青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ～取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても～

Epilogue

フィナーレ

　抱き寄せられたままの長い口づけ。

　現実か夢かも分からないフワフワとした感情に私は身を委ねています。

　名残惜しくも離れていく唇。私は薄く目を開きました。


　刹那に鳴り響く盛大な拍手。堂々とキスを交わした私たちを皆が祝福してくれている。

　私たちの想いが全員に伝わったのかもしれません。

「アナ、もう片時も離したくない」

　ルークが言いました。

　私だって同じ気持ちよ。だけど、残念ながら結婚式はまだ少し先の話。

　結婚式は盛大に執り行うからね。王国としての準備が私たちの気持ちに追いついていないのよ。

「ちゃんと捕まえていてよね？」

「もちろん！　アナは目を離すと、ドラゴン退治とか始めるからな……」

「私はそこまで戦闘狂じゃない！」

　二人して笑い合っている。

　ゴリゴリの武勇シナリオとなったアナスタシア・スカーレットの物語。

　その結末は内容に相応しくないほど愛に満ちていました。

「早く結婚式にならねぇかなぁ……」

「言っておくけど、私は一人の側室も認めないからね？」

「当たり前だろ。アナより素敵な女性がいるはずもない。回り道したけれど、俺はその時間に本当の愛を知れたんだ。君が全てだ。この命よりも俺はアナを大切に想っている」

　うっかり、ときめいてしまったじゃないの。

　歯の浮く台詞は前世で耳にたこができるくらい聞いていたのに。

「ルーク、愛してる……」

「俺もだ、アナ……」

　再び口づけを交わす。

　楽団が次の演奏を始められないくらいに、私たちは二人の世界に入り込んでいます。

　だけど、構わないよね。ルークは王国の第一王子なのだし、私は彼の婚約者なのですから。

「アナ、俺は君を幸せにするよ」

　ルークが続けました。

　何を今さら。当然すぎる話だわ。

「この今だって幸福の絶頂にいるのよ？　今よりも幸せにするなんて、ルークにできるかなぁ？」

「できるさ。俺はアナを幸せにできる」

　思わぬ返しに私は頬を赤く染めた。

　ルークが断言するのだから、きっと私は今よりも幸せになるのだろう。

　彼の愛を一身に受け、一日、一年と幸福を積み重ねていくはずよ。

　ルークへの返事は多くない。たった一言で良い。

　だから私は端的に返すの。

　この人生で得た全ての感情を込めて。


　幸せにしてね――――。





　～　Ｆ　Ｉ　Ｎ　～