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第十五章 世界と君のために

依存する姫君

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 忙しい日々を過ごしていました。

 ぶっちゃけ貴族院は自由登校みたいなものでしたが、私が行かないとイセリナも休んでしまうので仕方なく毎日通っています。

 貴族院は平穏そのもの。上位貴族のご令嬢が多く廃爵となった今、私に突っかかってくる者は皆無です。

 エレオノーラは今も出席しておりますが、彼女は元々無害ですし何の問題もありません。

「アナ、帰りますわよ?」

 本日もつつがなく講義が終わり、帰宅する時間となっています。

「行きもそれくらい、ちゃちゃっとして欲しいわね?」

 どれだけ家が好きなのでしょう。成績もダンス以外は芳しくないし、まるでやる気がありません。

 まあしかし、私も別にやることがない。エリカの闇属性の除去に光明を見出せないから。

 恐らく、天界はある程度、事実を把握していたはず。何も語らなかったのは私がここまで到達するとは考えていなかったからでしょう。

 二人して馬車に乗る。ランカスタ公爵邸までは二十分もあれば到着しますけれど、イセリナは暇つぶしなのか、私に話しかけています。

「アナ、それでルーク殿下とはどうなったの?」

 喜々として問いを投げています。

 どう答えたら良いのでしょう。しかし、自分のフィアンセだった人の話を面白がって聞くかね?

「うんまあ、前向きに。イセリナのおかげだよ……」

 かといって、私は条件を付けてしまった。

 もしも私が相応しい地位を得られなければ、その座をエリカに譲るのだと。

 今となっては悩みの種だわ。ルークとエリカが結ばれることは確実にリセット案件だし。

「ふーん、その割に浮かれてないわね? アナなら飛び跳ねて喜ぶと思ってたのだけど?」

「それが喜んでもいられないのよ……」

 イセリナに話したとして解決する問題ではないのですけれど、私は愚痴をこぼすように全てを伝えています。

「……というわけで、最低でも伯爵位を得なきゃならないの。功を立てるっていっても、戦争なんかないし」

 何より期日が迫っています。

 胡蝶蘭の夜会まで、あと八ヶ月しかないのです。準備期間を含めると、それ以下しか時間はありません。

「アナは馬鹿ねぇ?」

 イセリナに言われるとムカつくわね。あんたよりずっと勉強ができるのに。

 ところが、イセリナは意外な解決策を口にしています。

「ランカスタ公爵家の養子になればどう?」

 私は声を失っていました。

 えっと、それは何? 二代に亘って髭の娘になれってこと?

「お父様は既に娘のように扱っているでしょ? 何の問題があるっていうの?」

 いやまあ、確かに。実の娘であった頃よりも、距離感は確実に近い。

「髭の娘か……」

「アナなら歓迎するわ。ワタクシの侍女も続けられるし、願ったり叶ったりですの」

「いや、王宮殿にはメイドが一杯いるでしょうに……」

 どうにもイセリナはコミュ力が不足しているように思う。

 私以外に心を開いていない気がするのよね。オリビアや髭よりも、ずっと私を気にかけている。

「ま、考えとく。全力で何らかの功績を残してみせるわ」

 今となってはエリカがルークと結ばれてはならない。

 私には世界線を動かすという使命があり、彼女の血にある魔王因子はどうすることもできないのだから。


 帰宅したあと、私は自室の机に向かっていました。

 既に根を詰める目的もなくなっていたのですけれど、日課的というか他にすることもなかったから。

「やっぱ、エリカに会っておこう」

 週末は所領に向かう予定です。

 そうなると私のモヤモヤはいつになっても晴れません。魔法科の彼女とはクラスが異なってしまったし、悩むくらいなら会っておきたい。

「闇に呑まれたとしたら……」

 不可解なことですが、私は転生前に聞かされていました。

 下手にエリカを誘導すると彼女は闇に呑まれ、異なる魔王因子が発現するのだと。

「あれって本当かしら? アンジェラの日記を読む限り、嘘だとしか思えないけど」

 世界にある魔王因子はエリカにあるものと、封印された黒竜のみ。

 この他に魔王因子があるなんて私には思えません。

「試してみよう……」

 そうと決まれば王宮殿に向かうしかない。今頃はシャルロットに勉強を教えているはず。

 許可されるか微妙なところですけれど、私は嘘をついてでもエリカと会うつもり。


 馬車の用意をお願いしていたところ、思いがけない事態になっています。

 公爵邸から現れたのです。昼寝をしていたはずの彼女が……。

「アナ、ワタクシも連れて行きなさい!」
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