が属性ではなくなったのですから、呪術にも似た魔王因子の解明が急務となります。
嘆息しつつも、私はアンジェラの日記を閉じるのでした。
パラパラと捲ったとして魔術が施されたそれは何万ページあるのか分かりません。
従って検索機能を使うより目的のページは見つからないことでしょう。
「呪いと魔王因子について……」
直ぐさま反応しています。
やはりアンジェラは自身が呪われたことを理解していたみたい。封印には成功したというのに、いつ呪われたというのでしょうか。
『黒竜の討伐報告を終えて一週間後。私の身体に変化が起きた。脇腹に呪印が現れていたのだ。魔力糸を調べると、その糸は北へと伸びていた』
黒竜は即時封印されたようで、その実は日記に描かれなかったシーンがあったのだと考えられます。
『魔法陣への誘導時にやられたのだろう。呪いは確実に黒竜が契約者だ。かといって、今さらどうにもできない。せっかく災厄を封印できたというのに、呪いを受けたくらいで解放するなどできるはずもないのだ』
ここでページが飛ばされていく。
何日が経過したのか、呪いについて再び記されています。
『どうやら私は魔王因子を植え付けられたようだ。発現すれば世界を滅ぼすという魔王。私は世界を救ったというのに、その世界を滅ぼす可能性がある。何とも皮肉な話だ』
アンジェラは呪いの根幹にあるものが何かを気付いたらしい。
闇属性が加えられた原因。それこそが魔王因子なのだと。
再びページが飛ぶ。かなりの日数が経過しているに違いない。今までで一番、時間がかかっています。
『双子が生まれた。呪いを受けた自分が子を成して構わないのか分からなかったが、授かってしまったのだから仕方ない。二人とも女の子だ。一人は夫に似て銀髪。二人目は……』
割とぶっ飛んだ展開です。
まさか出産報告が続けられるとは考えもしませんでした。
まあしかし、呪いというキーワードがありますし、黒竜との戦いよりも後であるのは間違いないでしょう。
『私と同じ赤髪。薄い桃色の髪をした女の子だった』
私は息を呑んだ。
「桃色……?」
火竜の聖女がピンク髪だったなんて、今まで少しですら聞いたことありません。
しかしながら、本人の日記に嘘が書いてあるはずもない。
『銀髪の子供には呪印があった。赤髪の子供にはない。どうやら私だけに影響を与える呪いではなく、代々受け継がれてしまうのだと思われる』
またもやページが飛んでいく。
嘆息するしかない内容でしたが、既に他人事とも思えません。
私は最後まで読んで、決断しなければならないことでしょう。
『クラリスとリサリアは大きくなっていた。上の子たちは既に私たちの手を離れていたので、残すところは双子だけとなった。クラリスの呪印は今も残っており、私たち親子は残念ながら黒竜と魔力糸で繋がったままだ』
何年が経過していたのか、双子は呪印の影響を受けることなく育っているみたい。
正直に悪影響があると考えていたのだけど。
『長年に亘って私は呪印を調べた。分かったことが一つだけある。恐らく黒竜もまた呪われているはず。魔王の種を植え付けられているに違いない』
急展開となります。
アンジェラは呪印の元凶を突き止めたようです。
大元は魔王であって、黒竜が原因ではないのだと。
『強大な黒竜に植え付けられた魔王因子。子を成すように呪いが拡散していく。ただし、魔王は子種の設置先を間違えたと思う。何しろ黒竜は強大すぎて、視界に入る全てを破壊してしまったから。結局のところ、魔王の子種は私と子供にしか残せていないのだ』
魔王因子が明らかになっていく。
どうやら本当に魔王という存在があり、黒竜を媒介として復活を目論んだようです。
『恐らく魔王の誕生には条件がある。私たち親子がキーなのは間違いないが、普通に生きるだけでは魔王は誕生しない。なぜなら呪印は私たちの生活に少しも影響を与えていないからだ。恐らく媒介する何かがある。魔王の種を発芽させるだけの力が必要なのだろう』
この記述こそがアマンダの悩み。
概ね天界の見解は正しいように感じます。
種はエリカにあり、発芽させる力とは王家の血なのだと思います。
『私は決断しなければならない。クラリスを生かすのかどうか。十歳になる我が娘をこの手で殺めるのかどうかを……』
クラリスとリサリア。どうにも他人事だとは思えませんでした。
現在まで受け継がれている呪いはクラリスの生存を明らかとしていますが、幸せだったのかどうかまでは推し量ることすらできません。
「あれ? ページが進まない……」
幾ら待ったとして、ページは飛んでいきません。
ずっと読んだままのところで止まっています。
「ちょっと、気になるところで終わるんじゃないって!」
自分の手でページを捲るも、そこからは普通の日記になっていました。
「うそ……?」
本当にここで終わりなの?
呪印によって亡くなったわけではないと思いますが、その可能性は否定しきれません。
「アンジェラは間違いなく愛娘を生かした。でも、それより……」
ここまでの話を要約すれば、現状の矛盾が見えてくる。
魔王が復活するというアンジェラの憶測によって。
「前世ではエリカのひ孫が魔王因子を発現させた……」
私が転生前に聞いていたことはルークとエリカの子が魔王因子を発現させ、魔王化して世界を滅ぼすといった内容です。
子供とひ孫には二代の隔たりがある。この問題を考えるとアンジェラの推測は間違っているのかもしれません。
「いや、セシルは庶子だし、血が薄れているという可能性もある。二代や三代くらいは誤差の範囲内かも……」
私はアンジェラの予想が正しいと思い直す。
王家の血と結びついた時点で、その内に魔王が誕生するのだろうと。
「早いか遅いかの違いだけ。それで結局、クラリスを殺せなかったのね……」
アンジェラは世界よりも我が子への愛を選んだのでしょう。
後々の災いとなるのは明らかでしたけれど、今に残る魔王因子はそう考えて差し支えない証拠といえます。
「アマンダは知っていたのね……」
結論は天界がこの話を知っていたこと。加えて、現在の魔王因子継承者がエリカしかいないことも。
もし他に残っていたのなら、この内容は私に告げられているべきものだし。
「流石にアンジェラの時代まで遡れなかったってことかな」
もしも、アマンダが魔王因子に気付いたのなら、アンジェラ・ローズマリーの時代にまで遡る必要があります。
「いや、遡ったとして黒竜を倒す術がなかった……。封印が最善であって、封印以外は世界が滅びたのかも……」
当時の時間に私が転生できたら良かったのですけど、恐らく現状は巻き戻せる限界です。
高宮千紗が召喚陣に引っかかる時点において、女神の裁量で巻き戻せるのはルークとエリカが生まれた時間軸だったのでしょう。
「まあでも、よく分かった。たぶんエリカの闇属性は除去できない」
そんな結論に至っていました。
なぜなら、考えていたほど単純な話ではないのです。
千年以上が経過した魔王の謀略。魔王因子こそが問題であって、付随的に付加された闇属性に意味はないのですから。
「まいったな。アンジェラがどうにもできなかった魔王因子を私が除去できるの?」
疑問しか思い浮かびませんが、やるしかないのは以前と同じです。
術式は練り直しとなります。問題となっていた原因が属性ではなくなったのですから、呪術にも似た魔王因子の解明が急務となります。
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